中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/2/9 水曜日

『中央公論』3月号への寄稿:「大統領を作った男、カール・ローブ」ーもう1つのブッシュ政権の読み方

Filed under: - nakaoka @ 23:23

前回のブログをアップして時間が経ってしまいました。締め切り原稿と大学の授業準備、それに風邪とトリプル・パンチを食らい、まったく時間が取れませんでした。本来なら前回のブログの続きを書くべきなのですが、木曜締切りの原稿もあり、今回は『中央公論』3月号(2月10日発売)に寄稿した原稿を紹介します。以前のブログで大統領首席補佐官のアンドリュー・カードについて書きました。その際、カール・ローブにも若干触れましたが、このブログと『中央公論』の「カール・ローブ論」を合わせて読んでいただくと、ブッシュ政権のもう1つの顔が浮かびあがってきます。カードが首席補佐官であり、ローブが政治顧問ですが、実は、ローブはさらに重要な地位に就きます。それは首席補佐官に次ぐ「次席補佐官」に就任することが決まったのです。これでブッシュ・ファミリーに忠誠を尽くす二人の人物が完全にホワイトハウスを支配することになりました。以下、雑誌原稿のさわりを紹介し、私のコメントを付け足しました。

以下は『中央公論』3月号に寄稿した「大統領を作った男、カール・ローブ」の出だしの文章です。当然のことながら、前文を掲載できません。この最初の文章を読んで興味をもたれたら、ぜひ『中央公論』を購入して、ご一読ください。

「もしこの世界に「親和力」というものがあるとするなら、おそらくこの二人の若者の間に間違いなく「親和力」が働いたのかもしれない。時は一九七三年一一月二一日、感謝祭の前日である。ワシントンにある駅ユニオン・ステーションで一人の若者がボストンから来る若者を待っていた。彼のポケットには自動車の鍵が入っている。やがてホールで待つ彼のところに場違いなカーボーイハットを被り、ジーンズを履き、ボンバージャケットを着た若者が近づいてきた。それから三〇年後、駅のホールで待っていた若者はテレビのインタビューに答えて、「今でも彼にいつあったのか正確な日時を覚えている」と語っている」
 
「待っていた青年の名前はカール・ローブ。一九五〇年一二月二五日のクリスマスに生まれ、二人が最初に遭遇したときは二二歳であった。どう見ても知的とはいえないボストンからやってきた若者は、ハーバード大学経営大学院の学生のジョージ・W・ブッシュであった。一九四六年七月六日生まれの彼は、その時、二七歳であった。ローブがポケットに入れていた車の鍵は、当時、共和党全国委員会の委員長であったジョージ・W・H・ブッシュ(以下、ブッシュ・シニアという)から息子に渡すように頼まれたものであった。このハーバード・ボーイは、感謝祭をワシントンで家族と一緒に過ごすためにやってきたのである」

以下、「小見出し」を紹介します。

「若き日のブッシュとの出会い」
「ブッシュ・シニアに二度救われる」
「ローブの”汚い手”」
「2000年の大統領選挙の教訓」
「キリスト教右派の動員に成功」
「すべての政策を決める影響力」
「共和党一党支配という野望」

本寄稿は10ページです。細かな事実を積み重ねながら、カール・ローブの人物論を展開しつつ、ブッシュ政権の知られざる一面を分析したつもりです。本原稿を執筆した時点よりも、この原稿の持つ意味は大きくなってきていると思います。本稿で指摘したように、ローブは国内政策のみならず、外交政策にも大きな影響力を行使しています。それが、盟友カード首席補佐官と一緒に次席補佐官としてさらに大きな影響力を発揮することは間違いないでしょう。

ローブは”理念の人”ではありません。彼にとって、政策とは政治的な目的を達成するための手段に過ぎないのです。政策の効果がブッシュ政権にどのような影響を与えるのか、さらに長期的な共和党政権の基盤にどのような影響を及ぼすのかが最大の関心事なのです。その意味では徹底したプラグマチストといえるかもしれません。政治状況が変われば、大胆な政策転換を躊躇なくしてくるでしょう。彼の別名は「マキアベリ」なのです。

それは、理念先行型のネオコンとは大きく違うところです。ライス国務長官も、基本的には強硬派ですが、同時に極めて現実的かつプラグチックな対応を取ってくる人物でしょう。その意味では、ブッシュ政権はさらにしたたかになっていくかもしれません。

本稿の中では触れませんでしたが、ブッシュはローブに2つのニックネームを付けています。1つは「ボーイ・ジーニアス(天才少年)」であり、もう1つは「タード・ブロッサム(Turd Blossom)」というものです。「タード」とは「家禽の糞」という意味です。「テキサスの牛の糞の中に咲く花」という意味です。私たちの感覚からすると、あまり良い意味ではないですが、逆にえば、そうしたニックネームをつけるほど二人の関係は緊密であるということもできます。もう1つの解釈は、ブッシュ政権の暗い部分を担ってきたという意味が含まれているのかもしれません。「天才少年」と同時に、このニックネームはローブの本質を表現しているものかも知れません。

ブッシュ政権の特徴は「トップダウン」の決定にあると言われています。カードとローブというブッシュ・ファミリーに徹底的に忠誠心を示す二人の人物がホワイトハウスのナンバー・ワンとナンバー・ツーになったことの意味は、極めて大きいものかもしれません。こうした観点から、ブッシュ政権を見てみる必要もあるでしょう。いずれにせよ、『中央公論』の記事をぜひお読みください。

1件のコメント

  1. さっそく中公3月号を入手し読みました.出来事を縦軸に、思想的なつながりを横軸にして縦横に展開されている記事の作り方は、さすが鋭いなあと感心しました.それはそうと、中公は昔は必ず読んでたんですが、最近はとんと触手がのびませんでした(特に新社になってから).でも、他の記事もパラパラとみて、個人的に知っている人も書いたりしてて、又、読む気が出てきました.今後も期待しております.

    コメント by M.N生 — 2005年2月16日 @ 13:55

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