中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/1/30 日曜日

アメリカの軍事戦略を考える:軍の増強を求める保守派の議会指導者への「公開書簡」

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イラクの選挙が今日(30日)、行なわれます。この選挙が成功するかどうかが、今後のアメリカのイラク戦略に大きな影響を持ってくることは間違いないでしょう。第2期ブッシュ政権が現実路線に転換するという分析や、ライス国務長官はネオコンよりもプラグマチックなので、第1期ブッシュ政権とは違った外交政策が出てくるのではないかという期待の声を聞きます。しかし、アメリカの保守派、強硬派の考えは、イラク戦争の手詰まりにもかかわらずまったく変わっていないのが実情です。彼らの視野はイラク戦争を越えたところにあるようです。世界戦略の中のイラク戦争なのであり、イラク戦争によって世界戦略を変えるというものではなさそうです。この原稿で、彼らがどのような発想をしているのかを示す情報を提供します。これは、彼らが議会の指導者に宛てて1月28日に送付した「公開書簡(open letter)」です。そこで、彼らが求めているのは軍隊の増強なのです。この「公開書簡」は今後のアメリカの外交政策、軍事政策を考えるうえで、1つのヒントを与えてくれるでしょう。

ファースト共和党上院議員(共和党院内総務)、レイド民主党上院議員(民主党院内総務)、ハスタート下院議長(共和党)、ペロシ民主党下院議員(民主党院内総務)の各位へ

アメリカの軍隊は、私たちが求めている責任を果たすには、あまりにも規模が小さすぎます。これらの責任は現実のものであり、かつ重要なものです。その責任は、決してなくなることはありません。アメリカは、今後数年間、世界に対する関わりを減らすことはないし、また減らしてはならないのです。しかし、9月11日のテロ事件以降、アメリカの安全を確保し、世界の平和と安定を図り、それに自由の防衛を促進するために、現在アメリカが保有しているよりも大きな軍事力が必要とされるようになっています。しかし、残念なことに、政府は、アメリカの地上軍を現在の使命(と将来の使命)を達成するために必要とされる規模にまで拡大することに抵抗しています。

したがって、私たちは、立法府におられる皆様と皆様の同僚の議員がアメリカの陸軍と海兵隊の規模を大幅に拡大するための必要な手段を講じることを求めるために、本書簡を書いています。どれくらいの規模が必要なのか、どれだけ兵士の数を増やすべきかについての推定はそれぞれ異なりますし、軍隊の規模と構成に関して決定するのは議会ですが、私たちは今後数年間にわたって陸軍と海兵隊を合計で少なくとも毎年2万5000名増やすことを目指すべきだと判断しています。現在の中東地域へ派兵し、世界の他の地域の同盟国に対する約束を果たすだけで、現在のアメリカの地上軍はほぼ目一杯の状況になっています。例えば、1ヶ月前にジェームズ・ヘムリー中将(予備役責任者)は、イラクとアフガニスタンでの兵士の“過剰使用(overuse)”はアメリカ軍の“機能を麻痺”させる可能性があると報告しています。しかし、イラクへの派兵はほぼ2年になり、またアフガニスタンへの派兵はほぼ3年におよぶことから分かるように中東へのわが国のコミットメント(約束)は、ライス国務長官の言葉を借りれば、“1世代にわたるコミットメント(a generational commitment)”になることは明白です。このコミットメントの中の軍事的な面を満たす唯一の方法は、政治的なリーダーシップを発揮するために利用できる軍隊の規模を拡大することです。

政府は、こうした新しい現実に対応することに躊躇してきました。私たちは、財政赤字拡大の危険性や、部隊の数を増やすことが財政的に困難であることは理解しています。しかし、アメリカの防衛は政府の最優先事項であるはずです。わが国は、健全な財政政策と同時に断固たる軍事的な政策を取る余裕はあるはずです。私たちは、必要な地上軍の数を増やしながら、軍隊の「トランスフォーメーション(transformation)」を同時に行なうことができるはずです。

要するに、私たちは、私たちが必要とする軍隊を提供することができるのです。現在の軍事支出は、冷戦のどの時期よりもGDPに占める比率は低いのです。私たちは、冷戦時代の軍隊の規模あるは構造に戻ることを提案しているのではありません。私たちは、テロとの戦うために必要な軍事力を構築し、世界におけるわが国の責任を果たすために必要な軍事力を構築するためにアメリカが責任をもって行動することを主張しているのです。

わが国の軍の兵士は、この数年間、素晴らしい成果をあげてきました。私たちは、単に言葉だけでなく、本当に彼らを誇りに思っています。しかし、彼らの多くは、間違いなく、アメリカ軍の規模は小さいと言うはずです。私たちも、アメリカとアメリカに戦争で協力している国の間の契約を履行するためにもっと努力すべきであると主張しているのです。予備役はあくまで予備役であって、正規兵ではないのです。正規兵と予備役は単に自分たちを兵士として証明するだけでなく、人道主義者であり、勃興しつつある民主国家の建築者であることも証明しなければならないのです。わが国の軍隊は、現役であれ、予備役であれ、もう一度、アメリカの価値観を、その行為によって示しつつあるのです。私たちは、彼らに彼らが必要とする多くの兵士と物質を与えることによって、彼らの犠牲に報うことができるのです。

憲法第1条と第8条は、アメリカの軍隊を増やし、維持する権限と義務を議会の手に委ねています。これが、下に署名し、それぞれが異なった政策的見解を持つ超党派グループは、一致して皆様に行動を取ることを求めている根拠なのです。もし皆様がアメリカの責務を達成するために必要な兵士を提供し、危険だが、希望の持てる世界におけるわが国の外交政策の目的を成功裏に実施できるように支援するなら、それこそがアメリカに奉仕することになるのです。

署名者一覧:
Peter Beinart, Jeffrey Bergner, Daniel Blumenthal, Max Boot, Eliot Cohen, Ivo H. Daalder, Thomas Donnelly, Michele Flournoy, Frank J. Gaffney Jr., Reuel Marc Gerecht, Lt. Gen. Buster C. Glosson (USAF, retired), Bruce P. Jackson, Frederick Kagan, Robert Kagan, Craig Kennedy, Paul Kennedy, Col. Robert Killebrew (USA, retired), William Kristol, Will Marshall, Clifford May, Gen. Barry R. McCaffrey (USA, retired), Daniel McKivergan, Joshua Muravchik, Steve J. Nider, Michael O’Hanlon, Mackubin Thomas Owens, Ralph Peters, Danielle Pletka, Stephen P. Rosen, Maj. Gen. Robert H. Scales (USA, retired), Randy Scheunemann, Gary Schmitt, Walter Slocombe, James B. Steinberg

もう読んで字のごとくで、敢えて説明を付け加えるまでもないと思います。ウィリアム・クリストルやロバート・ケーガンは、ネオコンの代表的な論者です。「超党派グループ」とのことですが、思想的には右派に近い人たちだと思います。署名した人物の一人一人を確認したわけではないのですが、その論旨は超党派的とはいえないかもしれません。この「公開書簡」を読む限り、イラクからの撤退などという発想のカケラも見えません。彼らの主張は、連続テロ事件以降の彼らの「世界戦略」を理解しないと、本当の意味で理解できないのです。

もう1つ注目されるのは、ライス国務長官の言葉として引用されている「イラクに対するコミットメントは1世代に及ぶものだ」というところです。英語でone generation というのは30年を意味します。これについては特にコメントしませんが、どう解釈すべきかは、皆さんで考えてみてください。

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