中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/3/1 火曜日

好調続くアメリカ経済:アメリカ経済の見方のイロハを教えます(1)

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日本経済の先行きが不透明になってきています。これに対してアメリカ経済の高成長は続いています。今回は2月25日に発表された「GDP統計」と2月16日に連邦準備制度理事会(FRB)が議会に提出した「金融報告」、2月28日に発表になった「個人所得統計」をベースに、アメリカ経済の状況を整理してみたいと思います。2004年の経済成長率は4.4%を記録しました。2003年の3.0%、2002年の1.9%と比べると、さらに成長の勢いがついた感じです。2005年の見通しについては、FRBの「金融報告」は、3.5%から4%の成長率を予想しています。ちなみにFRBの予想は、連邦連邦制度理事会の7名の理事と12の連邦準備銀行総裁の経済成長見通しの範囲を示したものです。また、2006年の成長予想も3.25%から3.75%となっています。まだ当分、アメリカ経済が世界経済をリードする状況は続きそうです。以下、少し詳細に見てみることにします。

2004年の成長率を四半期別にみますと、第1四半期が4.5%、第2四半期が3.3%、第3四半期が4.0%、第4四半期が3.8%でした。通年では、先に触れたように4.4%の成長でした。ブッシュ政権の4年間の実績を見ると、リセッションに陥った2001年の成長率は0.8%と大きく落ち込みましたが、リセッションは短期間に終わり、2002年から徐々に回復に向かいます。ちなみにクリントン政権の最後の年の2000年の成長率は3.7%でした。またクリントン政権8年間で最も成長率が高かったのは1997年と1999年の4.5%ですから、昨年の4.4%の成長は、クリントン政権時代の”ローリング90”の頃に匹敵する状況です。大幅な財政赤字というツケを残し、やや歪な形ではあるものの、ブッシュ政権は高成長を実現したことは間違いないでしょう。FRBの予想でも、今後も3.5%から4%が期待できることになり、一種のブーム的状況ともいえます。ただ、メディアで盛り上がりが欠けるのは不思議です。レーガン政権の8年間の高成長は「ファット・セヴン・イヤー」と呼ばれています。

では、どうしてこのような高成長が実現したのでしょうか。まずマクロ的な環境を考えると、2度に及ぶ大幅減税が行われたこと、超低金利政策で経済に十分な流動性が供給されたことがあります。大幅減税は個人の可処分所得を増やす効果がありました。また低金利は、株高の大きな要因となり、また住宅価格の上昇を引き起こしました。いわゆる”富効果”によって、個人の可処分所得を増やす効果を発揮したのです。石油価格上昇など実質所得を低下させる要因もありましたが、個人消費の好調が続きました。個人消費の増加は、企業の生産活動を活性化させました。2002年~2003年頃までは”雇用増なき成長”が続きました。要するに企業は需要増加に対応して残業の増加などで対応し、常用雇用を増やすことに消極でした。だが、2003年の末から次第に雇用を増やしていきます。雇用増加は、失業率を引き下げ、同時に可処分所得を増やすことになります。こうした一種の好循環が現れたのです。

こうした状況を踏まえ、FRBは景気過熱を懸念して、超低金利政策を緩やかに修正し、政策金利であるフェデラル金利の目標値を小幅かつ連続的に引上げて行きました。一方、財政面では、減税によって財政赤字が発生しました。クリントン政権の財政黒字を引き継いだ2001年度の財政収支は1274億ドルの黒字でした。だが、2002年度は一気に1578億ドルの赤字に転落。2003年度は3771億ドル、2004年度は4126億ドルと、赤字幅は拡大しています。2005年度も3312億ドルと若干赤字幅は縮小するものの依然として大きな赤字になると予想されています。

要するにアメリカ経済の成長は個人消費に支えられてきているのです。成長要因を見る数字として「寄与度」というのがあります。単に伸び率だけではなく、どれだけ成長に寄与したかを見る数字です。2004年の項目別寄与度を見てみます。成長率は4.4%でした。このうち個人消費の寄与度は2.65%でした。要するに4.45%成長のうち60%以上(2.65÷4.4=0.602)が個人消費の伸びによってもたらされたのです。個人消費の中では、耐久消費財の寄与度は0.56%、非耐久消費財の寄与度は0.91%、サービス支出は1.17%でした。個人のサービス財に対する支出が成長の約27%を占めたのです。サービス支出の中で比率が高いのが医療関係の支出です(寄与度は0.44%)。ちなみに耐久消費財では家具の寄与度が0.34%、自動車の寄与度が0.12%でした。非耐久消費財では食品の寄与度が0.46%、衣料品が0.18%でした。住宅維持関係(電気代、ガス代)の寄与度は0.12%でした。したがって、石油価格が上昇すると電気ガス料金が増え、可処分所得に影響を及ぼすことになります。また、アメリカ社会は自動車社会なのでガソリン価格の動向も消費に大きな影響を与えます。アメリカ人が一番多く支出する商品は、自動車と家具なのです。家具に関して言えば、住宅建設と密接な関係があります。蛇足ですが、アメリカ人は良い家具を集めるのが好きな人が多い印象です。以上の消費支出から、アメリカ人の”消費生活”のイメージが浮かびあがってくるでしょう。

