中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/10/28 木曜日

大統領選挙分析(6):アメリカが分裂の様相を呈する

Filed under: - nakaoka @ 18:36

大統領選挙は残すところ5日となりました。各メディアの世論調査が相次いで出されていますが、ブッシュ、ケリーいずれの候補者も圧倒的なリードを確立できないまま、最終日を迎えることになりそうです。「ワシントン・ポスト」紙は、両者とも獲得選挙人の数が269人と同数になる可能性も否定できないと報道しています。以前の本欄の記事で何度も触れたように、最終的には「スイング・ステート」あるいは「バトルグラウンド・ステート」をどちらが制するかで、選挙の結果が決まることになるでしょう。

だが、多くの世論調査では、その激戦区の勝敗を予想できないほどの接戦となっているようです。いずれの候補者が選挙で勝利を収めるにしても、その差は僅差となることは間違いないでしょう。2000年の大統領選挙では、ブッシュ候補が総得票数でゴア候補に負けたにもかかわらず、選挙人の獲得数ではゴア候補を上回り、大統領に当選しました。今回も似た状況が見られるかもしれません。「ワシントン・ポスト」紙は「全国的な得票数ではブッシュがリードしているが、多くのバトルグラウンドの州ではケリーがリードしている」と分析しています。もし、その分析通りなら、前回の大統領選挙と逆に「ブッシュ候補は得票数でケリーを上回るが、選挙人の数ではケリーに負ける」ということになります。

問題は、前回と同じような事態になれば、アメリカは真っ二つに割れてしまうでしょう。今回の選挙は、お互いを罵り合う泥仕合の様相を示しています。共和党全国委員会は、一部の州で「もしケリーが大統領になれば、聖書は禁止され、男性が男性と結婚することになる」といった極めて感情的な内容のビラを配っています。ケリー陣営も、同じような感情的な言葉を使ってブッシュ批判を展開しています。また、両陣営がテレビ・コマーシャルに毎日900万ドルも使っています。独立系のグループもそれぞれが支持する候補を支援するために積極的な宣伝活動を行なっており、4億ドル近い資金を投入しています。こうしたやり取りは、どちらが大統領になるにせよ、アメリカ国民に大きな心理的な傷を残すことになるでしょう。また、僅差で勝利を収めた大統領は、常にその”正当性”が問われ続け、十分な統治能力を発揮できないという事態に直面するかもしれません。

前回の選挙でブッシュ候補が大統領に当選したのは、フロリダ州の投票結果を最高裁が有効と判断したからです。そのためブッシュ大統領は”最高裁が選んだ大統領”と見なされ、その正当性が問われました。もし9月11日の同時テロ事件がなければ、ブッシュ大統領は4年間の任期中、常に正当性を問われ続けたでしょう。今回も、得票数と選挙人の数が逆転するような形で大統領が決まれば、あるいは僅差で勝敗が決まれば、反対陣営から大統領の正当性が常に取り上げられることになるでしょう。また大統領も、過半数に近い反対票を無視して政治を行なうことは難しくなるでしょう。

日本では信じられないことですが、アメリカ国民の30%近くの有権者が、自分が投票した票がちゃんと数えられているか不安に思っているのです。前回、フロリダ州で投票数の数え方、不在者投票の処理が問題になりました。今回も両陣営とも、票数確定に関して訴訟を起こすなど準備を進めています。共和党は訴訟費用として既に1000万ドルを準備しています。民主党も、前回、フロリダ州での票が確定する前にゴア候補がはやばやと「敗北宣言」を出したことが大失敗であったとの反省から、かりにブッシュ候補に有利な開票結果になった場合でも、「敗北宣言」をせずに、票の数え直しを求める方針を出してます。こうしたことから判断すると、11月2日に投票が行なわれても、当日に当選が決まらないという事態が起こりうる可能性も大きいのです。

週刊誌の「タイム」は11月1日号で、泥仕合の大統領選挙の「The Morning After」と題する特集を組み、選挙後に予想される混乱を分析しています。今回の選挙は、保守とリベラルの激突の様相を示しています。ブッシュ候補を支持する保守派の人々は、ブッシュ候補が”敬虔なクリスチャン”であるということだけから「自分たちの仲間だ」として支持しています。筆者の知人のアメリカ人の学者は「保守派は心情的にブッシュを支持しており、政策の是非など考えてはいない」と語っていました。リベラル派の人々も、保守派に対する感情的な反発が表面に出ているようです。要するに、今回の大統領選挙は政策の選択ではなく、「世界観の選択」「好き嫌いの選択」となっているのです。それだけに、選挙後のアメリカの政治の混乱は避けられないかも知れません。

最後に、もし獲得選挙人が同数の場合、どのようにして大統領を選ぶかについて説明しておきます。以前に説明したように、どれだけの州で勝利するか、言い換えると割り当てられた選挙人を何人獲得するかで、選挙の結果が決まります。その場合、2つの可能性があります。投票人は全員、州で勝利を収めた大統領候補に投票することになります。これは勝者がすべての選挙人を得る「winner-take-allシステム」です。しかし、選挙人の中に、独自の投票をする動きも出てきています。「ワシントン・ポスト」紙によれば、ブッシュ候補が勝利を収めると見られいるウエスト・バージニア州の選挙人の一人であるサウス・チャールストンのロブ市長は、ブッシュ候補に投票しないと公言しています。そうした事態が起こった場合、大統領選挙はさらに混迷するでしょう。また、州の中には「winner-take-allシステム」に従わない州もあります。メイン州では下院の選挙区の勝利に基づいて選挙人を按分する方式を採用しています。また、今回、激戦区の1つであるコロラド州でも得票率で選挙人を按分する法律改正を承認するかどうかの投票も同時に行なっています。同法案が成立する可能性は小さいと見られていますが、もし成立した場合、獲得が予想される選挙人の数が変わり、選挙結果に重大な影響を及ぼすことになります。

では、選挙人の数が同数の場合、どのようにして大統領を選ぶのでしょうか。まず大統領は連邦議会の下院の選挙(各州に1票が割り当てられる)で、副大統領は上院での選挙(各州に1表が割り当てられる)で選ばれます。1824年の大統領選挙で、ジョン・アダムス候補は下院の選挙を経て、大統領に就任しました。

政治的にも、社会的にも、今回の大統領選挙はアメリカの将来に大きな影響を及ぼす選挙になりそうです。

1件のコメント

  1. texas hold’em
    I should think it is possible for reason to partially subvert faith; this would happen if, for example, there were a really good argument from premises evident to reason for the denial of something ce

    トラックバック by texas hold'em — 2005年2月21日 @ 23:19

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