中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/2/11 金曜日

ブッシュ政権の外交政策を巡る群像(1):18人の論者たち

Filed under: - nakaoka @ 12:44

2月7日、ジョン・ボルトン国務次官の講演会が開かれました。私はその講演会に招待され、1時間半の講演を聞いてきました。ボルトン次官の約20分ほどのスピーチと、それに続く質疑が行なわれました。その講演と質疑応答の整理と評価を書くつもりでした。それで改めてボルトン次官について調べていたのですが、途中でテーマを変えることにしました。ボルトンの講演について書くのは後にします。実は1月19日に書いた「新ライス・チーム誕生でアメリカのが外交政策がどう変わるか」という記事が非常に頻繁に読まれています。その記事のポイントの1つが、ボルトン次官の扱いでした。その記事にも書いたのですが、ボルトン次官は一時、アーミティージ副長官の後を継ぐのではないかと思われていました。が、結果的にライス長官はゼーリックを副長官に選んだことを書きました。まだ現時点ではボルトン次官は明確に”辞意”を表明していません。したがって、ボルトン論とその問題のフォローアップをしなければならないと思っています。が、それを書く前に書いておきたいテーマが出てきました。それはブッシュ政権の外交政策を巡る一群の人々のことです。1998年1月26日にクリントン大統領宛てに私的書簡が送られました。一群の人々といいうのは、その書簡に署名した人々のことです。

ネオコンと称される人々は、クリントン政権の8年間、政策決定プロセスから排除されました。その多くは保守派の研究所に所属したり、自ら研究機関を設立したり、学界に戻ったりし、それぞれ論理構築を行なっています。その中で、ブッシュ政権の政策に大きな影響を与えたのが「The Project for the New American Century」と称する組織です。この組織は、ネオコン論者の代表的な存在と目されるウィリアム・クリストルやロバート・ケーガンなどが中心になって組織されたものです。

その組織が、先に触れたクリントン大統領への書簡を送ったのです。この書簡については「新ライス・チーム」の記事でも触れました。98年の古い話をなぜ今頃持ち出すのかと思われるかもしれません。しかし、過去の推移を本当に理解しないと、現状を理解することはできないのです。また、過去の事実をちゃんと記録として残しておく必要もだと思います。その意味で、本原稿の最後に「書簡」の全訳を載せます。専門家には自明のことでも、一般の読者は知らないことがたくさんあります。この「書簡」もその1つでしょう。少なくとも私が知る限り、この書簡はどこでも訳されていないと思います。その意味でも、全訳を載せておくことは、意味があるかと思っています。

この記事を書こうと思った理由は、ライスは後任の国家安全保障会議の責任者にスティーブ・ハドレーを選びました。そのハドレーが選んだ副責任者はエリオット・アブラムズであることを知ったからです。実は、アブラムズは、クリストルやケーガンと並び称されるネオコンの代表的な人物なのです。と同時に、「書簡」の署名者の一人なのです。

署名者の名前を列記します。
Elliot Abramsは、先に触れたように国家安全保障会議のナンバー2のポジションにつきまました。

Richard Amitageは、辞任を発表していますが、第1期ブッシュ政権ではパウエル国務長官を補佐した国務副長官を務めました。もし、「書簡」に署名した者をネオコンであると定義すれば、彼も立派なネオコンなのです。ただ、第1期ブッシュ政権ではパウエル長官の現実主義路線に近い主張をしていたように思われます。

William J. Bannettは、現在、ブッシュ大統領のスピーチ・ライターを務めています。

Jeffrey Bergnerは、現在、ロビー活動をする企業を経営し、クライアントにはヒューレット・パッカード、ボーイング、モンサント、デルなどの大企業が名を連ねています。

John Boltonは、最初に触れたように国務次官で「軍縮管理・国際安全保障」を担当しています。ブッシュ政権の中でタカ派として知られており、チェイニー副大統領やウォルオウイッツ国防副長官と極めて近い存在です。

Paula Dobrianskyは、国際問題担当の国務次官です。

Francis Fukuyamaは、現在、ジョンズ・ホプキンス大学教授です。冷戦終焉を踏まえて新しい時代を分析した「歴史の終焉」の著者としても知られています。日系アメリカ人です。

Robert Kaganは、the Project for the New American Centuryの共同設立者で、ネオコンを代表する論者です。現在、カーネギーメロン平和財団に所属しています。

Zalmay Khalilizadは、ラムズフェルド国防長官の法律顧問です。

William Kristolは、ネオコンの創始者といわれるアービング・クリストルの息子で、the Project for the New American Centuryの実質的な発起人です。父ブッシュ政権のクエール副大統領の首席補佐官を務めていたこともあります。現在はネオコンの週刊誌「ウフィークリー・スタンダード」の編集長を務め、メディアで積極的な言論活動をしています。本ブログに紹介した「議会への軍事増強を求める書簡」の署名者でもあります。

Richard Perlは、現在はthe Jewish Institute for National Security Affairsの諮問委員会のメンバーであり、政府の防衛政策委員会(the Defense Policy Board)の委員長を務めていました。

Peter W. Rodmanは、国際安全保障担当の国防次官です。

Donald Rumsfeldは、現在、国防長官です。

William Schneider, Jr.は、現在、国防政策委員会の委員長です。

Vin Weberは、ミネソタ出身の元下院議員です。

Paul Wolfowitzは、国防副長官で、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官などの政府のタカ派で、イラク戦争を決めた人物の一人です。

R. James Woolseyは、CIAの元長官です。

Robert B. Zoellockは、第1期ブッシュ政権の通商代表部代表でしたが、ライス国務長官の誕生で、アーミティージ副長官の後任に指名されています。ボルトン国務次官とは、同じ範疇に入る人物です。ちなみに、ボルトンの昇格人事がなかったのな、ルーガー議員が委員長を務める上院外交委員会がボルトンを承認しないとの見通しからだという説もあります。

「書簡」に署名した18名は、いずれもブッシュ政権で要職にあります。彼らが「書簡」でクリントン大統領に要求したことは、サダム・フセイン大統領の排除であり、フセイン体制の転換でした。もちろん、クリントン大統領は彼らの主張を受け入れることはありませんでしたが、ブッシュ政権の誕生、そして連続テロ事件によって、彼らは、その主張を実現させるのです。

非常に狭く、小さい一群のグループが、アメリカの外交政策の中枢を掌握しているのです。ボルトン国務次官が副長官に昇格しなかったことで、国務省の政策が変わるのではないかという予想もあります。しかに、副長官に就任するゼーリックも、「書簡」の署名者なのです。パウエル元国務長官がボルトンを次官に受け入れたのは、ホワイトハウスのタカ派に対する防壁の意味があったといわれていますが、パウエルはそのことで逆に足をすくわれてしまったのです。ボルトンはホワイトハウスのタカ派と組んで、国務省の現実派を圧倒したのです。では、ライス国務長官とゼーリック国務副長官で、国務省が変わるのかどうか・・・・。それはおいおい書いていきますが、現在、「世界週報」で、「新しい外交チームを評価する」という原稿を依頼されており、そこで詳細に分析したいと思っています。

良いか悪いか、好きか嫌いかは別にして、こうした極めて明確な世界観を持つ人々が集まり、政策を議論し、それを政治の場で実現していくというのがアメリカの政治の現実なのです。役人が自分の利権のために奔走し、なんらの世界観をも持たない政治家が声高に虚しい主張を繰り返す日本とは、政治の仕組みが違うのです。

この原稿が長くなりました。従って、「書簡」の全訳は別の原稿として、次のブログにアップすることにします。

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