中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/11/9 火曜日

米中間選挙分析(6):出口調査から見た民主党敗北の要因

Filed under: - nakaoka @ 23:24

連続して民主党敗北の要因を分析しています。今回は出口調査をベースに分析します。敗北の決定的な要因は、オバマ大統領を誕生させた無党派層が、今回の中間選挙で共和党候補に投票したことです。さらにオバマ陣営を支えた若者層が、政権発足後、急速にオバマ離れをしたことです。どうしてオバマ大統領は最大の支持層を失ったのでしょうか。

米中間選挙は、大方の世論調査の予想通りの結果となった。共和党の雪崩的な勝利と、民主党の惨敗である。11月5日の時点で下院の435議席のうち確定している議席数は以下の通りである(以下、RealClearPoliticsの数字による)。民主党の獲得議席数は186議席、共和党は239議席である。まだ決まっていない議席は10議席ある。まだ票数が確定していない議席で判断すると、民主党は前回の選挙よりも61議席減らし、共和党が同数増やしている。過半数が218議席であるから、共和党は既に過半数を大きく上回っている。残りの10議席は激しい鍔迫り合いを演じており、どちらに転ぶか分からない状況にあるが、共和党圧勝には影響はない。

上院は100議席のうち、2年置きの選挙で三分一ずつ改選となる。今回は民主党が19議席、共和党が18議席の計37議席である。これも現時点(11月4日)で判明しているのは民主党が6議席失い、非改選を含めて52議席、共和党が6議席増やして46議席である。まだ決まっていないのは2議席(アラスカ州とワシントン州)があり、アラスカ州は共和党候補、ワシントン州は民主党候補が票数で若干リードしている状況にある。今回の選挙で共和党が下院では過半数を制することはまず間違いないと予想されており、焦点は上院で共和党が過半数の51議席を確保できるかどうかにあった。共和党が残り2議席を確保したとしても、上院では過半数を獲得するまでには至らなかった。

これは民主党にとって歴史的敗北である。過去の中間選挙の結果を見てみると、1994年にクリントン政権の元で行われた中間選挙で、民主党は下院で54議席、上院で8議席を失い、共和党が両院で過半数を制したことがあるが、いずれの党も下院で60を越える議席を失った例はない。1982年のレーガン政権の元で行われた中間選挙では、共和党は下院で26議席をうしなったが、上院では1議席増やしている。わずか2年前に行われた2008年の大統領選挙と議会選挙では、オバマ候補が圧勝し、議会選挙でも民主党が圧勝し、両院の過半数を得ている。過去の例と比べると、民主党の大敗振りがより鮮明になる。

2008年の選挙は泥沼のイラク戦争に足をすくわれたブッシュ政権の不人気とマケイン候補に対する反発から保守層が共和党に背を向けたのが最大の要因であった。保守層は完全に冷め切っていた。それと同時に、競争至上主義のネオリベラリズムの政策が所得格差を拡大させ、国民の間に不満が高まっているところに、金融危機による不況の直撃を受けた国民が、新しい政治を求めたことも民主党に幸いした。オバマ政権が誕生したとき、人々は“変化”を唱えるオバマ大統領とニューディール政策を実施し、アメリカ社会を根底から変えたフランクリン・ルーズベルト大統領の姿を重ね会わせてみていた。新しいリベラリズムの時代の到来を予想する声さえ聞かれた。グリーン革命や公共事業、減税といった新ニューディール政策がアメリカ経済を不況から救うという期待も高まった。

しかし、2008年の選挙で保守層が共和党に背を向けたのと同様に、今回の中間選挙ではリベラル派だけでなく、オバマ政権誕生の原動力となった無党派層と若者たちが民主党に背を向けたのである。民主党支持層が冷め切っていたのに対して、保守層は勢いを盛り返していた。立場がまったく変わってしまっていた。さらに、一般的に中間選挙は与党に不利だと言われている。なぜなら与党は政策の具体的な成果を問われ、受け身の立場に立たされるからである。しかも、選挙が行われる時の経済情勢も選挙結果に大きな影響を及ぼすと言われている。失業率が9%を上回る状況の下で戦わなければならなかった民主党は当初から苦戦が予想された。しかし、国民の選択は、民主党が想像するよりも遙かに厳しいものであった。選挙結果だけを見れば、国民は再び“保守の時代”に戻ることを選択したかのようである。この2年間に一体何がアメリカ社会に起こったのであろうか。

出口調査から見た選挙の動向―崩れる民主党の支持基盤

ルーズベルト大統領が大改革を成功させたのは強固な支持基盤を作り上げたからである。それは“ニューディール連合”と呼ばれ、インテリ層、労働組合、少数民族、移民、南部の人々で構成されていた。だが、オバマ大統領は“オバマ連合”を作り上げることはできなかった。大統領選挙の時に彼の元に集まり、少額の献金をし、ボランティア活動に身を投じた若者や無党派の人々は、2年間の間に完全に胡散霧消してしまった。問題は、それだけではなかった。オバマ大統領は国民との接点を完全に失っていた。ルーズベルト大統領の遺体を積んだ列車が通過するのを見送った人々は、「私は大統領のことを知らないが、大統領は私のことを知っている」と語ったように、ルーズベルト大統領は国民の言葉に耳を傾け、明確なビジョンを国民に語りかけた。「国民の1割の職や食料、住宅、衣料、教育、医療など十分に得ていないのなら、私たちは決死して満足してはならない」と、国民の権利を守ると主張し、大統領の座に12年間留まった。ニューディール政策について賛否両論あるが、同政策が戦後のアメリカの基礎を作ったことを疑うものいない。ルーズベルト大統領が明確な指導力を発揮したことを疑う者はいない。

