中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/26 金曜日

アメリカの慈善家たちー日米の違い

Filed under: - nakaoka @ 2:34

日本とアメリカの大きな違いは金持ちの行動様式かも知れません。日本でも大金持ちはいますが、そうした人々が慈善事業など社会に富を還元したという話はあまり聞きません。日本とアメリカの力の差は、財団にある気がします。アメリカには多くの民間研究所があります。そうした研究所は、多くの財団(ファンデーション)から献金を受け、研究を行なっています。そうした研究の成果が政府の政策に生かされていくのです。ですから、日本のように政策立案が役人の独占になっているのとは基本的に違うのです。また、研究所はそれぞれ政治的、理念的な立場を明確にしています。たとえば、リベラルはブルッキングス研究所とか、保守的なヘリテージ財団といった表現が自然に出てきます。彼らは政策立案で競い合っているのです。もちろん、これ以外にも多くの慈善団体、施設があり、アメリカのお金持ちは、進んで献金します。その背景には、アメリカ社会はキリスト教の社会であり、持てる者が持たざる者に手を差し伸べるのは義務だという考え方があります。もちろん、税制の違いもあります。今回、アメリカの金持ちがどれだけの献金をしているか、お知らせします。

2000年から2004年の間の献金ランキングです。
1位 ビル・ゲイツ夫妻          100億8500万ドル
2位 ゴードン・ムーア夫妻         70億4600万ドル
3位 ウォレン・バフェット      27億2100万ドル
4位 ジョージ・ソロス       23億0100万ドル
5位 ジェームズ・ストアーズ夫妻   13億4600万ドル
6位 エリ・ブロード夫妻     13億3300万ドル
7位 マイケル・デル夫妻          9億3300万ドル
8位 アルフレッド・マン          8億3000万ドル
9位 ポール・アレン       7億3500万ドル
10位 ウォルトン・ファミリー        6億5000万ドル

1位のビル・ゲイツ、メリンダ・ゲイツは、マイクロソフト社のゲイツ夫妻です。ビル・ゲイツは、アメリカ最大のビル・ゲイツ・ファンデーションを持っています。彼は、世界最大の金持ちでもあるのですが、同時に世界最大の慈善家でもあるのです。同じIT関連で金持ちになり、その額を誇示している日本の若い実業家もいますが、そうした人が慈善活動に積極的に関わっているとは思えます。以前、シアトルのワシントン大学に行ったとき、あるビルが建設中でした。メアリー・ゲイツ・ビルと言う名前で、大学の施設の1つでした。メアリーはビルの母親の名前です。大学に寄付することで、大学教育を支援しているのです。

2位のゴードン・ムーアとベティ・ゴードン夫妻は、同じくIT企業のインテルの共同創業者です。彼らは海洋研究、看護婦養成施設に巨額の寄付をしています。その理由は、ベティが入院したときに嫌な経験をしたことが看護婦養成施設への寄付の動機になっています。

3位のバフェットは、カリスマ的な投資家です。株式投資をしている人なら、彼の名前を知らない人はいないでしょう。投資の神様です。ただ、彼は”ケチ”で有名な人物です。したがって、彼が3位にランクされるのは、特殊な要因があったからです。長年、別居していた妻が死んだため、その遺産が「バフェット・ファンデーション」に寄付されたためです。同調査では、夫婦は1組と計算されており、その結果、バフェットがランキングに登場したのです。ただ、バフェットはアメリカ屈指の金持ちで、死後、遺産は「バフェット・ファンデーション」に寄付されることになっているので、死後、最大の慈善家になるかも知れません。

4位のジョージ・ソロスは東欧からの移民で、ヘッジファンドという資産運用ファンドの運用で巨万の富を得た人物です。前の大統領選挙では、ケリーを支持し、膨大な額のお金を選挙運動団体に寄付しています。また、彼は「ソロス・ファンデーション」を作り、発展途上国における報道の自由の促進のための活動をしています。

8位にランクされているマンは、イスラエルとジョン・ホプキンス大学の理療施設に寄付しています。彼は「お金の価値は、あなたがお金を使って何をするかで決まる(Money is only worth what you can do with it)」と言っています。お金は貯めるのが目的ではありません(ただ、金儲けが人生の目的の人もたくさんいますが)。お金は、その使い方で価値がでてくるものなのです。

こうした寄付ランキングのリストを見ていると、なんだか日本人の心の貧しさを感じます。「ノブリス・オブリージ」、「貴族あるいは社会の指導者は、それに見合う責任がある」という意味です。指導者は自らの利得に走り、金持ちは金儲けの亡者になっている社会には、高貴な心持った人間は存在しないのかも知れません。西武グループの総帥堤義明氏は何度も世界有数の資産家と報道されましたが、彼が社会に何かを還元したという話は聞いたことがありません。資本主義社会は、弱肉強食の社会です。勝者の数以上に敗者がいる社会です。だからこそ、勝者は社会に対して何かを還元する、あるいは慈善活動をするということが意味を持ってくるのです。どのような社会も「分かち合う精神」があって、初めて成立するのではないでしょうか。

1件のコメント

  1. 格差を広げる力の強い日本の所得税…

     がんばった人間が税金をたくさん持って行かれるのはおかしい。そんな世論を後押しに、自民党は中曽根内閣から都合7回、24年にわたって所得税の最高税率を引き下げてきた。このことが、あまり注目されることがないのは、ある程度国民の間にコンセンサスがあるからだろ…

    トラックバック by まぁまの日記(啓発録) — 2008年7月25日 @ 19:51

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