中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/10/22 金曜日

米中間選挙分析(2):無視できなくなったティーパーティ運動の影響力

Filed under: - nakaoka @ 0:25

中間選挙ではティーパーティー運動が大きな不確定要因になっています。当初はリベラル派の人々は、“草の根運動といいつつも、実際は保守派の団体から資金援助をえた”人工的な草の根“ではないかと疑っていました。しかし、最初のティーパーティーの集会が開かれたのが2009年の2月。それ以降、やや大仰な表現ですが、燎原の火のように全国運動へと発展していきました。基本的にはティーパーティー運動は”小さな政府“と”減税“を求める”リバタリアン“の運動でしたが、その主張は理バタリアンの主張を超えて広がる気配を見せています。この記事は8月に書いたものです。2月7日に本ブログに「始まった保守主義の反乱」という記事を掲載しました。この記事は、その続編ともいえるものです。日本ではなかなかちゃんとした情報が提供されていませんが、本稿はその意味で役にたつと思います。

オバマ政権が発足して10ヶ月、大統領選挙直後の高揚感は現実の前に次第に薄れつつある。オバマ大統領は政治的な対立を超克し、超党派による新しいアメリカの実現を訴えたが、共和党はことごとくオバマ政権の政策に異を唱え、党派的な対立は一層深刻化している。ワシントン・ポスト紙とABCの共同世論調査では、政権発足当初のオバマ大統領の支持率は68%と極めて高水準であったが、10月18日に発表された最近時点の調査では支持率は57%にまで低下している。

リベラル派の評論家サム・タネンハウスはオバマ政権直後に『保守主義の死』と題する本を出版し、新しいリベラルの時代の到来を議論している。しかし、死んだはずの保守派がゾンビのごとく蘇りつつある。それも従来の共和党という枠組みとは別のグラスルーツ運動として勢いを得つつある。アメリカの納税期限の4月15日に全国主要都市で増税反対、大きな政府反対、反オバマを旗印に大規模なデモが行われた。ある推計では350都市で320万人が参加したとの報道もある。同日に行われたラスムーセンの世論調査では、デモを支持すると答えた比率は51%に達している。その後も大規模なデモが行われ、9月12日にワシントンで行われたデモは、首都で行われた保守派の史上最大規模を記録している。こうした一連の保守派の動きは、「ティーパーティー運動」と呼ばれている。

アメリカの独立戦争のキッカケとなったのが1977年の「ボストン茶会事件」である。フランスとの7年にわたる戦争で財政的に疲弊したイギリス政府は「印紙条例」などを導入して植民地から税収を得ようとした。1773年にイギリス東インド会社にアメリカでの茶の独占販売権を与えたことで、イギリスと植民地アメリカの対立は一気に高まった。ボストン湾に停泊中の東インド会社の船の積み荷の茶を海に投げ捨てたことをキッカケにアメリカは独立に向けて動き始めた。今、アメリカで盛り上がっている増税に反対する「ティーパーティー運動」は、増税に反対したボストン茶会事件から名付けられたものである。

最初にティーパーティーという言葉を使ったのは2007年の共和党大統領予備選挙に立候補したロン・ポール上院議員である。同議員は”TeaParty07.com”というウエブサイトを開設して、ボストン茶会事件232周年を祝う集会の開催を訴えた。さらに2009年2月10日、保守派の活動家メアリー・ラコヴィックが「オバマ政権は社会主義を推進している」とオバマ批判を展開。保守派のテレビ局フォックスニュースの番組に招かれ、オバマ政権の景気刺激策を批判した。さらに2月19日、CNBCのコメンテーターのリック・サンテリが番組の中でオバマ政権の住宅政策批判を展開し、新サイト”ChicagoTeaParty.com”が開設された。こうして始まったティーパーティー運動は一気に全国的に広がり、4月15日の全国規模のデモへと発展していった。一連の大規模なデモに加えて、オバマ政権が医療保険制度改革を進めるために開催したタウンミーティングにティーバッガーと呼ばれる同運動の参加者が乱入し、メディアで大きく報道され、共和党惨敗で意気消沈していた保守層にアピールした。

こうした保守派の再結集の動きを、リベラル派を代表する経済学者ポール・クルーグマン・プリンストン大学教授はニューヨーク・タイム紙のコラム(8月7日付け)で「現在、オバマ支持者はまったく確信を失っている。おそらくそれはオバマ政権の凡庸な現実が改革を夢見る人々の期待を満たしていないからだ。これに対して、怒れる右派は情熱の高まりに満たされている」と分析している。

