中岡望の目からウロコのアメリカ

2011/4/6 水曜日

2012年大統領選挙分析:共和党候補にダークホース登場も

Filed under: - nakaoka @ 15:14

2012年の大統領選挙に向け、共和党の大統領候補選びが本格的に始まった。オバマ大統領の支持率はやや持ち直し傾向にあるとはいえ、依然としてかつてのような勢いはない。4月5日に行われたラスムーセン社の調査ではオバマ大統領の支持率(strongly support)はわずか24%と不支持率(strongly disapproval)は40%と、不支持率が大きく支持率を上回っている。同じくラスムーセン社が行った政党支持率調査では、共和党支持が44%、民主党支持が39%と民主党に厳しい結果がでている。次回の大統領選挙は、共和党にとって政権奪回の絶好のチャンスであることは間違いない。オバマ大統領は正式に再選出馬を発表した。焦点は共和党の対立候補が誰になるかである。以下、共和党の予備選挙に向けての候補者と見られている政治家の動向を分析する。

 まだ正式に出馬表明をした候補者はいないが、共和党の有力な候補者の名前はほぼ出そろった観がある。世論調査で他の候補者を一歩リードしているのはミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事とマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事である。今年に入ってから行われた13回の世論調査でハッカビーが9回最高の支持率を得ている。続いてロムニー氏が4回最高の支持率を獲得している。平均では、ハッカビー氏の支持率は19.9%で、ロムニー氏の支持率は18.3%を若干リードしている。ただ、2月18日にワシントンで開催された全国の共和党系の草の根活動家が結集した「保守政治行動会議」で行われた支持率調査ではロムニー候補が他の候補者を圧倒する支持率を獲得している。両候補に続くのがペイリン氏で、平均支持率は13.1となっている。

 保守派のティーパーティ組織の支援を受け、最有力候補と見られていたサラ・ペイリン元アラスカ州知事は苦戦を強いられている。平均支持率は3位に付けているものの、ジリ貧的な傾向が見られる。同氏は昨年1年間に政治献金を133万㌦を集め、ロムニー氏の79万㌦、ハッカビー氏補の14万㌦を圧倒している。保守派層の間で人気はあるものの、大統領候補としては、今ひとつ魅力が欠けるというのが実情といえる。

 特にアリゾナ州ツーソンで起きた民主党議員の狙撃事件が大きく響いている。その言動が狙撃事件を誘発したという批判が浴びせられ、ペイリン氏は「メディアの攻撃が不当である」と必死に反論を試みた。その際、不用意に「ブラッド・リベル(Blood Libel)」という言葉を用い、批判の火に油を注ぐ結果となった。この言葉を“いわれのない批判”という意味で使ったようだが、元々は「ユダヤ教徒が異教徒の子供を殺し、その血で種なしパンを作った」というのが語源である。人種差別的な用語を使ったとして大統領としの資質に疑問が投げかけられている。当分の間、イメージの修復に追われることになるだろう。

 「ダークホース」が急浮上

 ロムニー氏やハッカビー氏は前回の大統領予備選挙で候補者となった人物である。両氏以外では、ニュート・ギングリッチ元下院議長、ロン・ポール下院議員などの名前が取り沙汰されているが、いずれも新鮮味に欠けるきらいがある。現職のオバマ大統領の対抗馬としてはやや力不足である。そんな中でワシントンでは2008年のオバマ候補のような「ダークホース」の登場が取り沙汰されている。その最右翼はジョン・ハンツマン駐北京大使である。同氏が共和党の元ユタ州知事であるにもかかわらず、オバマ大統領がたっての希望で中国大使に任命した人物である。

 ハンツマン氏の政治的立場は「中道派」であり、しかも要職である駐中国大使に任命されたことを見ればわかる通り、民主党との関係も深い。そもそも、オバマ大統領が同氏を中国大使に選んだ最大の理由は、12年の大統領選で有力な対立馬になることを阻止するためだと言われている。ちなみにヒラリー・クリントン候補を国務長官に任命したのも、再選を図るためであった。事実、オバマ大統領の選挙参謀のデビット・プロウフ氏は「ハンツマンは次期大統領選で最も手ごわい共和党候補になる」と語っている。1月のホワイトハウスでの記者会見でオバマ大統領はハッツマン大使の大統領選挙出馬の可能性について聞かれた時、「彼は私にとって重要な資産であり、当然、共和党にとっても重要な資産になるだろう」とはぐらかした。

 ハンツマン氏は現在までのところ、「立候補するか」という質問に対して「否定も肯定もしない」と語っている。しかし、ワシントンの豪邸を購入したことが明るみに出て現実味を増しているのだ。政治専門誌「ヒル」(1月24日付)も、「スターが生まれた」と題する記事で、同氏が「大統領か副大統領の有力者リストに載っている」と紹介している。

