中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/27 土曜日

ライス次期国務長官の思想

Filed under: - nakaoka @ 17:44

アメリカの大統領選挙が終わり、メディアの焦点は第2期ブッシュ政権の人事に移ってきています。ブッシュ大統領が就任式をするのが1月20日、それまでに内閣の顔ぶれは大幅に代わっているでしょう。既に12人の閣僚のうち6名が辞職しています。パウエル国務長官、エバンス商務長官、アシュクロフ司法長官、ペイジ教育長官、アブラハム・エネルギー長官、ヴァネマン農務長官の6名で、まだ交替する閣僚は出てくるでしょう。たとえば、マンキュー大統領経済諮問委員会委員長もハーバード大学に戻るために1月に辞任するとの見方が強い。長官ではないですが、日本・アジア担当のアーミテイジ国務副長官は既に辞表を提出しています。長官よりランクの低いスタッフの辞任はもっと多くなるでしょう。

6人というのは大幅な人事異動であるが、別に珍しいことではありません。第2期クリントン政権の96年に7名の閣僚が辞任しています。それ以前では、第2期レーガン政権が組閣された84年には半分の閣僚が交代しています。アメリカでは“リボルビング・ドア”といって民間と官僚、閣僚の間を行ったり来たりするのは当たり前になっているのです。特に第2期政権ということは、最長でも任期は4年しかないわけで、政権末期に急いで代わるよりも、今、代わって民間で有力なポストに就き、次のチャンスを伺うほうが利口な場合もあるのです。

今回の最大の人事は、なんといってもパウエル国務長官の辞任と、後任にライス安全保障問題補佐官の国務長官への横滑りが決まったことです。ある意味では、ライスが国務長官の職を引き受けたというのは意外でした。最近までワシントンで流れていた憶測では、ライスが希望しているのは国防長官であって、国防長官ではなかったからです。彼女は、国務長官のような儀礼的な仕事に追い回されるのは好きでないというのが理由でした。朝5時に起き、早朝にランニングし、オフィスに7時までいて、10時には就寝するという生活パターンを頑なに守っているライスにとって、国務長官の激務が務まるかどうか疑問視する声もありました。また、噂では、チェイニー副大統領の心臓が良くないことから、もしチェイニー副大統領に何かあれば、副大統領に就任するとの憶測も流されていました。もし国防長官に就任できなければ、スタンフォード大学に戻るといわれていたのです。

しかし、そうした外野の予想、憶測は完全に裏切られ、ライスは大統領の依頼によって国務長官のポストを受け入れたのです。ライスは、ある意味では秘密のベールに隠れた存在です。ブッシュ大統領(父)の国家安全保障委員会のスタッフを務めているときに、ブッシュ家との知遇を得て99年にはブッシュ知事(息子)の外交問題顧問に就任。選挙スタッフとしても活躍しています。ブッシュ政権が発足すると、安全保障首席補佐官に就任しています。ブッシュ家と極めて近い上、主席補佐官は通常の閣僚と違ってメディアに露出する機会は少ないのです。

ライスについて様々な情報が伝えられています。ライスはタカ派であるとか、中道であるとか、見方は分かれています。本当の所、どのような政策思想を持っているか、それほど定かではありません。元ソビエトの専門家で、東西冷戦の枠組みで外交政策を打ち出している面がありました。したがって、冷戦構造が、彼女の発想の基礎にあると思われます。その意味では、新しい概念で世界を見ようとするネオコンとは意見が異なるかもしれません。

ネオコンと称される保守主義者は、いち早く冷戦外交の限界を指摘し、単一主義など大胆な外交政策を立案してきました。ライスのソビエト研究の軌跡からすれば、こうしたネオコンの考え方をそのまま受け入れるのは難しいと思われます。しかし、連続テロ事件以降、ライスの外交戦略は基本的に変わったといわれています。それは、アメリカのイラク侵攻に反対した同盟国に対して極めて厳しい態度を取るように主張するようになったことから分かります。すなわち、彼女の「フランスを罰し、ドイツを無視し、ロシアを許す」という言葉が伝えられています。断片的な情報から判断すると、最近では、どうも穏健派に分類するのは難しいかもしれません。

アラファト死後の中東情勢は、混乱が予想されます。イラク戦争の先も見えません。しかし、ネオコンは、イラクにアメリカ型の民主主義を移植し、平和国家を建設することは可能だと主張しています。また、ネオコンは、テロリストあるいは無法者国家に脅威を感じれば、先制攻撃も許されるとする“ブッシュ・ドクトリン”と書き上げています。最近では、ライスもそうしたネオコンの考え方に近くなっているといわれます。しかし、ライスがネオコンに属していると判断するのは、早すぎる感じがします。

とすると、ネオコンの思想に大きく影響を受けているチェイニー副大統領やラムズフェルト国防長官と上手くやっていけるのでしょうか。パウエル長官の辞任は、こうした大統領側近との確執があったといわれています。パウエル長官は大統領と面談するにも、事前にアポイントを取らなければならなかったのです。これに対して、ブッシュ大統領のライスに対する評価は極めて高く、彼女は事前のアポがなくても大統領と面会できる立場にあります。ラムズフェルドやチェイニーがどれだけ大統領に近いかどうか分かリません。副大統領でも直接大統領と面談できないケースはたくさんあります。ライスの場合、国務長官に就任しても、大統領に直接面談することはできると思われます。

したがって、かりにチェイニー副大統領とラムズフェルトがライスの影響力を封じようとしても、なかなかうまく行かないかも知れません。なぜなら、ライスは国務長官になっても大統領に直接会って、影響力を行使できると思われるからです。閣内での影響力は、大統領との距離で決まります。アポなしでいつでも会えるということは、非常に大きな力を持っていることを意味します。国務省関係者の中には、ライスが長官に就任することで国務省の相対的な地位が上昇すると歓迎する向きもあるほどである。

ライスが、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官と上手くやっていけるかどうか分かりません。専門家筋では、誰を副長官に選ぶかどうかで決まるという見方が強くあります。パウエル長官はアーミテイジ副長官と組みました。ただ、アーミテイジ副長官の政治力はそれほど強くありませんでした。ライスが誰を自分のスタッフに選ぶか分かりませんが、ボルトン国防次官を昇格させるのではないかとの観測がもっぱらです。ボルトンは、対北朝鮮政策では強硬派といわれています。と同時に彼は、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官と繋がっています。ボルトンがチェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官との橋渡しをすれば、ライスは彼らと上手くやっていけるかも知れません。そうでないと、閣内の強硬派と対立する局面も出てくるかもしれません。ライスがどのようなアジア戦略を持っているのか不明です。この点でも、ライスを補佐する人物が誰かで大きく政策が変わってくるでしょう。ライスがアジアの政局にコメントしたのを聞いたことはありません。

国務長官に就任するには、上院の承認が必要である。議会の中には、ライスに対して批判的な議員もいないわけではありません。議員の中には、ライスはイデオロギー過剰だと批判的な見方をする者もいます。議会の承認という第一ハードルを乗り越えたら、まず同盟国との関係修復が最初の大きな仕事になるでしょう。中東情勢に対処するためにも、同盟国と歩調をあわせることが必要です。安全保障担当首席補佐官という仕事は、ある意味では陰の仕事だった。国務長官という表舞台ではまったく違ったことが期待されます。ライスは母親から「人生に不可能はない」と教えられて育ってきました。その粘り強さが、ブッシュ政権の外交政策にどのような影響を与えるか大いに興味があるところです。

この投稿には、まだコメントが付いていません

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=38

現在、コメントフォームは閉鎖中です。