また1997年の議会選挙で共和党に大勝利をもたらしたニュート・ギングリッチ元下院議長はティーパーティー運動を「ワシントンの政治家の無責任な政策に対する我々の怒りと反対を表明する機会である」と語っている。中には
ティーパーティー運動を1970年代に全国的な広がりを見せた「納税者の反乱」と比較する専門家もいる。減税を求める納税者の反乱は保守主義運動の原動力となり、1980年のレーガン政権の誕生に結びついた。

この新しく生まれた保守のグラスルーツ運動は、アメリカの政治の現実を変える可能性を秘めているとの見方もある。それはウエブサイトやオンライン、ユーチューブなどを使った運動はオバマ候補が使った戦略を使ったものであり、草の根の大衆動員はリベラル派の常套手段を真似たものである。運動の主張は、大規模な財政政策による景気刺激に反対、増税反対、自動車産業や金融機関救済に反対、医療保険改革に反対、連邦準備制度理事透明化法案に賛成など、従来の保守派の主張を敷衍している。

その中で注目されるのは、共和党指導部に対して反旗を掲げていることだ。ブッシュ政権の政策を批判し、シカゴで開かれたティーパーティーの集会で発言を求めたマイケル・スチール共和党全国委員会の要請を拒絶している。2010年の中間選挙に向けても独自の動きを見せている。共和党は中道派の候補者を擁立することで議席増を狙っているが、地方のティーパーティー組織は保守系の独自の候補の擁立に向けて動いている。たとえば共和党本部はニューヨーク州の下院議選挙で中絶容認派の女性候補の擁立を計画しているのに対して、アップ・ニューヨーク・ティーパーティは保守色の強い候補を独自に擁立する動きを見せている。こうしたティーパーティー組織の動きは一面で共和党の支持基盤を活発化させているが、同時に党本部が狙っている浮動票の取り込み戦略を阻害する可能性もある。

中間選挙では下院議員の全員と上院議員の36議席が改選になる。上院の改選数は民主党と共和党ともに18議席で、共和党が過半数を確保するには36議席のうち28議席を確保しなければならない。これは数字的に非常に難しいが、現在、民主党が過半数を占めている下院では勢力が一気に逆転する可能性は否定できない。中間選挙は1年後だが、オバマ政権の実績如何では再び大きな変化が起こえないとも限らない。

まだティーパーティー運動の全容は分かっていない。地方レベルで自然発生的に生まれた保守派の草の根運動との評価がある一方、民主党のナンシー・ペロシ下院議長は「これは草の根運動ではない。金持ちの似非草の根運動だ」と語り、クルーグマン教授も同様な分析をしている(ニューヨーク・タイムズ紙4月12日付け)。両者とも、ティーパーティー運動の背後にはリチャード・アーミィ元共和党下院院内総務が指導者の組織「フリーダムワークス」が存在すると指摘している。要するに、一見、同運動は中央組織を持たない一貫性と統一性に欠けた草の根運動のように見えるが、極めて組織化された運動を展開しているというのである。

共和党のストラテジストのヴィン・ウエバーは「この運動は本物である」と語っている。フリーダムワークスのスポークスマンのアダム・ブランドンは「どんな運動もライフサイクルがある。この運動のライフサイクルは始まったばかりだ」と語っている。アメリカの政治の帰趨は、ティーパーティー運動がどのような広がりを見せるかによって大きく影響されることは間違いない。

3件のコメント »

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by Kousyou Yamano, ざっと読む人. ざっと読む人 said: 米中間選挙分析(2):無視できなくなったティーパーティ運動の影響力: 中間選挙ではティーパーティー運動 [...]

    ピンバック by Tweets that mention 中岡望の目からウロコのアメリカ » 米中間選挙分析(2):無視できなくなったティーパーティ運動の影響力 -- Topsy.com — 2010年10月22日 @ 09:41

  2. こんにちは、いつも応援しています。
    今日はご挨拶だけしにきました。

    ブログの更新楽しみにしています!

    コメント by かんな — 2010年10月29日 @ 14:43

  3. いつも拝見させていただいております。

    コメント by 韓国語 早期上達 学習法 — 2011年1月30日 @ 05:31

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