中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/11/5 金曜日

米中間選挙分析(4):アメリカのメディアが見た選挙結果

Filed under: - nakaoka @ 21:14

中間選挙が終わり、結果は様々な世論調査の予測通りになりました。まだ全議席は確定していませんが、以下で今回の中間選挙に関するアメリカ・メディアの報道に関して報告します。

 ①   選挙結果:

本稿執筆時点(5日午前)の段階での確定した議席数は以下の通りである。上院は民主党が改選議席19に対して6議席減らし、非改選と併せて52議席。共和党は6議席増やして46議席で、まだ決まっていない議席は2議席である。それはワシントン州とアラスカ州である。ワシントン州の選挙区の現時点での開票率71%で、民主党のMurray候補51%、共和党のRossi候補49%と、民主党候補がリードしている。アラスカ州は開票は終わっており、民主党のMcAdams候補が24%、共和党のMiller候補は34%、さらにwrite-in(正式な立候補者以外の候補者)が41%獲得している。下院の結果は、現時点で民主党が186議席、共和党が239議席、まだ確定していない選挙区が10選挙区残っている。現段階で民主党は60議席減らしているが、その数は増える可能性もある(なおRealClearPoliticsでは民主党186議席、共和党240議席、決まっていない選挙区9選挙区となっている)。下院の結果は、共和党が1938年以来の大勝となった。

 ②   出口調査の結果

ウォール・ストリート・ジャーナル紙(Democratic Coalition Crumbles, Exit Polls Say)によれば、民主党は伝統的な支持基盤である女性、中産階級、白人労働者、高齢者、無党派でいずれも共和党に負けたと報じている。前回の中間選挙(2006年)では、民主党が女性票で共和党を12ポイント上回ったが、今回の選挙ではほぼ互角になっている。特に白人女性票は、前回の中間選挙では互角だったが、今回の選挙では大半の白人女性が共和党に投票している。高齢者も前回の中間選挙ではほぼ互角だったが、今回は共和党に投じた高齢者が多かった。特に65歳以上の高齢層は共和党のオバマ政権の医療保険制度改革批判の影響を受けて、投票率が高まっており、そのかなりの部分が共和党候補に票を投じている。表題通り、民主党連合は完全に崩壊してしまったと分析している。

 また、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の別の記事(Unaligned Voters Tilt Rightward En Masse)は「無党派層が大量に共和党候補に投票したことが共和党の勝利を呼び、瀕死の状況にあった共和党を蘇らせた」と指摘している。下院で共和党は無党派層の得票率は55%を獲得。民主党は40%。2006年の選挙では民主党が57%、共和党が39%であった。無党派の支持は逆転してしまった。大統領選挙ではオバマは無党派の52%を獲得している。選挙結果は無党派の動向で決まる傾向が強まっている。民主党支持者の92%は民主党候補に、共和党支持者の95%が共和党候補に投票している。さらに郊外の女性、ブルーカラー、退職者も共和党支持に動いた。これらの層は医療保険制度改革などに反対する層で、「共和党はオバマ政権のアジェンダを阻止する力を得た」と指摘している。財政赤字問題が有権者の大きな関心であったことも、オバマ政権の批判に結びついた。同記事は、全有権者の39%、無党派の46%が財政赤字削減が次の議会の最優先事項であると答えている。また、ティーパーティ運動の影響に関して、「同運動の盛り上がりが有権者のセンチメントを変えることに成功した」と指摘している。同運動の財政赤字削減、小さな政府などの主張が国民の共感を呼んだ。なお出口調査では、ティーパーティ運動を支持すると答えたのは40%、反対と答えたのは31%であった。同運動が伝統的な保守層を掘り起こす役割を果たしたことは確かである。

 RealClearPolitics(Exit Poll: Unprecedented White Flight from Democrats)では、共和党は白人票で民主党を22ポイント上回った(60%対38%)。2006年の中間選挙では、その差は4ポイントであったことを比べると、白人票が大量に共和党候補に流れている。特にヒスパニック系が共和党候補に投票している(前回の中間選挙の3倍に増えている)。黒人票に大きな変化は見られない。同記事は、今回の選挙結果は、「民主党にとって(クリントン政権の元で行われ、共和党が大勝した)1994年の中間選挙よりも悪い」と指摘している。さらに興味深い指摘は、「無党派の白人は突然、オバマ大統領が黒人であることに気がついた」と、無党派層の民主党離れの理由を説明している。さらに同記事は選挙で最も重要なファクターは「リセッションだった」で、「リセッションとオバマ大統領の政策が同一視された」ことが民主党敗北の要因であったと指摘している。特に有権者には、オバマ政権は雇用問題よりも医療保険制度改革や環境問題を重視していると受け止められたことが響いた。民主党が雇用問題重視を打ち出した時、既に白人層は民主党離れを起こした後だった。同記事は、オバマ大統領は1966年のジョンソン大統領と同じ過ちを犯したとも指摘している。

