中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/26 金曜日

国際基督教大学の授業案(シラバス)

Filed under: - nakaoka @ 8:22

私は現在、国際基督教大学の非常勤として学生に教えています。今年度は「日本企業と日本社会」というコースを春学期に教えました。学生は70名ほどで、約30名がが留学生、40名が日本人学生で、授業は英語で行ないました。冬学期は「アメリカ研究」を教えます。本ブログで何度も触れたように、アメリカ社会のリベラリズムと保守主義の問題を取り上げる予定です。なお、来年度は、これの加えて大学院で「日本経済論」と「国際経済論」を英語で教える予定になっています。本ブログの読者の皆さんは、もう大学とは関係のない方が大半だと思います。冬学期に教える「アメリカ研究」のシラバス(授業案)がありますので、ちょっと学生時代に戻ったつもりになって、息抜きに読んでみてください。

2004年度冬学期:アメリカ研究―アメリカのリベラリズム対保守主義

クラスの狙い:
アメリカは長い間、リベラルの国だと見られてきた。ヨーロッパの迫害から逃れてきた人々は、アメリカに自由な国家を建設することを夢見ていた。そうした精神が、アメリカの「独立宣言」や「アメリカ憲法」に反映している。そうしたリベラルな思想が最も端的に現れたのがルーズベルト大統領の「ニューディール政策」である。リベラル思想は、ジョンソン大統領の「グレート・ソサエティ政策」でピークを迎える。しかし、そうしたリベラルの大きな潮流に対して、戦後、アメリカでは保守主義が確実に復活してくる。特にイギリスの思想家エドモンド・バークの思想が戦後のアメリカ保守思想に大きな影響を与える。レーガン政権成立に至るアメリカの戦後の歴史の底流には、リベラリズムと保守主義の思想的な対立が最大の特徴であった。最初、保守主義は一部のインテリやジャーナリストを中心とする思想運動であったが、次第に政治の領域にまで影響力を増していった。一方、リベラリズムは60年代、70年代に過剰ともいえる状況を示す。レーガン政権の成立は「保守革命」の成就とみなされ、政治的な保守主義の勝利を告げる。

レーガン政権下の80年代にアメリカの保守化は急激に進み、ソビエト連邦の崩壊はアメリカの保守主義運動に勢いを与えた。90年代に民主党のクリントン政権が成立するが、その基本的な思想の枠組みは「ニュー・デモクラット」という言葉に代表されるように中道右よりのものであった。その意味で、クリントン政権も戦後の大きな保守化の流れの中にあったと判断される。2001年にはブッシュ政権が成立し、レーガン政権後、一旦退潮の兆しにあると見られていた保守主義運動が、新たな勢いを得ている。特にネオコンと称される一群の人々の思想が外交政策の基本となっていく。2001年の連続テロ事件以降、アメリカの保守主義の潮流はさらに加速していく。

リベラルと保守という2つの思想の根底にある哲学を検討しながら、それが現実の経済政策、社会政策に反映していったかを分析する。さらに、21世紀におけるアメリカの思想状況を展望する。2004年の大統領選挙の最大の焦点となったのが「道徳的価値観」であった。アメリカは、現在、保守とリベラルに大きく分裂した様相を示している。

クラスの構成:
講義は、大きくわけて3つに分かれる。最初は「アメリカのリベラリズム」であり、アメリカの建国からルーズベルト政権の「ニューディール政策」の評価を行なう。2つは、戦後の保守思想の台頭を辿り、それが政治にどのように影響を及ぼしたかを検討する。そして「レーガン革命」の評価を経済政策、外交政策、社会政策のそれぞれの視点から行う。3つ目は、保守主義運動の中で登場する「ネオコン」と称される人々の誕生に至る歴史、思想、政治運動を検討し、それが現在のアメリカの外交政策にどのように影響を与えたかを検討する。さらにブッシュ現政権の思想、政策、を保守主義の枠組みの中で検討する。

1回のクラスは3時限分行なわれる(210分)。クラスは講義と議論を中心としたセミナー方式で行う。事前にリーディング・アサインメントを指示、それに基づき講義と議論を行う。なお、追加的なリーディング・アサインメントの指示、あるいはコピーの配布は適時、行なわれる。

成績:
「ファイナル・レポート」50%、「中間レポートあるいはクラス発表(これは受講者の人数によって決める)」25%、「出席」25%で評価する。

リーディング・アサインメント:
リベラリズムの関連
(1)「アメリカ自由主義の伝統」ルイス・ハーツ、講談社学術文庫
(2) “Happy Days Are Here Again—The 1932 Democratic Convention, the Emergence of FDR and How America     Was Changed,”著者:Steve Neal, 出版社:Harper Collins
保守主義の関連
(3) “Conservatism in America Since 193,” 編者:Gregory L. Schneider, 出版社New York University Press
(4) 「アメリカ保守革命」、著者:中岡望、出版社:中央公論新社
   現代の保守主義
(5) “My Love Affair with America—The Cautionary Tale of a Cheerful Conservative,” 著者:Norman        Podhoretz, 出版社:Encounter Book
(6) “The Right Nation—Conservative Power in America,” 著者:John Micklethwait & Adrian Wooldridge、出版   社:The Penguin Press
(7) “America Alone—Neo-conservatives and the Global Order,” 著者:Stefan Halper & Jonathan Clarke, 出版   社:Cambridge University Press

1件のコメント

  1. はじめまして。ここに個人的なコメントを載せるのはふさわしくないかと思いましたが、冬学期のアメリカ文化論のクラスに興味があり、前もってこのBLOGを発見できた驚きの勢いのまま投稿しました。
    来週からの授業楽しみにしています。
    ちなみに、私も広島出身です。
    それでは失礼します。

    コメント by 現役ICU生06 — 2004年12月2日 @ 14:11

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