中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/3/12 土曜日

アメリカのエネルギー政策を分析する:「エネルギー法案」の成立を期すブッシュ政権と反対に回る民主党・環境団体

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イラク戦争が始まったとき、一部の人々は「テキサスの石油資本がイラクの石油を支配下にいれるのが目的だ」と主張していました。その真偽は分かりませんが、エネルギー確保がアメリカにとって重要な政策であることは間違いありません。では、アメリカはどの程度、中東原油に依存しているのでしょうか。米エネルギー省のデータでは、2004年12月の原油および同製品の国別の輸入は次のようになっています。最も多いのがカナダで195.2万バーレル/日です。次がベネズエラの157.7万バーレル、3位がサウジアラビアの150.1万バーレル、4位がメキシコの133.1万バーレル、ナイジェリアの102.7万バーレル、ロシアの36.4万バーレルです。問題のイラクは62.6万バーレルです。埋蔵量は別にして、アメリカはカナダと中南米、サウジから大半の原油と同製品を輸入しているのです。さらにブッシュ政権成立直後の2001年5月に「National Energy Poicy」を発表。これはチェイニー副大統領を議長とするNational Energy Policy Development Groupが作成したものです。以下でアメリカのエネルギー政策を分析します。

同レポートが作成されたとき、その内容は公表されず、訴訟によって初めて公になったものです。なお同グループのメンバーにはパウエル国務長官などが名を連ねています。その最大の狙いは”エネルギーの海外依存を低める”ということにありました。そのために、アラスカなどでの採掘の許可、代替エネルギーの開発が課題に上げられています。その後、2度にわたって「エネルギー法案」が議会に提出されましたが、2度とも上院で否決されています。再選を果たしたブッシュ政権は再び「エネルギー法案」の成立を推し進める方針を出していますが、民主党や環境団体の反対もあり、まだ先行きは不透明です。以下は、ある雑誌に2月に寄稿した原稿です。原文のまま「である調」にしてあります。

第2期ブッシュ政権が動き始めた。閣僚の大幅な入れ替えも行なわれた。通常、第2期政権は次がないためにレーム・ダック政権といわれ、大統領の掌握力が低下するものである。だが、第2期ブッシュ政権の内閣の新陣容を見てみると、ブッシュ大統領に忠誠を示す閣僚を配置し、第1期政権よりも求心力が強まっているように思える。

ブッシュ政権にとってエネルギーの安定供給は最大の課題に一つである。本稿では、ブッシュ政権のエネルギー政策について分析する。昨年12月10日にブッシュ大統領は財務副長官のサミュエル・ボドマンを新エネルギー長官に指名した。ボドマンを紹介する記者会見の席上、ブッシュ大統領はエネルギー政策に関して「次の4年間、私たちは健全なエネルギー政策を通して経済的安定と国家の安全保障を高める努力を行なう。国内と近隣諸国でのエネルギー開発を進め、それによって世界の不安定な地域からのエネルギーに対する依存度を低下させる」と述べている。

これを受けてボドマンは「大統領は2001年5月に新しい技術への投資と新しい国内のエネルギー源の発見と開発を通して適切な価格で、信頼できるエネルギー供給を促進する我が国にとって最初の包括的なエネルギー計画を発表した。この計画で提示された106件の政策勧告のうちほぼ七五%は実現に移され、アメリカのエネルギー状況は以前よりも改善している」と語っている。

2月7日にボルトン国務次官が東京で行なった演説で第2期ブッシュ政権の外交政策について質問されたとき、彼は「ブッシュ政権の外交政策は基本的に第1期政権と変わるものではない」と答えているが、第2期ブッシュ政権のエネルギー政策も基本的に第1期政権の延長線上にある。それは、ボドマンが触れているようにブッシュ政権誕生直後の2001年5月に発表された「国家エネルギー政策(National Energy Policy)」が、引き続きブッシュ政権のエネルギー政策の基本であるということだ。

同報告は、チェイニー副大統領を議長とする「国家エネルギー政策策定フループ」によって作成されたものである。当初、この報告は機密扱いにされ、裁判所の命令によって公表されたいわくつきの報告である。

第1期ブッシュ政権のエネルギー政策は、基本的にこの報告に書かれている勧告を実行に移すことであった。ボドマンによれば「政策勧告のうちほぼ75%は実行に移された」ことになる。

だが、実態は、必ずしもブッシュ政権の思惑通りには進んでいない。第1期ブッシュ政権は、幾つかの深刻なエネルギー問題に直面した。一つはカリフォルニア州での深刻な電力不足であり、もう一つは東部を襲った大規模な停電事故である。この二つの事件は、エネルギー産業の民営化を進めた結果、発生したものであった。たとえば、東部の大規模な停電は、利益優先の電力企業が送電ネットワークに十分な投資を行なってこなかったために被害が広がったものである。さらに昨年の原油価格上昇も、ブッシュ政権のエネルギー政策に深刻な影響を及ぼしたことは間違いない。

