中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/12/20 月曜日

カレル・ヴァン・ウォルフレン氏に聞く:なぜアメリカは駄目になったのか

Filed under: - nakaoka @ 16:44

オランダのジャーナリストで、現在はアムステル大学教授を務めるカレル・ヴァン・ウォルフレンさんに会った。15年くらい前、東京に住んでおられた彼のお宅を訪問したことがある。随分前のことだが、その話をすると覚えているとの返事だった。「お互いにジャーナリストから大学の教授になるなど似ているね」と会話を交わした。今回の来日では1ヶ月くらい滞在するとのことだった。彼は徳間書店から『アメリカとともに沈みゆく自由世界』と題する本を上梓したこともあり、本の狙いについて聞いてみた。1時間半くらいのインタビューでしたが、その一部を紹介します。

 ――ウォルフレンさんは、著書の中で「希望が急速にしぼんでいくにつれて、悲しいかなおよそ任務には適格ではない大統領の姿が見えてきた」と書かれています。その予想通り、米中間選挙で民主党は大敗し、“オバマの失敗”が明らかになりました。まず、オバマ大統領の失敗の理由をお聞かせ願えますか。

ウォルフレン 結果は半年以上まえから予想されていたことだ。民主党の敗北はアメリカにとっても好ましいものではない。というのは、共和党が下院で過半数を占めたが、有効な政策を打ち出せないだろう。共和党が選挙で勝利したのは、国民の間に恐れと嫌悪感を煽ったからだ。アメリカの状況はさらに悪化するのは間違いない。本の中に書いたように、中間選挙は“アメリカの悲劇”を鮮明にしただけだ。

 ――「民主党が負けた」のか、それとも「共和党が勝った」のか、どちらが適切な表現でしょうか。

 ウォルフレン 前者の表現の方が正しいだろう。オバマ大統領は就任当初から二つの大きな危機に取り組んだ。金融制度の破綻と戦争だ。大統領は危機を解決することができたが、実際にはそうしなかった。なぜオバマ大統領は公約を実施しなかったのか大きな疑問だ。私は本書の中でその疑問に答えようとした。

オバマ大統領には確固たる信念がない。必要な事柄を成し遂げるという信念を持っていない。彼は能弁だが、単なる“ブランド”にすぎない。ブランドには内実がなく、単なる幻想にすぎない。彼は自分の中に何かを成し遂げるという政治的な確信を持っていなかったのだ。

 ――オバマ大統領は『ローリングストーンズ』誌のインタビューで「自分はイデオローグではない」と行っていますが、政治的な信条を持っていないということでしょうか。

ウォルフレン その通りだ。彼は確固たる政治的意志を持つべきだった。選挙運動中に能弁に語ったが、その公約を実現することはなかった。その結果、国民の支持を失ってしまった。民主党の支持基盤であるリベラル派の人々からも見放された。

 ――本の中でアメリカの現状を“悲劇”だと書いておられますが、もう少し詳しく説明していただけますか。 

ウォルフレン ここで言う悲劇は、良い意図で始めたにもかかわらず、悪い結果がもたらされているということだ。ギリシャ文学の“悲劇”という言葉は、本来そうした意味で使われている。今のアメリカの状況はまさに悲劇そのものだ。例えば、アメリカのため、国民にとって良かれという善意から金融制度を作り上げたが、それが意図せざる悪い結果をもたらした。また外交においても、世界の脅威を排除するという良い意図で始まったが、結果的には間違いを犯してしまった。

 ――本書の中で、アメリカにとって冷戦の終結、9・11の連続テロ事件、テロとの戦い、金融危機という四つの転機、あるいは危機があったと指摘されていますね。

ウォルフレン その通りだ。それらを契機にアメリカは変わってしまった。冷戦の終結で強敵がいなくなり、アメリカにとって恐れるものはなくなった。その結果、アメリカは自己抑制を失ってしまった。それ以降、アメリカの他の国に対する態度が変わってしまった。他国に過剰に要求したり、権威的になっていった。大統領の権力も絶大になっていった。他国の抵抗を気にすることなく、世界的規模で自国の経済的拡張を図ることが可能になった。そうした傲慢さが連続テロ事件で明らかになった。アメリカは、その悲劇を自らのチャンスに変えることができたのに、そうはしなかった。むしろ政治的に利用した。

