中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/12/24 金曜日

日米最大の懸念、狂牛病問題の行方

Filed under: - nakaoka @ 9:52

数日前、アメリカ大使館のスタッフと大いに議論し、痛飲しました。そのとき、「日米関係はかつてないほど良好だが、もし問題があるとすれば、なんでしょうか」と聞きました。返って来た答えは、「狂牛病問題だ」というものでした。アメリカで狂牛病が見つかり、日本のアメリカからの牛肉の輸入は止まったままです。アメリカ政府は、なんとかして輸入再開にこぎつけたいようです。大統領選挙後の小泉・ブッシュ会談でも、ブッシュ大統領が牛肉輸入再開を要望したと伝えられています。今、アメリカで狂牛病問題がどうなっているのか、日本のメディアはほとんど伝えていません。多くのメディアは”事件”が起こらないと、それが重要な問題でも報道しないものです。そこで、このブログで、この問題を取り上げてみることにしました。ただ、私はこの問題を追いかけていないので、アメリカのジャーナリスト・ダイアン・ファーセッタの記事をベースに紹介することにします。

アメリカ国内でも、消費者団体などが狂牛病対策を政府に求めています。アメリカ政府は、消費者、小規模農業者、環境団体などが支持する食品安全対策を実施すると約束していました。だが、実態は大規模農業家や食品加工業界などのロビー活動で、約束を反古にする動きを強めています。

アメリカで最初の狂牛病の発生が確認されたのは2003年12月です。発見後1週間で農務省は歩行困難になった牛(英語では”downer” cowと呼ばれています。「倒れた牛」という意味になるのでしょう)を人間の食用に供することを禁止しました。長年、ダウナー・カウの販売禁止を求めてきた民主党下院議員ゲーリー・アッカーマン議員は、「農務省が最終的に歩行困難になった動物の最終的に禁止したことを歓迎する」という声明を発表しています。

しかし、それから1年経ったにもかかわらず、食品の安全性問題を担当する農務省、食品医薬品局は必要な改革を進めていません。狂牛病はなぜ問題なのでしょうか。それは人間へ感染する危険性があるからです。イギリスでは狂牛病の変異と見られているクロイツフェルトヤコブ病(vCJD)で147人の人が死に、5人の人が同病に感染し、狂牛病の蔓延を防ぐために370万頭の牛が処分され、多くの農家が破産しています。

もう1つの狂牛病が問題となっているのは、企業と政府の癒着問題です。アメリカの地方新聞「サクラメント・ビー」紙の報道では、狂牛病のリスク分析をするモデル開発の過程で消費者団体が排除され、”科学的な情報提供者”は業界団体と近い人物に限定されているとのことです。業界団体とは、ConAgra Beef、National Cattlemen’s Beef Association、National Renders Association、Amerian Feed Industry Associationなどです。

こうした業界団体のロビー活動を受けて、政府の動きが鈍くなっています。政府や業界団体は、狂牛病の影響はそれほど大きくないとか、必要に安全を主張する調査を行なったり、アメリカの食品供給の安全性に対する信頼を維持するために巧妙な広報活動を行なっています。そうした活動はそれなりに効果を発揮していますが、日本などの海外では、あまり効果を発揮しているとはいえないようです。

一番重要なことは、狂牛病の拡大を阻止することです。しかし、まだ牛の餌には、牛の血や脂肪はチキン・スープの廃棄物、豚など食肉処理場の廃棄物が混ざっています。2004年1月に食品医薬品局は、こうした事態に対処すると約束しました。辞任することが決まっているヘルス・アンド・ヒューマン・サービス庁のトミー・サンプソン長官は「現行の動物の餌に関する規制は狂牛病の蔓延を防ぐのに十分であるが、私たちは現状に満足しているわけではない」と語っていました。

それから6ヶ月経ちましたが、食品医薬品局はなんらの行動もとっていません。コンシューマー・ユニオンは、こうした政府に対して、「健康を守るという消費者に対する約束を裏切るものである」と批判しています。こうした食品医薬品局の動きは、業界団体のロビー活動に影響されたものです。業界寄りの研究機関American Meat Instituteは規制を強化しなければならない”根拠はない”と主張しています。National Grain and Feed Association も、規制はあまりにも厳しすぎると批判しています。牛肉、餌関連の業界5団体は、提案されている規制は業界に経済的なダメージを与えることになると食品医薬品局に警告しています。