 政策的には、同性婚を認め、環境政策でもリベラルな立場を取っている。知性派で、大富豪であり、外交経験も豊富で、ユタ州知事としての実績も大きい。共和党にとって得難い人物であることは間違いない。共和党が保守化する中で、保守層がどう反応するか不確定だ。同氏もそれを十分に認識しており、やや保守よりにシフトする動きを見せている。大統領選挙で勝利するためには中間層の支持が不可欠である。保守路線を突っ走って共和党の大統領候補になっても、選挙での勝利はおぼつかないだろう。ハッツマン氏はある意味で勝てる候補であり、保守層も最終的に歩み寄る可能性も十分にある。ある共和党幹部は昨年の中間選挙で党が右に傾きすぎたことを懸念し、「中道派の候補者を求めている」と語った。共和党の戦略家ジョン・ウィーバー氏も「右派と先見性のある中道派の和解を実現できる人物が必要」だとしてハンツマン氏に期待を寄せる一人だ。やはり最大のポイントは、オバマ支持層から中道派を奪うことができる唯一の共和党候補者である点だ。同氏は「いろいろな可能性を検討したい」と、4月に中国大使を辞任する意向を明らかにしている。まだ予備選挙に打って出る意志表示をしていないが、予備選挙の台風の目になることは間違いないだろう。

 ただ、同氏の世論調査での平均支持率は1.3%で、有力10候補の最下位とまだ全国的な知名度も低く、保守派の心を掴むまでには至っていない。もうひとつ、同氏はモルモン教とで、同じモルモン教とのロムニー氏と競合する関係にもある。また、現時点では、同氏は正式な出馬表明をしていない。それでも、要注目人物であるのは間違いないだろう。オバマ大統領も2007年初めの段階では泡沫候補に近かった。予備選挙直前までヒラリー・クリントン候補に大きく水をあけられていたのが、わずか2ヶ月で一気に浮上した例もある。

 つけ入る余地は十分

 他にも候補者の名前は上がっている。オバマ大統領に挑む「黒人候補者」も出てきた。ネブラスカ州に本社を置くイタリア料理店チェーン前最高経営責任者のハーマン・ケイン氏だ。1月12日に大統領出馬調査委員会を立ち上げ、出馬に向けた動きを始めている。ビジネス界出身で、ワシントンの政治に染まっていないのも魅力になる可能性を秘めている。また、昨秋の中間選挙で共和党躍進のきっかけとなった、ティーパーティ運動の支持も得つつあるという。

 こうしたなかで、「右派」も立ち尽くしているわけではない。ペイリン失墜の間隙を縫って急浮上しているのが、「共和党保守派の星」とも称されるミネソタ州選出のミシェル・バックマン下院議員だ。同議員は1月23日、最初の共和党の党員投票が行われるアイオワ州を遊説し、「オバマ大統領の医療保険改革法を破棄するためには別の大統領にしなければならない」と訴え、「個人的な野心から大統領候補になろうと思っているのではない」と意欲満々の演説を行っている。中間選挙でティーパーティ運動が推薦する女性候補が躍進したことは記憶に新しい。バックマン議員が保守派をまとめ切ることができれば、ペイリン氏にとって代わる有力候補となり得る。

 支持率が回復したオバマ大統領は、ツーソンの狙撃事件以降、銃規制に関して発言していない。メディアは、これを「オバマ大統領の奇妙な沈黙」と評している。ニューヨーク・タイムズ紙(1月21日付)は、その理由を、「銃所有の大半は白人であり、南部と中西部に住んでいる。彼らはオバマ大統領が再選を果たすために必要な票である」と説明した。

 しかし今後、「銃規制議論」が始まるのは間違いない。共和党の下院議員でさえ、事件直後に銃規制法案を提出する意向を表明しているのだ。そして、民主党支持層に銃規制派が多いのも動かせぬ事実だ。オバマ大統領がこの問題への対処を誤れば、無党派層は取り込めても、自らの支持層が流出するという事態も招く。つまり、新鮮で強力な候補さえ出現すれば、共和党にも十分に付け入る余地は存在するのだ。

3件のコメント »

  1. とても魅力的な記事でした。
    また遊びにきます。
    ありがとうございます。

    コメント by 職務経歴書の見本のダウンロード — 2011年4月11日 @ 00:17

  2. 中岡望さんいつもブログ読ませてもらっています。

    自分が翻訳をてがけたロン・ポール本が、やっと日本で出版されました。題は「他人のカネで生きているアメリカ人に告ぐ」です。よろしければ、ご一読ください。
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    ロン・ポールはそろそろ、2012年の大統領選挙に立候補ようです。今のように乱世ですから何があっても不思議ではないでしょう。非常に楽しみです。

    コメント by 佐藤研一朗 — 2011年4月16日 @ 11:19

  3. オサマ・ビン・ラディンの一件もありましたので、オバマ大統領の再選は間違いないのではないでしょうか?共和党からはペイリン氏が出るものと思われます。ペイリン氏の支持母体は保守層だと思いますので、発言はそう大きなダメージではないでしょう。有色人種vs女性候補となんだか変な大統領選になるのだろうと考えました。

    コメント by ベトナム株 — 2011年5月20日 @ 23:20

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