だが、オバマ大統領は、国民との接点を失ったと言われる。マーシャル・ガンズ・ハーバード大学講師は「オバマ大統領は道徳的指導者の衣をまとって就任した。彼はアメリカの政治から長く失われていた価値に基づく変化を主張した。それが新しい世代を鼓舞し、信念を取り戻し、国民運動を作り上げた」と言う。さらに続けて、「国民は変化に備えていたのに、大統領が私たちに与えたのは変化ではなく、取引だった。国民の怒りと失望と苛立ちは、指導力を発揮しなかった指導者に向かった」と、オバマ大統領の問題を明確に指摘している。さらに同記者は、オバマ政権は3つの決定的な過ちを犯したという。まず、オバマ大統領は道徳的な議論を国民に訴えることを放棄したこと、2つ目は妥協による政治を選んだこと、3つ目は彼を当選させた運動を解体してしまったことだ。選挙運動中のように国民に高い道徳性のある語りかけをしなくなった。ジャーナリストのジョナサン・アルターは著書『The Promise』の中で「大統領就任2年目の後半からオバマは国民との結びつきをほとんどなくしてしまった」「オバマは語るべき物語を失ってしまった。そして選挙運動中に見られたオバマの魔法は消えてしまった」と書いている。記者との会見を嫌い、大統領専用機の中では個室に閉じこもり、大統領の携帯メールの番号を知っているのは15名程度と言われるように、イメージとは裏腹に“国民の大統領”の姿はそこにはなかった。アルターは、「国民は彼がアメリカを変えるのを待つのを止めるべきだ」というオバマ大統領の友人の言葉を紹介している。

中間選挙の結果はオバマ政権の政策に対する判断なのか、オバマ大統領に対する審判なのか拙速に判断はできない。ただ、かつて熱狂的にオバマ大統領を支持した人々の姿はもはやどこにもないことは間違いない。それと同時に伝統的な民主党の支持基盤も完全に崩れてしまった。従来、女性、中産階級、白人労働者、高齢者、無党派は民主党候補に票を入れてきた。だが、今回の選挙は様変わりの様相を示している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の出口調査では、2006年の選挙で民主党に投じた女性票は共和党よりも12ポイントも高かった。しかし、今回はほぼ同率になっている。白人女性に限って言えば、前回はほぼ同数だったのが、今回は圧倒的に共和党の候補者に票を入れている。高齢者も、従来、両党支持はほぼ同数であったが、今回は圧倒的に共和党に傾いている。

ワシントン・ポスト紙によれば、若者はもはや“変化”に対する希望を失い、多くは棄権に回っている。2008年の大統領選挙では18歳から29歳の投票者は全有権者の18%を占めていたが、今回は11%へと急減している。しかも、民主党候補への投票はさらに減っている。黒人も棄権が増えている。2008年の選挙では黒人の投票者数は全体の18%を占めていたが、今回の選挙では10%にまで低下している。民主党の支持基盤の崩壊は棄権の増加だけでなく、共和党の支持基盤の拡大につながっている。最大の有権者である白人は共和党へ60%、民主党へ38%に投票し、その差は22ポイントである。2006年の中間選挙では、その差はわずか4ポイントであった。

保守派が勢いを増す-ティーパーティ運動の果たした役割

リベラル派などオバマ大統領を支持したグループは、「オバマ大統領があまりにもやらなかった(do too little)」と考えて反発したのに対して、保守派の人々は「オバマ大統領はやり過ぎた(do too much)」ことを理由に批判の矛先を向けたのである。オバマ大統領は2年足らずの期間のうちに幾つかの重要法案を仕上げたと国民に訴えた。すなわち、史上最大の景気刺激策、医療保険制度改革、金融規制改革である。だが、それは穏健な保守層にも大きな不安を与えることになった。多くの国民は、景気刺激策は巨額の財政赤字を生み出し、医療保険制度改革も政府の肥大化を招く懸念があり、金融規制改革も本当に金融機関を規制する気があるのか疑わしいと感じていた。中産階級の無党派層にとって、いずれも受け入れがたい政策であった。ウォール・ストリート・ジャーナル紙の出口調査では、無党派の55%が共和党、40%が民主党に投票しており、「大量の無党派層の共和党へのシフトが2年前に死にかかっていた共和党を蘇らせた」と指摘している。2006年の選挙では無党派層の57%が民主党候補に投票し、共和党候補に行った票は39%に過ぎなかった。日本同様、アメリカでも政党離れが顕著で、選挙結果は無党派層の動向で決まる傾向が強くなっている。明らかに民主党は無党派層にソッポを向かれたのである。