業界団体は、政治力を行使するために、積極的に政治献金をしています。同業界からの政治献金の80%が、業界寄りの共和党に向けられています。大統領選挙前の8月に、National Cattlemen’s Beef Association (NCBA) はブッシュ大統領候補を支持することを決めましたが、同団体が特定の大統領候補を支持することは106年間、まったくなかったことです。NCBAのジャン・ロイズ会長は「NCBAの議会での影響力は今までよりも強くなるだろう(The voice of NCBA cattle producers will be heard loud and clear on Capitol Hill)」 と語っています。

同業界の広報活動は極めて積極的になっており、「アメリカの牛肉は安全である」「狂牛病監視は機能している」というキャンペーンを展開しています。そうした活動の目的の1つが、海外の市場への輸出を再開することにあります。

狂牛病にかかった牛が10頭か20頭、発見されないと、政府は本気で規制強化をするきはないのかもしれません。次期農務長官に指名されているマイク・ジョナサンが一番懸念しているのは、アメリカの牛肉の輸出です。ジョナサンは、狂牛病をスクリーンするために使われている迅速な検査結果を食品医薬品局が発表する政策に反対した経歴があります。

こうした分析を元にファーセッタ記者は「透明性と強力な安全措置はすべての人に恩恵をもたらし、内外でアメリカの牛肉に対する信頼を高めることになります」と結んでいます。

なお、現在、アメリカでは生後30ヶ月以上の牛の脳や脊髄、神経細胞を含む部位の販売は禁止されています。アメリカ政府と業界は、これで十分安全性は確保できると主張しています。ただ、国際的な専門家のパネルでは、生後12ヶ月以上の牛を対象にすべきだと主張し、アメリカの見解と対立しています。いずれにせよ、その際の問題は、生後の年齢の確認です。

データ:各国の狂牛病と検査状況(2002年からの累計数)
豪州
検査頭数:464頭
処理頭数:9,229,000頭
狂牛病発生頭数:0

カナダ
検査件数:5,500頭(2009年までに3万頭へ増やす)
処理頭数:3,700,000頭
発病頭数:2頭

フランス
検査頭数:2,900,464頭
処理頭数:5,800,000頭
発病頭数:891頭

ドイツ
検査頭数:2,588,643頭
処理頭数:4,272,156頭
発病頭数:305頭

イギリス
検査頭数:394,685
処理頭数:2,3000,000
発生頭数:183,803

日本
検査頭数:全頭検査
処理頭数:1,160,000
発病頭数:11頭

ニュージーランド
検査頭数:2,937頭
処理頭数:2,177,340頭
発病頭数:0

アメリカ
検査頭数:20,453
処理頭数:36,853,000
発病頭数:1頭

こうしたアメリカ政府と業界の姿勢を受けて、日本政府にも牛肉の輸入解禁の動きもあります。おそらく、アメリカ政府の対日圧力は強まり、日本政府は遠からずアメリカからの牛肉の輸入を再開するでしょう。日本には強力な消費者団体はありませんが、本来なら日米の消費者団体や、この問題に興味を持つ団体がそれぞれ協力を強化することが必要なのでしょう。ただ、残念なことに、日本にはアメリカほどちゃんとした組織と影響力をもつ消費者団体は存在していません。

1件のコメント

  1. ヤギ&羊は肉や乳にも感染物質?・オランダで26歳vCJD・ピッシング・新検査
    ■感染ヤギと羊の場合、肉や乳を通して感染物質が人間の体内に入る可能性、という報道
    仏、ヤギやヒツジのBSE検査を強化 (4/19)
    http://health.nikkei.co.jp/bse/child.cfm?c=0
    >「ヤギや羊では牛に比べ体内の多様な組織に感染物質が広がりやすく、肉や乳を通して人間の体…

    トラックバック by BSE&食と感染症 つぶやきブログ — 2005年4月24日 @ 22:58

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