「国家エネルギー政策」の基本は、エネルギーの国内開発(具体的には石油採掘、石炭利用、原子力エネルギー開発、太陽エネルギーなどの新エネルギー源の開発)を促進し、エネルギーの海外依存を低下させることにあった。これは、長期的にエネルギー需給が逼迫するという見通しに立っている。エネルギー省は、2025年までにエネルギー需要は43%増えるのに対して、供給は23%の増加に留まると推定している。これは中国や東欧諸国の経済成長が高まり、エネルギー需要が増加するからである。アメリカ国内の石油精製能力も既にフル・キャパシィティの94%に達しており、近い将来、供給ネックが深刻な問題になると予想されている。

こうした状況の中でブッシュ政権のエネルギー政策をどう評価すればいいのであろうか。「国家エネルギー政策」で勧告された政策のかなりの部分が実行に移されたというボドマン新エネルギー長官の楽観的な評価に対して、産業界からは「アメリカには依然としてエネルギー政策が存在しない」(マイク・ブローディ全米製造業者協会会長)という批判も聞かれる。

第1期ブッシュ政権は「国家エネルギー政策」に基づいて「エネルギー法」の制定を急いできた。2003年と2004年にそれぞれ「エネルギー法案」が提出された。いずれの法案も下院を通過したものの、上院で否決され、成立に至っていない。そのため、ブッシュ大統領は、今年の「一般教書」演説の中で「アメリカが海外へのエネルギー依存を低下させ、もっと安定したエネルギーを確保する法律を議会がエネルギー法を成立させることを要請する」とわざわざ発言している。さらに、ブッシュ大統領は「予算教書」の中でエネルギー政策を具体的に指摘している。「FutureGen」と呼ばれる石炭の無公害化プロジェクトへの資金提供、核エネルギーの研究助成、消費者の新しいエネルギー効率基準の設定、風力、太陽熱などの新エネルギー利用を促進するための税措置、アラスカの野生保護地域での石油採掘の許可などが含まれている。

特にブッシュ政権にとって最大の課題となっているのは、アラスカの野生保護地区での石油採掘問題である。政府の試算では、開発が承認されれば、日産100万バーレルの石油の採掘が見込まれるほか、同地域はアメリカ国内で最大の天然ガスの埋蔵量がある。この地域のエネルギー開発は、ブッシュ政権が目指す「国内エネルギー源の開発と輸入エネルギー依存の低下」を実現するために不可避となっており、大統領選挙でもブッシュ大統領は開発容認の姿勢を明らかにしていた。

しかし、二度にわたって「エネルギー法」が議会で成立できなかった最大の要因は、この地域での石油開発条項を盛り込んでいたためである。自然保護団体や民主党議員は、どう地域での石油採掘に徹底反対の姿勢を崩していない。また、同じく国内エネルギー開発の目玉と見られている大陸棚での石油採掘も、環境保護団体が反対しており、政府の思惑通りにはエネルギー開発計画は進んでいないのが実情である。

さらにブッシュ政権のエネルギー政策の大きな足かせとなっている課題がある。それは、MTBE(メチル・t・ブティル・エーテル)製造業団体が、「製造物責任」の対象から除外するように求めている問題がある。同業界はガソリンの効率を上げるための添加物を生産しているが、その過程で地下水汚染の可能性があることから、巨額の製造物責任を問われることは経営上負担しきれないと主張している。2004年エネルギー法では、下院が除外を認めたのに対して上院が反対して、結局、同法は成立を見なかった経緯がある。

今年、アラスカの野生動物保護地域の開発とMTBE業界の製造物責任の条項を外して、「エネルギー法」が再度提出されている。1月24日に上院エネルギー天然資源委員会は公聴会を開催し、ドメニチ同委員長は「エネルギー法」成立に楽観的な見通しを語っている。昨年の選挙でエネルギー開発に積極的な上院議員が三名増えていることから、5年目にしてやっと「エネルギー法」が成立する見込みとなっている。しかし、ブッシュ政権の企業寄りの姿勢や開発優先の政策に対して民主党と環境保護団体は対決姿勢を強めており、エネルギー政策は第2期ブッシュ政権のアキレス腱になる可能性もある(以上)。

アメリカで生活したことのある人は承知のことだと思いますが、大半の住宅は集中暖房です。ですから、冬場の光熱費はかなりの額になります。以前、映画を見ていてアメリカの女性が厚い毛皮のコートを着ており、その下は薄着なのが不思議に思ったことがあります。日本では冬は重ね着で寒さを凌ぎます。住宅の中も部分暖房で、廊下に出ると凍えたものです。その謎が解けたのは、アメリカに暮らしてからです。集中暖房で、部屋の中は暖かく、重ね着をする必要はないのです。ですから、外出するときに厚手のコートを羽織ることになります。私はアメリカに住んでいるとき、部屋にいるときは半袖だったこともありました。最近では室温を下げているので、半袖ではないでしょうが、いずれにせよ猛烈にガソリンを炊いて部屋を温めているのです。冬になると新聞に部屋で凍死した老人のニュースが載ります。それだけ寒いということなのでしょうが、暖房がなければ生活できないというのがアメリカです。それだけにエネルギー価格の動向は家計を直撃します。

もう1つは自動車です。アメリカは自動車を前提に生活が作られています。特に夏場は自動車で休暇に出かけ、自動車のガソリン需要は夏にピークを迎えます。ここでもガソリン価格が家計を直撃することになります。そうしたアメリカの生活状況を想定しながら、上の文章を読んでください。蛇足ですが、アメリカの環境団体の政治力は非常に強いことも、日本との違いでしょう。

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