保守派や無党派にエネルギーを与えたのがティーパーティ運動である。彼らの主張は特に目新しいものではない。政府が肥大化すること、すなわち小さい政府の実現を目指すことである。また国民の権利は憲法によって保障されており、議会も政府もそれを犯すことは許されないと主張し、医療保険制度改革は国民の選ぶ権利を侵害するものであると、その廃棄を求めている。13の州の司法長官は既に違憲訴訟を起こしている。またオバマ政権のもとで膨れあがる財政赤字に危機感を抱き、歳出削減を求めている。いわばティーパーティ運動は自然発生的に生まれた草の根運動で、財政保守主義の立場からオバマ政権を批判している。それが自信をなくしていた共和党に力強いロジックを与え、多くの国民の共感を呼んだといえる。アメリカでは“リベラル”は現在では悪い意味で使われることが多く、”big government, big spender”を連想する言葉になっている。ティーパーティ運動は、オバマ政権にそうしたイメージを与えることに成功したのである。ただ、同運動が支持した候補者が全員当選したわけではない。たとえば、同運動が最大の敵と位置づけていたネバダ州の上院選挙では現職のリード民主党上院院内総務がティーパーティ運動の候補者を破って再選を果たしている。

オバマ政権の行方-オバマ大統領の再選はあるのか

今回の選挙結果を1994年の選挙結果と比較する議論がある。クリントン大統領は中間選挙で大敗したにも拘わらず、再選を果たしている。両院で過半数を占めた共和党はニュート・ギングリッチ議長を中心にクリントン政権に攻撃を仕掛けた。だが、クリントン大統領は「選挙結果は国民の声である」として、共和党と妥協する道を選ぶ。すなわち、当初試みた医療保険制度改革は断念するなど中道右派路線に舵取りを変え、歳出削減、財政赤字、福祉政策などで共和党の政策を取り入れていく。

オバマ大統領は、議会を支配する共和党にどう対応しようとしているのだろうか。11月3日に行った記者会見で、オバマ大統領は共和党に協力を呼びかけている。だがクリントン大統領のように共和党との間に妥協点を見いだすことはできるのだろうか。また再選の道を拓くことができるのだろうか。APの世論調査では51%がオバマ大統領の再選を望んでいないと答えている。また民主党支持者の47%が民主党の大統領予備選挙で対立候補が出てくると予想している。かつてジョンソン大統領は予備選挙で勝ち目がないと判断して、現職でありながら出馬を取りやめている。

最初の試練は、医療保険制度改革の取り扱いだろう。共和党やティーパーティ運動は、同法の廃棄を選挙公約に掲げている。来年1月から始まる新議会で、共和党は医療保険制度改革の廃棄を求める法案を提出するだろう。下院は圧倒的多数で可決できるが、上院では民主党が過半数をかろうじて維持しており、簡単には成立しないだろう。ただ民主党の中にも選挙中に同法の廃棄を主張する議員もいた。仮に法案が可決されても、大統領は拒否権を発動して、阻止するのは間違いない。ただ、そうなれば共和党との協調路線も言葉通りには実現しないだろう。

民主党内でも意見は割れている。選挙結果を重視してオバマ政権は路線変更をすべきだと主張する議員がいる。いわばクリントン路線である。歳出削減、減税問題、通商政策などで共和党と妥協可能だとの指摘もある。これに対して「私たちはアメリカを新しい方向に導いてきた。過去の失敗した政策に戻すわけにはいなかい」と、民主党トップのペロシ下院議長は協調路線を批判している。また協調路線は左派のリベラル派の反発を招くだろう。リベラル派の中には、オバマ大統領が再選を果たすには原理原則に戻ることだと主張するグループも存在する。トルーマン大統領は共和党が両院の多数を占めていた共和党と対決姿勢を貫き、1948年の大統領選挙で「共和党の妨害で何も実現できない」と訴えたのが奏功し、再選を果たした例がある。協調路線を取るにせよ、対決路線を取るにせよ、オバマ大統領は国民との接点を再構築し、明確な物語を国民に語りかけなければならないだろう。あるいは2012年に向かって景気が急速に回復するのを祈るしかないだろう。“ニュー・オバマ”がどのような姿になるのか、そう遠くない日に明らかになるだろう。

2件のコメント »

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by 鈴木一郎, ざっと読む人. ざっと読む人 said: 米中間選挙分析(6):出口調査から見た民主党敗北の要因: 連続して民主党敗北の要因を分析しています。今回 [...]

    ピンバック by Tweets that mention 中岡望の目からウロコのアメリカ » 米中間選挙分析(6):出口調査から見た民主党敗北の要因 -- Topsy.com — 2010年11月10日 @ 07:10

  2. こんにちは。

    いつもブログ拝見させて貰ってます。
    毎回、楽しい話題が多くて更新が楽しみです。

    また遊びに来ま~す!

    コメント by まいちゃん — 2010年12月7日 @ 11:31

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