 オバマ政権誕生の立役者は若者層であった。今回の選挙では、若者層の棄権が目立った。ワシントン・ポスト紙(Low turnout by young voters hurts Democrats in midterm election)は、「若者は2008年以来、十分な希望も変化も見ることはなかった」「民主党に対する幻滅があった」と指摘。出口調査では、18歳から29歳の年齢層は投票者の11%を占めるに留まった。大統領選挙では18%であり、その落ち込みは彼らが棄権に回ったことを示している。黒人も今回の選挙では全投票者の10%、2008年の選挙では13%で、3ポイント低下している。それも多くの黒人が投票所に行かなかったことを意味している。

 また、各種メディアは、民主党支持層と共和党支持層の間に“情熱ギャップ(enthusiasm gap)”が存在していたと共通に指摘している。民主党支持層はオバマ政権に失望し、投票に興味を失ったのに対して、共和党支持者は盛り上がったことが、選挙結果に響いたといえる。

 ③   民主党敗因の分析:

メディアは共通して民主党の敗因として、リセッションとオバマ政権の雇用問題軽視、医療保険制度改革、金融機関救済などを指摘している。政策問題と同時に、オバマ大統領個人にも大きな責任があるとの指摘もある。ハーバード大学のMarshall Ganz講師はロサンジェルス・タイムズ紙の寄稿(How Obama Lost His Voice, and How He Can Get It Back)の中で、オバマ大統領自身に問題があったと指摘している。すなわち、「オバマ大統領の指導力の欠如」が今回の選挙結果に現れたと分析している。さらにオバマ大統領と彼のチームは3つの深刻なミスを犯したと指摘している。まず、選挙運動の時にように道徳的な議論をしなくなったこと。さらに、妥協の政治を選んだこと。最後に、選挙の支持基盤を解体してしまったこと、である。その結果、オバマ大統領は支持者を鼓舞できず、次第に支持を失っていったという。同様の指摘は他のメディアにも見られ、オバマ大統領は国民との接点を失っていた。本記事のタイトル”lost his voice”は、そのことを象徴的に示した言葉である。Ganzは「傷付いた国民のために発言し、明確なポジションを示して世論を導き、国民の支持を鼓舞する代わりに、オバマ大統領は仲裁者の役割を演じようと考えていたようだ」と厳しい指摘をしている。

 同様の指摘はワシントン・ポスト紙(Tuesday’s results are open to (careful) interpretation)で見られる。同記事は「オバマ大統領は多くの人々との接点を失った(He lost touch with many people)」。その結果、オバマ連合は崩壊してしまった」と書いている。さらに無党派は民主党から離れたのではなく、「見捨てたのだ」とも指摘。オバマ大統領は政策の進展を国民は理解していないと発言しているが、同記事は逆に「国民はオバマ大統領が自分たちを本当に理解しているのかどうか疑問に感じている」と、お互いのすれ違いを指摘している。

 リセッションが中間選挙に影響を与えたとの見方が強い。オバマ大統領も3日に行った記者会見の席で、景気回復の遅れが選挙の敗因であると語っている。また大統領は、政権の政策は正しかったとの立場を取っている。これに対してフォーチュン誌It’s not just the economy, stupid)は、オバマ政権の政策そのものが問題だったと指摘している。もし「高失業率が決定的な要因なら、失業率が12.4%あるカリフォルニア州で現職の民主党のボクサー上院議員がなぜ共和党の強敵を破って当選したのか」と問いかける。多くの有権者は史上最大の景気刺激策は効果がなかったこと、医療保険制度改革に反対だったこと、要するにオバマ政権の政策に不満を抱いていたと指摘している。特に医療保険制度改革が国民の支持を得られず、たとえば、ウエスト・バージニア州の民主党のジョー・マンチン知事は同法の実施を見直すと公約している。また議会の投票で反対票を投じた34名の民主党候補は、その事実を選挙材料にしていると指摘している。

 ④   オバマ政権の今後:

残された任期の2年間、オバマ政権はレームダック化すると言われている。まず今後の議会運営はどうなるのか、さらに2012年の大統領選挙で再選かのうなのか、という問題がある。

