中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/10/21 木曜日

米中間選挙分析(1):大敗が予想される民主党

Filed under: - nakaoka @ 22:44

米中間選挙まで2週間余となりました。ブログに掲載しませんでしたが、この間、何本も中間選挙に関する記事を書いてきました。今回は、9月20日に書いた物を掲載します。これ以降も民主党の劣勢はさらに鮮明になっています。10月25日発売の『週刊東洋経済』に5ページと比較的長い記事を寄稿しています。来週月曜の発売ですが、このブログと併せてご一読ください。目先の議論ではなく、どうしてオバマ大統領の支持率が低下したのか、なぜ民主党が大敗する可能性が強いのか分析しています。

民主党、両院で過半数割れの可能性も
11月2日に行われる中間選挙では民主党が大敗する可能性が強まっている。二年前の選挙で民主党は上院と下院で圧倒的過半数を占めたが、次の選挙では共和党と形勢が一気に逆転するかもしれない。アメリカでも無党派の有権者が増え、選挙のキャスティング・ボートを握るまでになっている。無党派の支持を取り付けないことには、選挙に勝てなくなっている。オバマ政権誕生の大きな原動力となった無党派が、民主党離れを引き起こしている。

9月23日に発表された世論調査機関ピュー・リサーチ・センターの無党派の意識調査では、11月の選挙で共和党に投票すると答えて比率が50%に達した。これに対して民主党に投票すると答えて比率は、43%に留まった。民主党が大勝した2006年の選挙では、民主党を支持の無党派は53%、共和党は45%であった。この2年間で、民主党と共和党の立場はまったく逆転してしまった。さらに自分の思想は保守的であると答えて比率も、前回の選挙では29%に留まったのが、今回は36%と増えている。オバマ政権の誕生はリベラル派の復権と分析されたが、アメリカ社会は再び保守化に向かって動き始めているようだ。保守派の評論家ペギー・ノーマンは「振り子はより速く、より短い軌跡で動いている」(「ウォールストリート・ジャーナル」9九月17日)と指摘しているが、アメリカの政治状況は急激に変化している。

オバマ大統領の支持率は50%を割り込み、本格的な景気回復の兆しは見えず、失業率は9%を上回る状況が続いている。CNNが七月に行った調査では、47%が最も重要な課題は経済であると答えている。二番目の財政赤字の13%を大きく上回っている。景気が選挙結果に大きく影響を及ぼすと言われるが、まさにその通りの事態になりつつある。

アメリカの政治の“変化”を期待した有権者は、オバマ大統領に対する失望を露わにしている。オバマ政権の実績も有権者にはほとんど評価されていないのが実情である。民主党の長年の悲願であった医療保険制度改革も、国民の60%が廃棄を望んでいる(ラスムーセン調査)。景気刺激策も財政赤字増大を招いただけだと厳しい評価が下されている。金融規制改革も思ったほどの国民の支持を得ていない。オバマ大統領が訴えた超党派によるアメリカの統合は、共和党の議会での徹底した抵抗で逆に党派的分裂は深まっている。

さらに今回の選挙で特徴的なのは、現職議員に対する批判である。NBCとウォールストリート・ジャーナルが8月に行った共同調査では、現職議員の再選を望むと答えた比率は31%に対し、新人を支持するという比率は56%に達している。有権者はワシントンの政治の膠着状況に不満を募らせているのである。

通常、中間選挙は与党に不利である。今回はそれ以上に民主党に逆風が吹いている。今回の選挙は、オバマ大統領に対する国民投票の色合いも強く出ている。「民主党の選挙で置かれた立場は不利な状況にあり、さらにここに来て悪化している」(「ニューヨーク・タイムズ」8月31日)。共和党下院のジョン・ベイナー院内総務は「下院選挙で共和党は100議席増やす」と豪語するなど、選挙は共和党に有利に動いている。

このままの状況が続けば、次の選挙は、クリントン政権のもとで行われた1994年の中間選挙の再現となる可能性が強い。この時、民主党は下院で54議席、上院で8議席を失い、共和党が両院で過半数を制した。今回の選挙予想では、下院で民主党は38議席失い、民主党は217議席、共和党は218議席となり、共和党が過半数を確保するとの見通しが一般的である。中には調査会社クックは、民主党は45議席失うとさらに厳しい予想をしているところもある。

上院は民主党が七議席失い、50議席(民主党系の無所属を含める)、共和党が48議席になると予想されている。ただ、まだ三選挙区の情勢が流動的で、その結果いかんでは共和党が過半数を獲得する可能性も残されている。いずれにせよ、民主党は上院でフィルバスター(議事妨害)を阻止するのに必要なスーパー・マジョリティの60議席を確保するのはほぼ不可能になっている。オバマ政権は二年にして完全にレーム・ダック化する懸念も出てきている。

共和党主流派に挑戦するティーパーティ候補
民主党と共和党の予備選挙は9月末に全て終わり、10月は本選挙に向けて選挙戦が展開されることになる。共和党の予備選挙では様々な波乱があった。それは保守派のティーパーティ運動の影響が至るところで見られたことだ。ティーパーティ組織は上院の13選挙区で候補者を擁立し、共和党主流派の候補に挑んだ。そのうちティーパーティ候補はネバダ州、ユタ州、コロラド州など8選挙区で勝利し、イリノイ州、インディアナ州、ワシントン州など5選挙区で敗北を喫している。

