中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/10/7 木曜日

アメリカ大統領選挙の分析(2)スイング・ステートの動向が結果を決める

Filed under: - site admin @ 15:31

まず次の数字を見ていただきたい。

  • 48.4%   266
  • 47.9%   271

といきなり数字を見せられても、判断できないのは当然です。上の段の左の数字は、前回の大統領選挙でのゴア候補の得票率です。その右の数字は、獲得選挙人の数です。下が、ブッシュ候補の得票率と獲得選挙人の数です。実は、アメリカの大統領選挙を理解するには、その独特な選挙制度を理解する必要があります。得票のことを英語で「ポピュラー・ボート(popular vote)」といいます。敢えて日本語に訳すなら、「人気投票」です。前回の大統領選挙では、人気投票ではゴア候補のほうが多かったのです(ちなみに実数はゴア候補5099.2万票、ブッシュ候補5045.5万票)。得票数が多いのに、ゴア候補は大統領選挙で破れたのです。

実は、アメリカの大統領選挙は、州ごとに行なわれると考えると分かりやすいでしょう。各州は連邦を構成する一種の自治単位なのです。ですから、州ごとに候補者を選ぶことになるのです。各州には“選挙人”が割り当てられます。人口の大きな州の選挙人の数は多いのが普通です。投票は州ごとに集計され、そこで多数の票を集めた候補者は、その州に割り当てられた選挙をすべて獲得することになります。したがって、世論調査だけで選挙結果を予想することはできないのです。世論の支持率が、そのまま大統領選挙の結果に反映するとは限らないからです。ただ、勝者がすべての選挙人を獲得する「Winner Takes All」という仕組みに、見直しの動きもあります。本稿のテーマではないのですが、今回の選挙でコロラド州では、得票率に応じて選挙人を候補者に按分すべきであるという法案が提出され、大統領選挙と同時に賛否を問う投票が行なわれます。いずれにせよ、こうした独特な制度を知らないと、大統領選挙の行方を十分に占うことはできないのです。

したがって大統領選挙の帰趨を決するのは、僅差で競り合っている州を獲得できるかどうかにかかっているのです。前回の大統領選挙で、ブッシュ候補はフロリダ州でわずか五三七票の差で勝利して、選挙人二五名を獲得しました。前回の選挙結果が1000票以内で決まったこうした州を“スイング・ステート”あるいは“バトルグランド・ステート”と呼ばれています。“スイング”とは「揺れる」という意味で、「浮動票」と訳されます。したがって、“スイング・ステート”とは、ブッシュ候補にも、ケリー候補にも、どちらにでも行く可能性がある州とのことです。また、そうした州は激戦区になることから、“バトルグラウンド・ステート(戦闘地域の州)”とも呼ばれています。

現在、“スイング・ステート”と見られている州は二〇州あるいは一九州あり、これらの州をできるだけ多く手にした候補者が最終的に勝利するとみられている。9月30日の公開討論会前に行われた『ワシントン・ポスト』紙とABC放送による“スイング・ステート”一九州を対象として調査では、ブッシュ支持率五〇%、ケリー支持率四六%と、ブッシュが有利に選挙戦を展開しています。この予想通りなら、ブッシュ勝利の可能性が大きいことになるでしょう。ただ、公開討論会でケリー候補がブッシュ候補を圧倒したことから、こうしたスイング・ステートでの有権者の投票活動に影響がでているかもしれません。この程度の差は誤差の範囲で、今後の情勢次第でどうにでも動くものであります。両陣営は、選挙戦の終盤で、スイング・ステートに大量のスタッフを送り込み、大量のテレビ宣伝を行なうことを計画しています。他の多くの州は、伝統的に民主党系の州、共和党系の州とほぼ結果が決まっており、もはや体勢に大きな影響を与えないからです。

もう1つ、大きな不確定要因があります。それは、ケリー候補にとって、場合によっては、致命的な影響を与えかねない要因です。それは、弁護士で市民運動の活動家ラルフ・ネーダー候補の行方です。1992年の大統領選挙の時、ロス・ペロー候補が立候補して、ブッシュ大統領から保守票の一部を奪い取りました。その時、ペロー候補は197万票を獲得しています。もし、その票がブッシュ候補に回っていれば、クリントン候補の勝利はなかったかもしれません。今回、党は違いますが、ネーダー候補は民主党系やリベラル系の票を獲得する可能性があり、それがケリー候補に打撃となるかもしれないのです。ちなみに、前回の大統領選挙でもネーダー候補は立候補して、28万票を得ています。今回は、もっと多くの票を獲得する可能性もあります。一連の世論調査では、2%程度の支持率をコンスタントに獲得しています。その数字そのものは対したことはありませんが、スイング・ステートでわずかな票でもケリー候補からネーダー候補に流れることになれば、選挙結果に大きな影響を与えるでしょう。

事実、民主党はネーダー候補の動きに神経質になっています。スイング・ステートの1つであるフロリダ州で、州の民主党本部は独立候補としての資格がないという理由から、ネーダーの名前を投票用紙から削除することを求める裁判を起こしました。もし数千票がネーダー候補に流れれば、前回同様にケリー候補はフロリダ州を失うことになるかもしれないからです。だが、最終的に州最高裁判所は、ネーダーを独立候補と認め、投票用紙への名前の掲載を認めました。同様な訴訟は他の州でも起こっています。ネーダーを候補者と認めている州もありますが、認めていない州もあります。

こうした状況に対して、ネーダー支持グループから新しい動きが出ています。それは、「小異を捨てて大同につく」という戦略です。ネーダー・グループはいわば超リベラル派で、必ずしもケリー支持ではありません。しかし、共通の敵であるブッシュ大統領をその座から引きずり降ろすには、小異を捨ててケリー候補に投票すべきであると主張するグループが出てきています。また、一部のネーダー支持者は、「投票のスワップ」を主張しています。スイング・ステートにいるネーダー支持者はケリー候補に投票するが、勝敗が決している州のケリー支持者はネーダー候補に投票する“スワップ”を行なうという呼びかけをしています。裁判所は、こうした投票は違法であると主張していますが、実際は内容を把握できないのが実情で、非公然と行なわれれば、スイング・ステートでの投票結果に影響を及ぼす可能性もないわけではありません。

この投稿には、まだコメントが付いていません

このコメントのRSS
この投稿へのトラックバック URI
http://www.redcruise.com/nakaoka/wp-trackback.php?p=4

現在、コメントフォームは閉鎖中です。