 オバマ大統領は戦略転換するのかが、当面の大きなテーマである。オバマ政権に関してリベラル派と保守派はいずれも不満を抱いている。オバマ政権は中道派路線を取っており、その軸足をどう変えるのかに関して、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(Obama is dealt a tough hand)の中で分析している。オバマ大統領は記者会見で共和党との協調路線を強調、「雇用創出と民間部門支援で共通な地盤を見つけ出す」と語っているが、それはオバマ政権の路線転換を意味する。これに対して同記事は、ペロシ下院議長の「私たちはアメリカを新しい方向に導いてきた。過去に失敗した政策に戻ることはない」と否定的なコメントを紹介している。現実に共和党の求める要求をどこまで飲めるか疑問である。こうした融和・協調路線に対して、リベラル派の中には対決路線を進める声もあることを紹介している。共和党が多数派を占めていた1948年の大統領選挙でトルーマン大統領は再選を果たしたが、その時は対決姿勢を取り、議会での審議が進まないのは共和党のせいであると主張し、責任を共和党に転嫁したのが奏功した。これに関してアラン・リチマン・アメリカン大学教授はオバマ大統領に「原則に固執し、自分の政策を推し進めるべきだ。もし議会が受け入れなければ、議会を批判すればいい(stick to your principles, try to push your program. If Congress does not accept it, blame Congress)」とアドバイスしている。

 これに関して、ロサンジェルス・タイムズ紙(It’s not 1994 againの記事は、1994年の中間選挙で民主党は大敗し、共和党が両院で過半数を占めたときの例に触れ、オバマ大統領の政権運営の今後を分析している。当時のクリントン大統領とギングリッチ下院議長(共和党)の間には「生産的な超党派の取引が行われる時期があった」と指摘している。クリントン大統領は選挙で敗北したとき、「国民は我々に明確なメッセージを送った。私はそれを受け取った」と語り、医療保険制度改革などリベラルな政策を放棄し、歳出削減、減税、福祉政策で共和党に歩み寄っている。だが、同記事は同じことが今回も可能かどうか疑問を投げかけている。次期下院議長に就任することになるベイナー共和党院内総務は医療保険制度法の廃棄などを求めてくると指摘。それが協調路線か、対立路線かの大きなテストになると見ている。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(Potential Clashes That Lie Ahead)は、対立案件を以下のように列挙している。税金:1月1日に期日がくるブッシュ減税をどうするか。歳出:共和党は来年度予算で100㌦の財政赤字削減を要求するが、民主党がどう対応するか。財政赤字の上限は現在14.3兆㌦だが、この上限引き上げ法案が成立するかどうか。医療保険制度:共和党は改革の巻き戻しを要求、予算の一部を削除も。景気刺激策:オバマ政権は減税、公共投資などを提案しているが、減税問題と絡み、争点になる。START:民主党は新議会が始まる前に批准したい意向。共和党は阻止の構え。通商問題:韓国、パナマ、コロンビアとの自由貿易協定の批准問題。移民問題:民主党は不法移民に法的地位を与えようとしているが、共和党は国境警備強化と強制送還を取り上げる。

 こうした諸案件に対して妥協は難しいと指摘するのがCBSニュース(What’s next for Obama and Congress)で、ケンタッキー州上院選挙でティーパーティの支持を得て当選したランド・ポールの「我々は政権を取り戻すために来た」という発言を紹介している。ベイナー議員も「アメリカ国民は政府が医療保険制度を乗っ取ったことを懸念している」と語っている。また世論も分裂していると指摘。国民の39%が財政赤字削減を優先政策にすべきと答えているのにたいして、37%が雇用創出を優先すべきだと答えている。この主張はまったく逆で、「オバマ大統領は、ここからどこに進むことができるのだろうか」と、オバマ政権の困難な立場を説明している。

 オバマ大統領の再選と共和党の大統領候補に関してワシントン・ポスト紙(Looking ahead to 2010, Republicans sense opportunity)は「中間選挙は大統領選挙の信頼できる指標ではない。クリントン大統領は1994年の敗北にも拘わらず再選を果たした。レーガン大統領も1982年の中間選挙で共和党は敗北したが再選された」と指摘。むしろ問題はティーパーティ運動の盛り上がりで、共和党大統領候補が予測しがたくなったと分析している。同記事は候補者としてRick Santorum元上院議員、Romney元マサチューセッツ州知事、Gingrich元下院議長、Tim Pawlentyミネソタ州知事、Mike Hackabee元アーカンソー知事、Haley Barbourミシシッピ州知事などを挙げている。Palin元アラスカ州知事に関しては「彼女が支持した候補者の当選率は50%で、ネバダ州、アラスカ州では手痛い敗北を喫した」と書いている。

 ⑤   外交政策:

外交政策に関する論議はまだ出ていない。幾つかのメディアは「まずオバマ大統領戦略の見直しを図るべきで、予定されているアジア歴訪は中止すべきだ」というホワイトハウスのスタッフの発言を紹介している程度。

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