中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/10/22 金曜日

アメリカ大統領選挙の分析(4)なぜケリー人気は高まらないのか?

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ブログ原稿のアップが少し遅れました。『諸君』と『中央公論』の原稿などを抱えていた、時間が取れなかったからです。

三度にわたる公開討論の結果は、ケリー候補がブッシュ候補を破ったというのが一般的な受け止め方でした。その結果、瞬間的に世論調査でケリーの支持率がブッシュの支持率を上回りました。公開討論前は、ケリーは瀬戸際に立たされており、この公開討論会でケリーが失敗すれば、もう選挙は実質的に終ると見られていのですが、討論の結果、ケリーはブッシュを論破し、遅れを取っていたケリーがブッシュと一線に並んだと見られました。しかし、そのケリー・リードは長く続かず、支持率はすぐに低下し始めたのです。11月2日の選挙までに残された日は2週間足らず。果たして、ケリー候補の再度の巻き返しは可能なのでしょうか。

ちなみに最近時点の世論調査(支持率)の結果は、以下の通りです。

ABCニュース調査
  ブッシュ/チェイニー   50%
  ケリー/エドワーズ      46%
CNN/USAツデー/ギャロップ調査
  ブッシュ/チェイニー      52%
    ケリー/エドワーズ    44%
ニューズウィーク調査
  ブッシュ/チェイニー      50%
  ケリー/エドワーズ    44%
タイム調査
  ブッシュ/チェイニー   48%
  ケリー/チェイニー    46%

最近、アメリカ大使館のパーティに出席しました。その時、大使館のスタッフに次のような質問をしました。「世論調査では、アメリカ経済が悪くなっていると考えている人が多い。アメリカがより安全になっていると考えている人は少ない。イラク戦争は間違いであったと考えている人が多い。それはすべてブッシュ政権の責任である。通常のセンスで考えれば、当然、ケリーに対する支持が高まるはずである。しかし、多くのアメリカ人は、それでもブッシュを支持すると言っている。どう考えても、理解不能だ。アメリカ人の考え方をどう理解したらいいのか」と。彼は、ちょっと当惑した顔をして、「私にも理解できない」と答えました。

3回目の公開討論が終った後、アメリカの人気ニュース番組「ナイトライン」で、キャスターのコッポラが、「討論で勝ったのに、どうしてケリーの人気が高まらないのか」とレポーターに聞きました。それに対してレポーターは「ケリーの冷たさが不人気の原因である」と答えたのが印象的でした。多くのアメリカ人にとって、ブッシュ候補の“人なつっこさ”のほうがケリー候補の“インテリ然”とした雰囲気よりも好きなのであろう。ただ、日本人の私から見て、どうしてもブッシュが愛すべき人柄だとは思えないのだが・・・。

アメリカ人にとって、政策の差は大統領を選ぶに際して、それほど重要でないのかもしれない。アメリカはある意味では“分裂”国家になっています。武力による戦いはないものの、まったく世界観を異にする2つの大きなグループに分かれており、彼らは候補者がどうあれ、政策がどうあれ、自分の投票行動を変えないのです。『ロサンジェルス・タイムズ』紙が興味深い記事を載せています。少し引用すると、「2000年の大統領選挙の最も顕著なパターンの1つは教会に行く人と投票行動の間に極めて強い相関性が存在することだ。頻繁に教会に礼拝に行く人はブッシュに投票し、教会にほとんど行かないか、あるいはまったく行かない人はゴアに投票した」と書いています。そして、ケリー候補の選挙参謀のスタンレー・グリーンバーグは、「その傾向は前回の大統領選挙よりも今回のほうがより強くなっている」と答えています。そして、同紙は「今の大統領選挙は4年前の大統領選挙と大きく変わっているようにはみえない」と結論つけています。

アメリカ社会は、以前は「保守派」と「リベラル派」に分かれているといわれていました。しかし、最近では「チャーチ・ゴーアー(church goers)」と「ノン・チャーチ・ゴーアー(non-church goers)」に分かれているといわれています。チャーチ・ゴーアーは、イラク戦争や財政赤字、医療保険改革といった政策を議論する以前に、「神の声」を聞いて改悛し、経験なクリスチャンになったブッシュ候補と、ブッシュを支える保守思想を支持しているのです。他方、教会に礼拝に行かない人々は、プロチョイス(中絶の支持)や同性婚を支持している人々なのです。2つグループの間には、妥協の余地はまったくないのです。

選挙まで残された時間は2週間足らずです。多くの世論調査では、上記のようにブッシュ・リードという結果が出ています。最終的にどちらに動くか分からない「バトルグラウンド州」は10州あり、まだブッシュ候補が圧倒的に強いわけではありません。前回同様、今回も接戦になることは間違いないようです。まだ態度を決定していない有権者も多くいます。ある調査では、態度未決定の人の3分2は、ブッシュ大統領の“ジョブ・パフォーマンス(4年間の実績)”に満足していないと答えています。しかし、態度未決定の中には、ブッシュ支持に傾いた白人で、保守的な人が多く含まれています。一方、低学歴の女性の多くも態度未決定と答えています。彼女らはケリー支持の可能性が強い層である。ブッシュ陣営、ケリー陣営とも、態度未決定の層を投票所に行かせるために“get-out-vote”運動を積極的に展開している最中です。

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