中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/12/16 木曜日

オバマの戦争:アフガン戦争でどれだけの兵士が戦死し、自殺しているのか

Filed under: - nakaoka @ 0:55

オバマ大統領はアフガン戦略の見直しを始めています。今や、アフガン戦争は“オバマの戦争”になっています。当初の目論見では、「大量派兵、早期撤退」が戦略でしたが、アフガニスタンの情勢は、オバマ大統領が考えるほど容易なものではありませんでした。アフガン担当のリチャード・ホルブルック特命大使の急死もあり、ますます情勢は混迷を深めています。そうした外交の背後に多くの兵士の死があります。規模はベトナム戦争ほどではありませんが、心を病み、自殺する兵士が増えています。今回は、その現状を分析しました。

 アメリカはイラク戦争とアフガン戦争の底なし泥沼に足を引き込まれ、展望を切り開けないまま、呻吟している。イラク戦争とアフガニスタン戦争遂行のために毎週、アメリカは30億㌦以上の資金を支出している。アフガニスタンへの増派が進めば、その額はさらに増える見通しで、金銭的負担がアメリカの納税者の肩に重くのしかかっている。

 さらに帰還後に精神を病み、退役軍人病院で治療を受けている退役軍人の数は数十万人を越え、さらにその半分はアルコール中毒とドラッグ中毒で苦しんでいる。アメリカが、この二つの戦争のために払っている代償はあまりにも大きい。ちょうどベトナム戦争の後のベトナム・シンドロームと同じ病にアメリカは苦しめられている。

 連続テロ事件後、米軍がアフガニスタンに侵攻したのは2001年10月7日。既にアフガン戦争は一〇年目に入っている。イラク侵攻は2003年3月20日で、八年を迎えている。イラクからの撤退計画は進んでいるものの、イラク政府への全面的な権限委譲はなかなか実現しない。11月20日にリスボンで開催されたNATO首脳会談でオバマ大統領とNATO首脳は、2014年までにアフガニステン政府に権限を委譲することで合意した。だが、「その移行はロード・マップというよりは単なる希望に過ぎない」(ポリティコ誌11月20日)。先行きの見えない戦争は当分続くだろう。

 ノーベル経済学賞学者で、コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授とハーバード大学のリンダ・ビルミス教授は、イラクとアフガニスタンの二つの戦争でかかる経費は4兆㌦から6兆㌦に達するという推計値を発表した。両教授は2年前に総経費は3兆㌦になるという推計値を発表しており、今回の予想数値は前回の数字を情報修正したものである。ブリミス教授は「退役軍人のためにかかる社会的、経済的コストの増加が、総経費の予想増加分を3分の1を占める」と説明している。

 海外に軍隊を置く経費は膨大である。議会予算局が昨年末に発表した論文では、アフガニスタンに一人の兵士を派遣するためにかかる年間経費は100万㌦である。海外に派兵を維持するためにアメリカ国民は毎月70億㌦を負担しているのである。

 財政的負担に加え、巨額の社会的な費用もアメリカ国民に重くのしかかっている。既にイラク戦争とアフガン戦争の兵士の死亡数は合計で5798名に達している(11月21日現在、ワシントン・ポスト調べ)。内訳は、イラク戦争で4414名、アフガン戦争で1384名である。負傷者を含めると、イラク戦争では3万6292名、アフガン戦争では4860名に達している。ちなみに当該国の兵士、民間人、同盟国の兵士、ジャーナリストを含めた死者の数は、イラク戦争で90万人以上、アフガン戦争で約2万人に達している。九年間続いたベトナム戦争での米兵の戦死者の数は5万8169名であり、それには遠く及ばないもののアメリカが膨大な人的な犠牲も払っていることに変わりはない。

 過酷な戦争の中で多くの兵士は病んでいる。精神障害を理由に除隊を命じられる兵士の数は急増している。2009年にPTSD(心的外傷後ストレス障害)で除隊を命じられた数は122四名で、2005年の745名を64%も上回っている。精神障害に加え、肉体的な障害から除隊した兵士の数も同時に増加しており、過去5年間に174%も増えている。さらに精神障害を理由にする除隊数が急増している。2005五年は6%強だったが、2009年は11%とほぼ倍になっている。

