中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/9/8 木曜日

国連安全保障理事会の拡大に対するアメリカの基本政策と日本の国連における投票行動

Filed under: - nakaoka @ 3:00

予想通り、ボルトン新米国連大使は着任直後から”豪腕”を振るい始めたようです。議会の承認を得られず、大統領がリセス・アポイントメントに署名する前から、国務省内にオフィスを構えていたボルトンは、オフィス・スペースの拡大とスタッフの増員を要求していました。彼は、活動のベースを国連本部にあるニューヨークに移すのではなく、あくまでワシントンに置く意向を持っていたようです。すなわち、ブッシュ政権と議会との密接な関係を維持することが国連での活動をする上で重要だという判断をもっていたからです。同時に、これは彼がいかに政府内や共和党との間に太いパイプを持っているかを示しているのかもしれません。外務省の幹部は「ボルトンとは電話一本で話ができる」と語っていたようですが、果たして本当なのでしょうか。外務省に、日本が国連総会や安全保障理事会でどのような投票を行なったのか問い合わせましたが、回答を得ることができませんでした。そんなとき、アメリカの保守派のシンクタンク「ヘリテージ・ファンデーション」が、まさに私の質問に答える論文を発表していました。その論文(「U.N. Security Council Expansion Is not in the U.S. Interest」)を使って、改めて日本が目指す安全保障理事会の常任理事国入りの問題を整理してみたいと思います。以前のブログで同じテーマについて書いてありますので、参照してください。また議会で審議中の「国連改革法」についての記事も参照ください。

アメリカの国務省は、国連加盟国の投票行動を毎年分析しています。アメリカの投票と同じ投票をしたのか、あるいは反対の投票をしたのかの統計を取り、分析しているのです。要するに、各国がアメリカの国益とどこまで一致した行動を取っているのかを調べているのです。以前のブログにも書きましたが、アメリカの基本的な考え方は極めて明確です。大胆にいえば、「国連はアメリカの国益に奉仕すべきである」ということです。ですから、いかなる国連改革も、安全保障理事会の改革も、この原則に反するものは承認しないということです。すなわち、アメリカは現在でも安全保障理事会は機能していないと考えています。ですから、現在以上拒否権を持った常任理事国が増えることは、アメリカの権力を希薄化させることになると考えており、心の底では、安全保障理事会の拡大には反対なのです。

私が外務省に問い合わせたのも「一体、日本はどれだけ独自性を持って国連で活動しているか」を知りたかったからです。その尺度が、日本の総会での投票と安全保障理事会の非常任理事国の時の投票だと考えました。ちゃんと調べれば、外務省のHPのどこかに資料が掲載されているかもしれませんが、今回はアメリカの資料を元に考えてみることにします。

まず国連総会でアメリカの投票とどれだけ一致したかの順位を見てみます。1999年から2004年の6年間の一致率(平均)の順位を見ると、1位はイスラエルで92.23%でした。90%を越える国は、イスラエル一国でした。いわばアメリカとイスラエルはほぼ一体化しているといえます。それは、アメリカは国連でイスラエルの代弁者になっていることから、当然なのかもしれません。2位がパラオ89.12%、3位がミクロネシアの80.50%です。80%台はこの2カ国だけです。4位はマーシャル諸島(79.67%)、5位がイギリス(63.60%)でした。

では、今回、安全保障理事会の常任理事国入りを目指している国はどうでしょうか。まず、日本ですが、50.22%で、第41位でした。ドイツは55.20%で、12位ですが、日本との差はそれほど大きくはありません。インドはどうでしょうか。20.43%で149位、ブラジルは29.05%で80位、ナイジェリアは25.15%で104位、南アフリカは25.07%で106位、エジプトは17.28%で168位でした。要するに、ドイツと日本の総会での投票の半分がアメリカと同じであったということです。しかし、途上国の中の大国の投票はアメリカとは大きく異なっています。

