中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/10/30 土曜日

米中間選挙分析(3):直前予想-民主党の大敗は動かず

Filed under: - nakaoka @ 8:41

米中間選挙もいよいよ来週に迫りました。各種世論調査では民主党の大敗はまず間違いない状況です。オバマ大統領と民主党は“get-out-vote”戦略を取り、支持層の投票所に行くように呼びかけ、投票率の引き上げでダメージを最小限に抑えようと必死です。一部の報道では、民主党支持層が危機感を抱き、投票所に行くのではないかとの予想もあり、最終的にどのような結果になるか不透明な部分もあります。今回は選挙直前の分析です(ただ執筆は10月14日ですが基本的な状況は変わりません)。 

両院とも共和党が過半数を制するか

11月2日の中間選挙が迫っている。世論調査では、選挙日が近づくにつれて、共和党の優勢がより鮮明になっている。世論調査通りの結果になるとすれば、それは共和党の雪崩的勝利は確実で、民主党は惨敗を喫しることになる。選挙の焦点は、共和党が勝つのか、民主党が勝つのかという次元を超え、共和党がどれだけ議席数を増やすのか、下院と上院の二院で過半数を確保できるのか、あるいは過半数をどれだけ上回るのかに移っていると言っても過言ではない状況になっている。

上院は選挙前の議席数は民主党が59議席(無所属の2議員を含める)に対して共和党は41議席であった。改選数は民主党19議席、共和党18議席である。上院議員の任期は六年で、二年おきに三分の一の議席が改選される。今回の中間選挙の改選議席数は37議席である。したがって、非改選は民主党が41議席、共和党が23議席である。この数を見る限り、民主党が有利な立場にあることは間違いない。

しかし、影響力の強い政治ジャーナルの「リアルクリアポリティーク」の予想では、民主党の候補者の当選が確実な選挙区はわずか七議席に過ぎない。これに対して共和党は23の選挙区でほぼ当選を固めたとみられている。残りの6議席は接戦を展開している。同紙によれば、接戦を展開している6選挙区はいずれも民主党現職の選挙区である。仮にこの6選挙区で民主党候補が競り勝ったとしても、民主党の獲得議席は13議席に留まる。改選議席の18議席を五議席下回ることになる。民主党はかろうじて過半数を維持する計算になるが、その想定は極めて非現実的である。もし民主党が6議席をすべて失えば、共和党は11議席増の52議席の過半数を制することになる。

下院の情勢も同様である。同紙の予想では総議席数436五議席のうち民主党候補が固めたのは158選挙区、共和党候補の当選が有望な選挙区は211選挙区である。接戦区は39選挙区だが、そのうち2選挙区が共和党、37選挙区が民主党が議席を占めていた選挙区である。確率的に言えば、民主党が下院でも大きく議席を減らす可能性が強い。となれば、共和党は両院で過半数を占める公算が極めて強くなっているのである。他の世論調査もほぼ同様の結果を示している。

こうした選挙予想はギャラップ社の調査でも裏付けられている(10月11日調査)。登録有権者のうち共和党支持が47%、民主党支持が44%と共和党がリードしている。共和党51%に対して民主党は41%であった9月初旬の調査と比べれば、差は縮まっているとはいえ、まだ民主党は共和党に大きく差を開けられている。さらに象徴的なのは、オバマ大統領誕生の大きな原動力となった無党派層の動向である。同調査では、無党派層の46%が共和党を支持しているのに対して、民主党支持は38%に留まっている。

さらに、今回の選挙の象徴的な動きは、大統領選挙で大挙してオバマ候補の支持に回った若年層が一斉に民主党離れを起こしていることだ。若者を対象にした世論調査を行っている団体「ロック・ザ・ボート」が行った30歳未満の若者の支持政党に関する9月の調査では、60%がどの政党が議会で過半数を占めるかどうか関係ないと答えている。二年前の大統領選挙でオバマ候補の“チェンジ”の呼びかけに呼応して、理想主義に燃え上がった若者の姿は、もはやどこにも見られなくなっている。

また民主党の大きな支持基盤であり、オバマ大統領誕生の原動力のひとつであった労働組合も冷え切っている。今年1月に行われた民主党の地盤であるマサチューセッツ州の上院補欠選挙では民主党候補が敗れたが、その最大の要因は労働者が背を向けたためであった。さらに民主党の中核支持基盤である高学歴のリベラルなインテリ層も静かにオバマ離れを起こしている。

