中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/3/2 水曜日

国防総省人事ーブッシュ政権を去るネオコンたち:ホワイトハウスで何が起こっているのか

Filed under: - nakaoka @ 12:55

月曜に時事通信社の「世界週報」にライス国務長官の外交政策について書きました。その中でライス長官の政策は「一国主義」から、国際協調を強調する路線に変わりつつあること、しかし「世界に自由と民主主義を広げる」というブッシュ大統領のアジェンダは生きており、外交面で現実主義、プラグマチズムに変わって行く可能性があるが、強硬な外交政策に変わりはないということを書きました。詳細は、同誌が発売になったらご一読ください。それとの関係で、国防総省の人事について触れます。昨日、海外のメデフィアで一斉に「ウォルフォウィッツ国防長官の世界銀行総裁への転出」のンツースが流れました。ニュース・ソースはホワイトハウス筋となっています。それについて、以下で書きます。

現在の世界銀行の総裁はジェームズ・ウォルフェンソンです。伝統的に世界銀行総裁はアメリカ、INF(国際通貨基金)はヨーロッパから選ばれることになっています。以前では、マクナマラ国防長官が世界銀行総裁になった例もあり、今回はウォルフォウィッツ国防副長官の名前が取り沙汰されています。もともと最初は世銀総裁候補に名前が挙がっていたのは、当時、通商代表部代表で、現国務副長官になったゼーリックです。ゼーリックは当初、世銀総裁に色気を示していましたが、ライス国務長官の希望で国務副長官に就任することになった経緯があります。

ウォルフォウィッツ国防副長官は、かつてインドネシア大使をしており、途上国に対する金融を行なう世銀総裁になっても不思議ではありません。ただ、彼はイラク戦争を推進した張本人の一人と見られており、途上国の受けが良くないうえ、ヨーロッパ諸国からの反発も予想されます。今回の世銀総裁の後任人事は、ホワイトハウスの国家安全保障委員会が中心になって進められています。国家安全保障委員会を取り仕切る安全保障担当首席補佐官はハドレーで、彼はライスが安全保障担当首席補佐官の時の部下であった人物です。したがって、穿った見方ですが、ウォルフォウィッツ国防副長官の転出にライス国務長官の意思が働いていると考えることもできないわけはなさそうです。

ライス国務長官にとって、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ国防副長官、フェイス国防次官は、政策の舵取りを変えていくうえで大きな障害になる可能性があります。以上の人物はいずれも”ネオコン”と称され、イラク戦争を推し進めた人々です。実はフェイス国防次官は、既に夏に辞職することを公式に発表しています。「家族と一緒に過ごしたい」というのがその理由ですが、一説ではスキャンダルに絡んで調査されているという噂もあります。いずれにせよ、彼の辞任もブッシュ政権の中の流れの変化を受けたものかもしれません。とすると、ウォルフォウィッツ国防副長官の辞任は、ある意味では、ブッシュ政権の中のネオコン派の影響力の低下を示すものかもしれません。ライス国務長官は、当初は国防長官への就任を希望していたと伝えられています。2003年にホワイトハウスの中に「イラン再建委員会」を設置し、その責任者に就任するなど、イラク戦争でもライスは陰で大きな影響力を行使していました。が、チェイニー副大統領を中心とする好戦派とそりが合わなかったのではないかと想像されます。

もう1つ大きな変化があります。フェイス国防次官は2月中旬に外交関係評議会で講演をしています。その中で明確に「アメリカは海外の支援がなければ戦争に勝てない」と述べているくだりがあります。従来のネオコンが主張していた「一国主義」とはかなり色合いの違う発言です。

主戦はの国防副長官と国防次官が共にブッシュ政権を去るとなると、これは明らかにブッシュ政権の大きな政策転換を予兆させるものかもしれません。ただ、上で述べたように、ライス国務長官の外交が、パウエル外交のように穏健的になると期待するのは無理でしょう。たとえば、ゼーリック国務副長官は、外交的な目的を達成するためは、強硬な通商政策、経済政策を辞さないという姿勢を取っています。彼は通商代表部代表として多角的交渉を嫌い、二国間での交渉を要求していました。今回、ライス国務長官が日本のアメリカ産牛肉の輸入禁止にクレームをつけ、場合によっては報復をするとほのめかしたのも、ゼーリック副長官の考えを反映したものではないかと考えられます。

ただ、ライス路線が順調に行くかどうか不透明です。今回の訪欧でも結局、レトリックでは和解したものの、具体的な支援は得られませんでした。また、「世界週報」にも書きましたが対EU政策でライス長官とラムズフェルド長官の間で意見の違いも表面化しています。

第2期ブッシュ政権で、超プラグマチストで大統領に絶大な影響力を持つカール・ローブが副首席補佐官に就任したことも、内政外交両面で軌道修正をすることを暗示しているのかもしれません。ライス国務長官の影響力が強まっている気がします。彼女は、ニクソン政権のキッシンジャー国務長官、あるいはレーガン政権のジェームズ・ベーカー国務長官的な役割を目指しているのかもしれません。ただ、キッシンジャー外交は基本的に”デタント政策”です。これは共和党の伝統的な外交政策です。ただ、ライス長官が、そうした政策に戻ろうとしていると判断するのは早計でしょう。ネオコン的外交というのは、イデオロギー過剰で、逆に組み易いところもあったといえます。しかし、現実派の台頭は外交政策でもっと厳しい要求を突きつけてくることになるかもしれません。

ちなみに、ライスのことを「大統領の耳を持っている」と表現している記事もあります。要するに、彼女のいうことに大統領は耳を傾けるという意味でしょう。パウエル前国務長官が大統領に直接会えなかったことと比べれば、ライスの政府内部での影響力は非常に大きいといえます。

ついでに3月1日に上院予算委員会でのウォルフォウイッツ副長官の証言を紹介します。「この戦争(イラク戦争)は高くつく。この戦いの中でのアメリカ軍の役割は間違いなく、最も高額なものである。アメリカの納税者に資金を要求するという点においても、アメリカ軍の兵士の犠牲を要求するという点においても、極めて高くつくものである。アメリカの兵士はアメリカの自由と安全保障のために最大限の犠牲を払っている」「テロリズムの問題は過去20年から30年にわたって生じてきたものである。2年や3年でなくなるものではない。どれだけの長い期間かけてアメリカは冷戦を戦ってきの、どれだけの長い時間をかけて西欧を再建してきたのか思い出して欲しい。しかし、冷戦も西欧の再建もどのようにして終ったか知っている。私たちは、アメリカの国民が、アメリカの同盟国が自由のために断固たる決意を持って立ち上がるとき、一見不可能に見える挑戦を成し遂げることができることを知っている」。

なお、世銀総裁の他の候補として、財務省のジョン・テイラー次官、ミシガン州立大学学長のピーター・マクファーソン、製薬会社イライリーの元会長兼CEOのランダール・トビアスなどがあがっています。

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