 こうした精神障害の増加は、戦場に繰り返し戦場に派遣されることが大きな要因となっている。米軍当局も「戦場へ繰り返し派兵されることと兵士の精神障害の間に明確な関係が存在する」と認めている。同じ兵士が繰り返し戦場に派遣れるのは、兵士の絶対数が足りないためである。しかも、派兵されている兵士の多くは州兵と予備役の兵士で、必ずしも職業軍人ではないのも大きな特徴である。

 例えば、最大の数の州兵を派遣しているオハイオ州では、来年には派遣数は3万人に達すると予想されている。アフガン戦争とイラク戦争が始まってから動員された州兵と予備役の数は77万8967名に達している。オハイオ州州兵組織のグレゴリー・ウエイト陸将補は「アメリカ軍の戦闘能力の51%は州兵と予備役が担っている」と語っている。

 無事に帰還しても、退役軍人を待っているのは厳しい現実である。精神的な病と社会への不適合で多くの兵士は自ら命を絶っている。2009年の自殺者の数は少なくとも334名に達している。これはイラクでの戦死者150名、アフガニスタンでの戦死者319名を上回る数字である。自殺者の数は、1980年来最高を記録している。昨年の兵士の自殺率は1000名に付き20.2名であった。また2001年以前の自殺率は10名であったことを比較すると、その上昇振りが注目される。

 さらに注目されるのは、自殺者の多くが精神的な問題を抱えており、その大半がイラク戦争かアフガン戦争に従軍し、退役後、市民生活に戻ろうとした兵士であることだ。退役軍人の20%から30%がPTSDを煩っていると推定されている。そのため、仕事に就けず、家族関係が崩壊し、ドラッグ中毒に苦しんでいる(国防総省の「健康関連行動の調査」による)。

 同調査によれば、20歳から24歳の退役兵士の約15%が失業状態にある。退役軍人局に推定では、最近時点で、15万4000名がホームレスで、その大半が路上生活者に落ちぶれている。労働省の資料によれば、イラク戦争とアフガン戦争から帰還した18歳から24歳の若い兵士の2009年の失業率は21.1%に達している。同じ世代の失業率16.6%と比べると遙かに高水準となっている。2008年が14.1%であったことと比べると、アメリカ景気の後退と共に失業率が上昇していることが分かる。

 また、失業中の退役軍人の多くが、複数回、戦場に配属された州兵や予備役の軍人であるのも、大きな特徴である。このことは、失業と精神的な病の間に密接な関係があることを示唆している。

 現在、アメリカ軍にとって士官クラスの優秀な兵士を確保することが緊急の課題となっている。しかし、兵士の採用状況に奇妙な現象が起こっている。軍への応募者の数が増加しているのである。2010年度の軍の採用予定数7万4500名に対して、実際に採用された人数は七万四五七七名であった。内訳を見ると、陸軍も海軍も海兵隊も空軍も目標の採用数を充足している。軍の採用担当者は、応募数の増加の要因は民間企業での就職が困難なこと、軍の雇用が安定していること、退役後、大学進学の奨学金がもらえることなどを指摘している。軍の採用担当者は、「過去の例からいえば、民間部門の失業率が1%上昇すると、軍への応募が0.6%増加する」と説明している。

 だが、兵士の質の深刻な低下が見られる。17歳から24歳の世代の75%は、軍が求める条件を満たしていない。優秀な人材を大学生に求めて募集活動をしているが、著名大学の協力が得られず、思い通りの採用ができないのが実情である。

 イラク戦争もアフガン戦争も長期化するのは避けられないだろう。だが、兵士の弱体化と空洞化が着実に進んでおり、アメリカ軍は国内で厳しい状況に対応しなければならなくなっている

3件のコメント »

  1. とても魅力的な記事でした。
    また遊びに来ます。
    ありがとうございます。

    コメント by あろえ — 2010年12月16日 @ 20:32

  2. アメリカは、国民も政府も「ランボー」から何も学ばなかったようですね。

    コメント by zax — 2010年12月17日 @ 21:57

  3. 体に気をつけてがんばってください。

    コメント by ネイティブ英会話教材 口コミ 評価 — 2011年1月29日 @ 01:28

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