個人消費以外では、投資支出が大きなウエイトを占めています。2004年の設備投資の寄与度は2.0%でした(4.4%の成長のうちの45%は設備投資によってもたらされたものです)。経済にとって設備投資は重要です。設備投資によって生産力が高まり、生産性が向上し、それが生活水準を高めることになるのです。設備投資の内訳を見ると、非住宅投資の寄与度が1.55%でした。非住宅投資の中身は工場などの構造物や機械設備、コンピューのソフトウエアなどです。2004年は1.55%と非常に高い寄与度でしたが、2002年はマイナス0.80%、2003年は0.76%でした。まだリセッションの影響もあり、また過剰生産能力を抱えていたことで、企業は生産拡大(設備投資)に慎重だったのです。それが雇用が伸びなかった理由でもあります。しかし、2004年は急激な増加をしめしています。投資の中で住宅投資も大きなファクターです。2002年の住宅投資の寄与度は0.22%、2003年は0.43%、2004年は0.50%でした。

もう1つの大きな要因は在庫投資です。金額は比較的少ないのですが、景気に対して敏感に反応し、景気変動を大きくしたりする影響があります。企業が生産しても売れないと在庫として残ります。それが意図した在庫(将来の売り上げ増に備えたもの)か、意図せざるものか(売れるつもりで作ったが売れずに在庫になる)で評価の仕方が変わってきますが、通常、大きな変動を示します。その寄与度は、2002年が0.42%でした。これは景気悪化で「意図せざる在庫積み増し」があったのです。仮に意図しない在庫増加でも、経済成長にはプラスに加算されます。企業は在庫が溜まると生産調整をし、減産します。すると在庫は減ります。あるいは、消費が増加し、在庫がはけると、在庫は減ります。すると、それは成長率にとってマイナスになります。2003年の在庫の寄与度はマイナス0.10%でした。この分、成長の足を引っ張ったことになります。2004年は0.45%のプラスでした。消費好調を受けて、企業が増産したのかも知れません。あるいは、売上好調を予想して増産したら、売れ残ったのかもしれません。GDP統計からだけでは、その判断はできません。だだ四半期ベースでみると、2004年第1四半期の在庫の寄与度は1.17%と高水準でした。第2四半期には0.78%に低下、第3四半期はマイナス0.97%、第4四半期は0.60%となっています。結果として通年での寄与度は0.45%となったのです。傾向からいえば、在庫の寄与度は低下してきています。これは消費が好調なことを反映したものでしょう。

在庫投資に関していえば、以前ほど景気循環に与える影響は小さくなたっと言われています。「トヨタ・カンバン方式」英語では「just-in-time system」といいますが、在庫管理の手法が発達し、企業の生産計画と売上の間の情報処理が迅速になった結果、予期せざる在庫の発生する可能性が小さくなったといわれています。企業はビジネスチャンスを失わないように、常にある程度の在庫を置いておく必要があります。売上情報が迅速にフィードバックされたり、短期間で生産が対応できるなら、必要な在庫水準も低くなるわけです。とはいえ、景気循環の中で在庫循環は依然として重要な要因であることに変わりはありません。

次に大きな比率を占めるのが、政府支出です。政府支出は連邦政府と地方政府に分かれます。連邦政府支出は軍事支出と非軍事支出に分かれます。連邦政府の支出を見てみましょう。2002年の寄与度は0.46%でした。そのうち軍事費の寄与度は0.3%でした。2003年の連邦政府支出の寄与度は0.43%(軍事支出は0.385)、2004年は0.46%(同0.25%)でした。連邦政府支出の寄与度が次第に低下しているのに対して軍事費の寄与度は相対的に高まっています。これはイラク戦争などの出費があるためでしょう。ちなみに地方政府の2002年~2004年の寄与度は0.33%、0.09%、0.05%と低下しています。これは州財政が逼迫しているために、歳出削減を行なっているためです。

もう1つ重要な項目があります。2004年の個人消費、設備投資、在庫投資、政府支出の寄与度を合計すると5.02%になります。成長率が4.4%ですから、これでは計算が合いません。実は、純輸出という項目があるのです。2004年の純輸出はマイナス0.59%でした。5.02%から0.52%を引くと。4.43%になります。端数を除けば、4.4%になります。要するに輸出よりも輸入が多い貿易赤字になると、その分を控除しなければなりません。GDPとは「国内総生産」ですから、輸入分は国内で生産された価値部分とは見なされないからです。しかし、輸出は国内で生産したものです。ですから、輸出と輸入の調整をし、その差を「純輸出」と呼んでいるのです。収支がマイナスでも「純輸出」といいます。その場合は「純輸出がマイナスである」と表現します。したがって、アメリカは膨大な貿易赤字を抱えており、「純輸出はマイナス」なのです。

以上が基本的なGDP統計の読み方です。各部門のイメージはできたと思います。では、なぜ個人消費が順調なのでしょうか。このブログも長くなたので、(2)で説明することにします。

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