中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/10/13 水曜日

米大統領選挙後の最大の焦点は次期FRB議長の選考

Filed under: - site admin @ 13:44

今、アメリカでは大統領選挙が最大の焦点となっています。それと同時に、ワシントンで注目されているのは、連邦準備制度理事会(英語で「Federal Reserve Board=FRB」と呼ばれています)の議長の人選です。FRBは、アメリカの中央銀行に相当する機関で、金融政策を決定しています。現在、FRB議長はアラン・グリーンスパンです。同氏が議長に就任したのは87年8月です。議長の任期は4年であり、同議長は現在4回目の任期にあり、在任期間は18年にも及んでいます。過去の例を見ると、いずれの議長の在任期間も長いのが特徴です。戦後で見ると、ウィリアム・マーチンFRB議長は51年から70年までの19年間、アーサー・バーンズFRB議長は70年から78年までの8年間、ポール・ボルカーFRB議長が79年から87年までの8年間、議長の座にありました。大統領の任期は最長で2期8年ですが、FRB議長の再任に規制は存在しないので、大統領から任命される限り、死ぬまで議長の座に留まることも可能なのです。FRB議長が“大統領に匹敵する権力”を持つといわれるのは、単に金融政策の責任者であるだけでなく、権謀術数が渦巻くワシントンで長期間にわたって生き抜いているからでもあるのです。グリーンスパン議長の在任期間は、マーチン議長と並ぶまでになっています。

グリーンスパン議長は共和党のレーガン大統領に任命され、その後、共和党のブッシュ大統領(父)、民主党のクリントン大統領、共和党のブッシュ大統領(息子)と四人の大統領に再任されています。党派を超えて厚い信任を得てきたのです。今年、4回目の議長に再任されたばかりですが、ワシントンでは「誰がグリーンスパンの後任になるか」が大きな話題の一つになっています。同議長は、9月の議会証言で理事としての任期が切れる2006年1月には退任するとの意向を明らかにしました。既に78歳と高齢であり、議長の激務を考えると、それ以上議長の座の留まるのは無理と考えたからでしょう。しかし、11月に行なわれる大統領選挙の結果次第では、辞任の時期が早まる可能性もまったく否定できないわけではありません。

ちなみにFRB議長は7名のFRB理事の中から選ばれることになっており、理事の任期は14年です。グリーンスパン議長が「06年1月に議長を辞任する」と示唆したのは、理事の任期が切れるからです。ただ、可能性としては理事に再任され、議長の座に留まることは可能ですが、同議長は理事として再任の要請には応じないという意向を表明したものと思われます。

グリーンスパン議長が辞意を示唆したことで、次期議長候補が注目されるようになっています。大統領選挙の結果も、その選考に大きな影響を及ぼします。ブッシュ大統領が再選されるのか、あるいはケリー候補が新大統領に就任するのかで、自ずと候補者が絞られてくるでしょう。

もしブッシュ大統領再選ならば、最有力候補に取り沙汰されているのは、マーチン・フェルドシュタイン・ハーバード大学教授です。同教授はレーガン政権のCEA(大統領経済諮問委員会)委員長を務め、学問的には「供給サイドの経済学」の創始者の一人と目されている人物で、アメリカ経済学界で最も影響力のある学者です。当初はCEA委員長としてレーガン政権の大幅減税を支持しましたが、財政赤字が拡大したことで増税の必要性を訴えたことから、共和党右派から「裏切り者」として批判される局面もありましたが、最近ではブッシュ政権(息子)の減税政策を支持するなど共和党右派との関係修復に努めています。

もう一人の有力候補が、ブッシュ政権(息子)のもとでCEA委員長を務め、同政権の3度の減税案の骨格を作ったグレン・ハバード・コロンビア大学経営大学院教授です。特にブッシュ政権(息子)の「配当課税廃止」では、非常に重要は役割を果たしました。同氏に対するブッシュ政権と共和党の信任は厚いものがあります。また、同氏の組織力、コミュニケーション力、政治力は定評があります。その他で名前が挙がっているのが、金融政策の指標を示した「テイラーの法則」で知られる元財務次官のジョン・テイラー・スタンフォード大学教授、プリンストン大学教授からFRB理事になったベン・バーナンケです。バーナンケは独自の論理を展開し、時には金融政策を巡ってグリーンスパン議長とニュアンスの異なる発言をして、注目されていいます。

ではケリーが大統領選挙で勝利を収めると、どうなるでしょうか。当然、民主党系の人物が議長に任命されることになるでしょう。その最右翼にいるのが、ロバート・ルービンです。同氏は、現在はシティグループ会長の職にありますが、クリントン政権では財務長官を務めています。その前はゴールドマン・サックスのシニア・パートナーで、ウォール街での信任は厚い人物です。FRB議長の要件の1つに、市場の信任というのがありますが、その点では、同氏は最適な人物といえるでしょう。7月にケリーを民主党大統領候補に選んだ民主党全国大会で、同氏はケリー夫人の隣に座るなど、その存在感を見せていました。また、同氏はブッシュ政権の経済政策を厳しく批判していることでも知られています。

ルービンに続く有力候補は、ローレンス・サマーズ・ハーバード大学総長です。彼は28歳とハーバード大学で史上最年少のテニュア教授に就任、二人の叔父がノーベル経済学賞を受賞するなど経済学界のプリンス的な存在です。同大学から世界銀行に転出。その後、クリントン政権の財務副長官、ルービンの後を継いで財務長官に就任しています。経済学者としても優れた実績を持っており、若手経済学者に与えられる最高の賞「ジョン・ベーツ・クラーク・メダル」を受賞しています。その他には、ロージャー・ファーグソンFRB副議長やスタンレー・フィッシャー・シティグループ副会長も候補者リストに上がっています。フィッシャーはIMF(国際通貨基金)の要職を務めたことのある著名な経済学者です。

FRB議長に要求される最大の能力は、金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)で指導力を発揮することです。グリーンスパン議長が圧倒的な影響力を発揮できたのは、それぞれ個性的なFRB理事や連銀総裁を束ねる指導力があったからです。もう一つの重要な役割は、政府や議会の介入からFRBを守ることです。ボルカー議長とホワイトハウスの確執はよく知られています。また、グリーンスパン議長も、92年にブッシュ政権(父)から金融政策を巡って激しい攻撃にさらされました。こうした外部からの圧力に対応できるだけの指導力と政治力をもっているかどうかが、議長になるための必須の条件なのです。その意味で、単なる学識だけでは務まらない職務といえるでしょう。金融政策の決定に際してFRB議長は他の理事や連銀総裁と同じ権限しかないのですが(政策は投票で決定され、議長も1票の投票権しかもたない)、誰が議長になるかによって金融政策の方向が大きく変わります。FRB議長の選考は、大統領選挙後の最大の焦点になることは間違いないでしょう。

1件のコメント

  1. 通貨は語る。
    アメリカと中国との間で揺れ続ける日本。きょうの為替の動きは、いまの日本の立場を、そのまま現していると思います。中国が利上げを発表し、いったん売られた円が再び上昇。値下が…

    トラックバック by Espresso Diary — 2004年10月29日 @ 16:29

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