そしてテロとの戦いを始めた。これは誰にでも受け入れやすいスローガンだが、ファンタジーにすぎない。任意に選んだ国を侵略、攻撃する大統領の権限を正当化するフィクションであった。ネオコンたちは、アメリカは世界をコントロールすべきだと考えるようになった。そしてイラク戦争を始めたが、実はイラク攻撃は以前から計画されていたことだ。

第四の危機である金融危機はアメリカのシステムに対する信頼を完全に失墜させた。金融危機は自らを抜本的に変えるチャンスであったが、オバマ大統領はそうはしなかった。日本やドイツなど欧州の国が犯した最大の失敗は、オバマ大統領が時計を逆転させてくれるのはないかと期待したことだ。だが、現在、それが幻想であったことは分かった。

 ――また本書の中でアメリカのリーダーシップは幻想であるとも指摘されています。

ウォルフレン 人々がリーダーシップを認めるときは、その国が積極的な役割を果たすという期待がある。冷戦時代は、アメリカには自由世界を守る役割を果たしていた。当時のアメリカのリーダーシップには意味があった。しかし、現在のアメリカのリーダーシップは意味をなさなくなっている。アメリカは多くの戦争や経済危機を引き起こしている。それはもうリーダーシップとは言えない代物だ。アメリカの政策はパワーに依拠したもので、制御不能になっている。世界で起こっている多くの問題は、アメリカが世界をアメリカの価値観で満たすのが使命だと思っているところから起こっている。

 ――なぜヨーロッパはアメリカの暴走をチェックできないのですか。

ウォルフレン それは大きな問題で、私が本書を書いた動機のひとつだ。ヨーロッパはアメリカに「ちょっと待て。その行動はクレイジーだ」と言うべきだ。しかし、イラク戦争が始まったとき、フランスやドイツは反対したが、途中で黙認するようになった。それは、それらの国の弱さだと思う。ヨーロッパの指導者は国民にイラク戦争の意味を明確に説明しなかった。独仏のメディアも同類で、日本のメディアもアメリカのメディアのコピーでしかなかった。

 ――アメリカを変える内的な圧力が必要だと書かれていますね。

ウォルフレン それはあくまで可能性であって、実際にアメリカを変える内的な圧力が出てくるとは思わない。ただ状況がさらに悪化すれば、外的な圧力が加わるだろう。ドル暴落のような事態が起これば、アメリカも対応せざるを得なくなるだろう。

 ――アメリカには自己修正能力はないのですか。

ウォルフレン 今のアメリカにはそうした機能はない。アメリカのメディアは大企業の影響下に置かれており、かつてのような機能を果たせなくなっている。リベラル派も右派の攻撃に直面して、自己主張できなくなっている。反戦運動もベトナム戦争の時と比べると信じられないほど弱い。このままではアメリカはゆっくり崩れていくことになるだろう。

6件のコメント »

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by KK28 RSS, ざっと読む人. ざっと読む人 said: カレル・ヴァン・ウォルフレン氏に聞く:なぜアメリカは駄目になったのか: オランダのジャーナリストで、現在は [...]

    ピンバック by Tweets that mention 中岡望の目からウロコのアメリカ » カレル・ヴァン・ウォルフレン氏に聞く:なぜアメリカは駄目になったのか -- Topsy.com — 2010年12月20日 @ 18:40

  2. はじめまして。
    今後もお願い致します。

    コメント by 和崎楽遊。 — 2010年12月21日 @ 18:09

  3. とても魅力的な記事でした。
    また遊びにきます。
    ありがとうございます。

    コメント by あろえ — 2010年12月26日 @ 13:06

  4. いつもいつも為になる記事をありがとうございます。

    コメント by ネイティブ英会話教材 口コミ 評価 — 2011年1月29日 @ 01:00

  5. また、伺います。

    コメント by 原因不明の不妊症の治療法! 自然妊娠 確率 改善法 — 2011年2月11日 @ 10:56

  6. こんにちは、いつも応援しています。
    今日はご挨拶だけしにきました。

    ブログの更新楽しみにしています!

    コメント by まいちゃん — 2011年2月12日 @ 17:53

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