中間選挙は与党にとって厳しい結果が出るのは普通である。だが、それにしても、現在予想される民主党の“敗北”は、あまりにも深刻である。1994年に行われたクリントン政権の最初の中間選挙では、民主党は下院で54議席、上院で8議席を失い、共和党は両院で過半数を制した。今回の中間選挙は九四年の選挙の再演となるかもしれない。

国民からの遊離がオバマ政権の支持率低下の理由

CNNが7月に行った世論調査では、有権者の四七%が「景気」が最も重要であると答えている。2位は「財政赤字」で13%、3位が「不法移民」で9%であった。不況は有権者の生活を直撃するだけに最大の関心事である。オバマ政権が発足した2009年1月の失業率は7.6%であったが、10月には10.1%にまで上昇。その後、若干低下したが、それでも2010年9月には9.6%と高水準に留まっている。政権発足直後に史上最大規模の景気刺激策を講じたにも拘わらず、雇用情勢は悪化している。来年も9%台の失業率が続くとの見通しもある。こうした雇用情勢の悪化が、国民のオバマ政権と民主党に対する不満の要因であることは間違いない。

しかし、オバマ政権と民主党の支持率の低下の要因は、それだけだろうか。大恐慌のさなかに誕生したルーズベルト政権の時、オバマ政権と同様に政権発足後も失業率は上昇を続け、1年目の1934年3月の失業率は18%になっていた。だが、ルーズベルト大統領は大胆な指導力を発揮することでニューディール政策による大改革を成し遂げた。その時と比べれば、オバマ政権の置かれた状況はそれほど厳しいとは言えない。

しかし、オバマ大統領はルーズベルト大統領のように大胆な改革ができなかった。景気刺激策の規模は史上最大であったが、雇用創出の効果を発揮することはなかった。それは「雇用創出」と「財政赤字削減」という2つの相反する目標を目指したがゆえに中途半端なものに終わってしまったからだ。民主党の90年来の悲願であった医療保険制度改革も国民の六割以上の人々が廃棄を求めるなど、厳しい判断が下されている。オバマ大統領がグラス・スティーガル法以来の大改革であると自画自賛する金融規制法案も、内容はグラス・スティーガル法に及びもつかないものである。ウォール街重視という国民の批判にこたえるために急遽、“ボルカー・ルール”を導入したが、それも議会の審議で骨抜きになってしまった。

むしろ、多くの国民は巨額の税金を使っての金融機関の救済をウォール街優遇策であると醒めた目で見ている。金融機関の経営者に対する巨額のボーナスに対してオバマ大統領は「スポーツマンはさらに高額の所得を得ている。それは自由市場の原則である」と国民の神経を逆なでする発言を行うなど、次第に支持層から遊離していく。オバマ政権の経済政策は実質的にブッシュ政権の継承であり、新しいニューディール政策とリベラル派の結集を期待した支持者は、オバマ大統領に幻滅し始めていた。

外交政策では核軍縮を訴えたプラハ演説、イスラム世界との和解を訴えてカイロ演説、アメリカをアジア太平洋国家と位置付けた東京演説など新しい展開を見せたが、結局、その具体的な成果は乏しく、レトリックだけに終わった感がある。他方、イラク戦争が“ブッシュの戦争”なら、オバマ大統領はアフタニスタンへは増派を断行するなど、アフガン戦争は“オバマの戦争”の様相を示している。また、政治的な分裂を克服し、超党派による政治で国民の“統合”を訴えたが、逆に議会での共和党との対立は深まり、議会は機能麻痺の状況に陥った。行き詰る政治状況の中でオバマ大統領の指導力の欠如が露わになってきていた。

その一方でブッシュ政権に失望し、共和党から離反した保守層は減税や小さな政府を訴えるティーパーティ運動に共感し、再び結集する動きを見せている。国民は必ずしも共和党を信任しているわけではないが、オバマ政権と民主党に失望していることは間違いない。それが中間選挙の予想される民主党の“大敗”の要因である。中間選挙の結果は、2012年の大統領選挙にも暗い影を落とすことになるだろう。

1件のコメント »

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by Kousyou Yamano, ざっと読む人. ざっと読む人 said: 米中間選挙分析(3):直前予想-民主党の大敗は動かず: 米中間選挙もいよいよ来週に迫りました。各種世論 [...]

    ピンバック by Tweets that mention 中岡望の目からウロコのアメリカ » 米中間選挙分析(3):直前予想-民主党の大敗は動かず -- Topsy.com — 2010年10月30日 @ 15:26

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=336

コメントはお気軽にどうぞ