中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/12/16 木曜日

2005年の為替相場をどう予測すべきか

Filed under: - nakaoka @ 22:25

相変わらず忙しい日々が続いています。FRB(連邦準備制度理事会)が利上げを発表するなど、アメリカ経済の動向や政治動向について書きたいこと、また興味深い社会的な問題もありますが、なかなかまとまった時間が取れないので、記事をアップすることができません。そうした状況ですが、今回は来年の為替相場に対する考えを簡単に述べてみることにします。

第2次ブッシュ政権の為替政策はドル安容認、長期ドル安傾向続く 

(本文)
為替相場の乱高下が続いています。為替市場には米国の財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」に対する強い懸念あり、相場の底流には常にドル安の流れがあるからです。だからと言って、底流がすぐに表面に噴出してくるものではありません。大統領選挙後、急激なドル安が顕在したが、今回の乱高下のきっかけとなったのは11月19日のグリーンスパン議長の「現在のペースで経常赤字が継続すれば、投資家はドル資産への投資を続けることはできなくなる」という発言でした。それと歩調を合わせるように中国人民銀行政策委員会のメンバーが外貨準備の米財務省証券への投資を圧縮すると発言したことで、相場の投資家のドル資産離れに対する懸念に一気に火がついたのです。

 12月2日にニューヨーク市場で円相場は2000年1月以来の高値1ドル=101.83円を記録しました。ユーロも12月7日に1ユーロ=1.347ドルの高値を記録しました。その後、日本の第3四半期の成長率が0.2%と悪化、欧州経済の先行きも懸念含みであることに、米国の経済が順調であることからファンダメンタルズが見直され、円相場は105円台にまで戻しています。

 こうした相場の地合を受けて年末を迎えていますが、2005年の為替相場をどう見たらいいのでしょうか。まず、来年も基調として「双子の赤字」問題は基本的には変わらないでしょう。ただ、2004年度で財政赤字はピークに達し、2005年度は軍事費以外の裁量的支出の凍結などが行なわれる見通しです。一方、経常赤字は、ドルの実効相場の低下にもかかわらず、まだ拡大が続くでしょう。特に米国経済が好調であるだけに、輸入需要は旺盛なまま継続するでしょう。

 とすると、為替相場を予想する大きなポイントは、第2次ブッシュ政権がどのような為替相場政策を持っているかということになります。前のブログでスノー財務長官の更迭に関する記事をアップしましたが、最終的に大統領がスノー長官に留任を依頼し、スノー長官も受諾しました。同長官は、留任に際してドル高政策を支持するが、為替相場は市場で決まるものだと従来の見解を繰り返しています。これは、米国政府の基本政策をあえて特徴つけるとすれば、それは“ビナイン・ネグレクト政策”といえるものです。“ビナイン・ネグレクト”を直訳すれば「慇懃に無視する」というもので、要するに成り行きに任せるということです。それは同時に、「緩やかなドル安を歓迎する」ということを意味しています。

経常赤字問題を処理するには、為替相場を調整するか、経済成長を抑制するか、貿易相手国に景気刺激による輸入増大しか方法はありません。この観点からすれば、米国政府には国内掲示の成長率を鈍化させる意思はまったくありません。むしろ短期的にはドル安は企業収益を改善させ、株高に結びつくプラスも期待できます。そうなれば、むしろ高いイールド(利回り)を求めて外資が流入してくることになり、為替市場が懸念する資本流出という事態が目先的に起こる可能性は小さくなるでしょう。

従って米国政府の基本政策は、緩やかな為替調整(ドル安)を進めながら、アジア通貨、特に中国の人民元の切り上げを求めていく従来の政策を継承することになるでしょう。さらに、ドル安が進行すれば、為替高に伴うデフレ効果に直面する海外は国内金利を引き下げる可能性もでてきます。なぜなら、輸出減少に伴う景気後退を補うためには、金融政策面から景気を刺激することが必要になってくることであり、それは米国政府にとっては好ましい状況といえます。少なくとも、悲観論者が主張する大量のドル資産離れがない限り、米国にとってドル安は少なくとも短期的にはなんら痛痒を感じないのです。

こうした状況を勘案すると、長期的なトレンドとしてドル安が続くと見るのが妥当でしょう。ただ、ドルの実効相場は、OECDによれば2001年に105.7であったものが2004年10月には94.7にまで下落しています。ちなみにユーロは1003.3から124.6へと大幅に上昇し、円も89.5から84,9へと上昇しています。ドルとユーロの実効相場で見る限り、為替相場の調整はかなり進んでいると見て良く、これ以上のユーロ高は欧州経済にとって大きなダメージを与える可能性があります。現時点では欧州中央銀行は利下げや、市場介入をする動きを見せてはいません。ただ、これ以上のユーロ高が進めば、政策面から動きが出てくる可能性はあるでしょう。

ただ円ドル相場についていえば、まだ調整の余地があるかもしれない。日本の財務省は2004年から2004年3月まで大量の市場介入によって円高を阻止してきました。かりに再び急激に相場が円高に触れても、以前と同じような大量の介入を繰り返すのは難しいでしょう。日米経済のファンダメンタルズの差、金利差の拡大を想定すると、本来ならドル相場に有利(ドル安を阻止する要因)なのですが、年間を通した相場は依然として円高に推移するとみて間違いないでしょう。

モルガン・スタンレー証券は2005年末の円相場は92円と予測しています。日本経済の成長鈍化がかなりはっきりとしており、100円を大幅に割り込む円高にはならないとは思います。それでも年間ベースでみれば100円の大台を割り込む円高相場は十分にありうるかもしれません。

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