その中で特に共和党に衝撃を与えたのがデラウエア州の予備選挙である。同州はバイデン副大統領の選挙区で、民主党系の色彩の強い州である。民主党の現職上院議員が出馬しないこともあり、選挙情勢は流動的になっていた。共和党の州本部は元知事で、現職の下院議員マイク・キャッスルを支持していた。同氏は民主党のクリス・クーンズ候補と互角に戦い、十分に勝機はあると見られていた。

だが予備選挙の結果、カリフォルニアに拠点を置くティーパーティ・エキスプレスやサラ・ペイリン前共和党副大統領候補、全米ライフル協会が支援するクリスチン・オドンネル候補が勝利した。同候補は何度も選挙に立候補し敗北を繰り返している泡沫候補であるが、今回の勝利はティーパーティ組織が資金とスタッフを提供して勝利に導いたものである。

ただ、同候補は本選挙で民主党候補に対して勝ち目はないと見られており、トム・ロス州共和党委員長は「オドンネルに候補者の資格はない」と批判的なコメントを発表している。クーンズ候補も「超保守派にバイデンの議席を譲るな」と対抗意識を露わにしている。「ニューヨーク・タイムズ紙」は、オドンネル勝利で共和党が上院で過半数を制する確率は低下したと指摘している。

アラスカ州の共和党予備選挙では現職のリサ・マーコフスキー上院議員が、ティーパーティ組織やペイリンが支援するジョー・ミラー候補者に敗れるという番狂わせが起こった。ユタ州でも、共和党の現職議員がティーパーティ組織の推す候補に敗れている。ニューハンプシャー州では、ティーパーティ組織が支援するオヴィデ・ラモンターニュ候補は敗れたが、勝利した前同州司法長官のケリー・アヨッテ候補はティーパーティ組織と親密なペイリンの支持を得ている。

共和党の予備選挙に勝利しても、民主党候補を破って当選できるかどうか分からない。ティーパーティ組織の支援を得ているフロリダ州のマルコ・ルビオ候補、ケンタッキー州のランド・ポール候補は当初の劣勢であったが、急速に支持を伸ばしつつある。民主党候補が弱いと見られるカリフォルニア州、ウフィスコンシン州、ワシントン州でも共和党候補が優勢に選挙運動を進めている。もし、この三つの州で共和党候補が勝利すれば、共和党が上院で過半数を獲得する可能性が出てくる。

またネバダ州の上院選挙は、今後の政局に大きな影響を及ぼすとみられる。同選挙区の結果は、共和党のみならず、ティーパーティ運動にとっても重要な選挙となっている。共和党のシャロン・アングル候補はティーパーティ組織が支援する候補者である。同候補は民主党の現職の上院議員で、ハリー・リード民主党院内総務に挑む。もしリード議員が敗北すれば、民主党の後退をさらに強く印象付けることになるだろう。アングル候補はリード議員に代表される“古い時代の政治”の打破を訴えている。これに対してリード議員は既存の組織を総動員して、民主党支持層の掘り起こしを図っている。草の根運動を背景にアングル候補は勢いを付けており、予想外の結果が出ないとも限らない。

同床異夢の共和党とティーパーティ
ティーパーティ運動は必ずしも共和党と一体化しているわけではない。むしろ共和党主流派に対しては批判的な立場を取っている。ブッシュ政権の財政赤字拡大や移民政策などを公然と批判している。一部の論者は、ティーパーティ運動は第三党を目指す運動だと指摘している。デラウエア州の共和党の予備選挙のように、共和党主流派の候補に勝機があるにもかかわらず対抗馬を立て、共和党の勝機を潰す動きにも出ている。

保守主義の純化を主張するティーパーティは、共和党にとって両刃の存在である。勢い付くティーパーティ運動を取り込むことができれば、選挙を有利に展開することができる。しかし、選挙区によっては共和党候補とティーパーティ組織が反目し合う局面も予想される。ティーパーティ組織は、オバマ政権の政策を支持した共和党議員に対する批判を強めている。さらに超保守的なティーパーティ候補が全面に出てくれば、無党派層の離反を招く懸念もある。こうした共和党の状況を受けて、民主党は共和党とティーパーティ組織を結びつけることで、無党派層を呼び戻す戦略を検討している。

共和党は94中間選挙で大勝したが、その時、ニュート・ギングリッチ議員に率いられた共和党は「アメリカとの契約」と題する選挙公約を発表し、保守主義の復権を訴えた。今回、ベイナー議員に率いられる共和党は「アメリカへの誓約」と題する政策綱領を発表している。

劣勢に立たされた民主党には、反撃の切り札が見つからないのが実情である。民主党議員の中には、公然と医療保険改革法の廃棄を訴える議員も出てきている。またオバマ離れも際立ってきている。オバマ大統領の選挙支援活動も極めて鈍い。まだ投票まで一ヶ月あり党派層の動向如何では選挙結果は大きく変わってくる可能性もある。ただ、選挙の焦点が共和党が両院で過半数を占めることができるかどうかにあることは間違いない。

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