中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/11/29 月曜日

アメリカ経済、80年代の再現かードル相場下落の背景(特番)

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今まで、構造的な側面や歴史的側面、理論的な側面からドル相場下落について述べてきました。前に触れたように、相場は短期的には思惑で動くものです。市場で急激にドルに対する不安が高まってきています。先週末、ドル相場は下落から急落というような大きな落ち込みを記録しました。円相場は1㌦=102.01円と2000年1月以来の高値を記録。ユーロ相場も1ユーロ=1.3320ドルと史上最高値を記録しました。週明けの相場の動きは落ち着いた動きですが、市場というのは一方的に動くものではありません。先週末の下落要因について触れます。それは、今後の展開を予想する上で役にたつでしょう。なお「80年代との比較」は、次回に書きます。

まず、急激なドル下落になったのは、中国が外貨準備として保有しているドルを減らすというニュースが流れたことです。『チャイナ・ビジネス・ニュース』が、中国人民銀行の金融委員会のメンバーであるYu Yongding氏が、中国が外貨準備として保有しているアメリカの財務省証券の保有額を減らすと語ったというニュースを流しました。以前にも述べましたが、日本と中国は外貨準備を急激に増やしています。そうした外貨準備は主にアメリカの財務省証券で運用されています。Yu氏によれば、中国は財務省証券の保有を1800億ドルにまで減らすと語ったと伝えられてます。中国の全体の外貨準備からすれば、削減額は大きくありませんが、それが市場のセンチメントに与える影響は無視できないでしょう。ある意味では、市場が最も恐れているシナリオ、すなわち中央銀行を含める外人投資家がドル資産への投資を中止するか、引上げる事態が起こる可能性が出てきたことです。ドル下落が続けば、ドル資産の価値は目減ります。そうした事態を避けるには、ドル資産の保有を減らすしないのです。でも、これは次回で触れますが、あまりに単純な議論です。とはいえ、市場はそうした思惑で動くものです。

もう1つのドル売りの要因となったものがあります。大手金融機関がドル相場の見通しを引き下げたのです。スイスの金融機関UBSとアメリカのJPモルガン、メリルリンチが、来年3月のドル相場の予想を引き下げました。UBSは1㌦=107円の予想を103円に引き下げました。ユーロ相場は1ユーロ=1.30ドルから1.36ドルに引き下げました。JPモルガンは、円相場は1㌦=100円から96円に、ユーロ相場は1ユーロ=1.30ドルから1.37ドルに引き下げました。メリルリンチ証券は、1㌦=100円から96円、1ユーロ=1.33ドルから1.39ドルに、それぞれ引き下げました。

こうした世界有数の金融機関が、ドルの見通しに対して悲観的になったのですから、市場に与える影響は大きいでしょう。それだけではありません。1日に世界で1.9兆ドルの為替が取引されていますが、この3つの金融機関の合計したシェアは22%に達しています。とすると、これらの金融機関のディーラーの自己取引は当然、ドル売りに偏るでしょう。また、顧客に対するアドバイスも、ドル売りを奨励するものと予想されます。もし、そうした事態が起これば、市場ではドル売りが加速することになります。相場は、椅子取りゲームのようなもので、先に逃げた方が勝ちです。できるだけ良い相場でドルを売る、またドルを買わなければならない者は、できるだけ買うタイミングを遅らせるものです。これを”リーズ・アンド・ラグズ”といいます。そうした動きが出れば、さらにドルの需給に大きな影響を与えます。

市場のセンチメントは一方に大きく偏りかちです。本来なら強気と弱気が交錯して相場が形成されるのですが、こうした状況になると、相場のセンチメントは一方に偏り勝ちになります。こうした状況の下でドルを買うというのは勇気のいることです。すると、どうしても相場は行き過ぎます。これを”オーバーシュート”といいます。こうした異常な事態を阻止するには、短期的には日本、アメリカ、ユーロの中央銀行が協調介入をすることです。ただ、現状からいえば、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が協調介入に進む可能性は極めて低いでしょう。それに、まだアメリカにとってドル安は危機的な状況にあるという認識は薄いでしょうし、ドル安容認の姿勢が見え隠れします。欧州中央銀行もどちらかといえば非介入の政策を堅持しています。それにユーロの場合、貿易取引は域内の取引の割合が高く、ユーロ安の影響は日本に比べれば軽いでしょう。

ドル安(円高)で最も大きな打撃を受けるのは日本でしょう。昨年、日本は膨大な規模の市場介入をして、円高を阻止してきました。もし大手金融機関が予想するように、100円の大台を大きく割り込む状況となれば、介入をせざるを得ないでしょう。ただ、市場が大きくドル安に傾いているとき、いかに市場介入をしても市場の流れを変えることはできないでしょう。

では、相場はドル暴落へのシナリオに急速に動いているのでしょうか。それは次回で触れることにします。今回は、「特番」で、先週末から起こった状況の説明に留めます。

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