以上は6年間の平均ですが、2004年だけを取り上げると、ドイツは44.8%、日本は42.9%、ブラジルは14.9%、ナイジェリアは14.9%、南アフリカは11.4%、インドは20.0%、エジプトは8.5%でした。日本、ドイツとも6年間の平均値と比べるとアメリカとの同調性が低下しています。日本だけ、過去の実績を書いておきます。1999年は63.3%、2000年は58.8%、2001年は48.3%、2002年は48.6%、2003年は39.4%でした。投票行動がアメリカと一致するかどうかは日本から見れば重要な問題ではないかもしれませんが、アメリカにとって重要な要素なのです。先に触れたように、アメリカの保守主義者は伝統的に「国連はアメリカの国益に反する存在である」と考えており、国連改革や安全保障理事会の改革を判断するとき、こうした候補国の投票行動が重要な判断材料になるのです。

この投票行動からいえば、ドイツは日本よりもアメリカとの同調率(coincidence)が高いのですが、アメリカは日本の常任理事国入りを支持していますが、ドイツについては反対しています。これに関しては、イラク戦争の際にドイツが反対したことが響いているという論調が欧米のメディアにあります。おそらくそうした要因も働いているのでしょう。

以上は総会での投票行動ですが、安全保障理事会の常任理事国の有力候補国の投票行動はどうでしょうか。これは2000年から2004年の期間の結果(平均値)ですが、日本の投票の66.06%で、1位でした。ドイツは64.32%で2位、ブラジルは34.84%で3位、ナイジェリアは22.94%で4位、南アフリカは19.28%で5位、インドは19.06%で6位、エジプトは15.52%で7位でした。国連総会での投票行動と若干の違いがあります。総会での投票ではドイツが1位でしたが、安全保障理事会での投票では日本が1位になっています。アメリカが総会よりも安全保障理事会を重視しているとすれば、アメリカが日本の常任理事国入りを支持するのも当然かもしれません。アメリカにとて、安全保障理事会でアメリカに反対する国が増えることは、アメリカにとって好ましくないからです。

また、アメリカは、安全保障理事会の拡大と国連改革はパッケージだと考えているのです。ですから、アメリカが考える国連改革に同調するかどうかも重要な要素になります。アメリカは、国連の行政は非効率であり、腐敗が蔓延し、透明性に欠けると考えています。これに対して日本の立場は、国連全体の改革よりも、安全保障理事会の拡大と常任理事国入りのみに関心を持っているようです。アメリカは常任理事国拡大に関して、2005年6月22日に開かれた総会で日本の常任理事国入りを支持し、「2カ国程度の常任理事国の増加と、地域に応じて非常任理事国を2~3カ国増やす」と発言しています。単純に合計すれば、常任理事国と非常任理事国は合計4~5カ国程度増加することを想定しているようです。

国連憲章の改正には総会で3分の2以上の支持、あるいは128カ国の支持が必要です。さらに総会で支持を得ても常任理事国5カ国すべてによって承認されないと、改正は行なうことができません。したがって、アメリカが反対すれば、常任理事国を増やすことはできないわけです。また、日本の常任理事国入りを反対している中国が「ノー」といえば、安保理の改革は承認されないことになります。

現在3つの安全保障理事会の改革案が提案されています。まず「グループ4」と呼ばれる案で、日本、ドイツ、インド、ブラジルが提案している案です。2つ目が53カ国で構成される「アフリカ連合案」です。同案は、安全保障理事会のメンバーを26カ国に増やすことを求めています。もう1つは「コンセンサス・グループ」案で、10カ国の非常任理事国を増やす案です。アルジェンチン、カナダ、イタリア、メキシコ、韓国、スペイン、トルコなどが、同案に賛成しています。「グループ4」は「アフリカ連合」の支持を取り付けようとしましたが、失敗に終っています。この3つの案はいずれも総会の3分の2の支持を取り付けるまでに至っていません。

以前のブログで、いったい日本は何のために常任理事国入りを目指しているのか分からないと書きました。国連への拠出金が多いから当然しかるべき地位を与えられるべきだというのも、1つの主張でしょう。しかし、明確な外交政策がなければ、かりに常任理事国になってもアメリカに同調するだけでは、意味がありません。どれだけ自己主張ができるのか、どれだけ国益を主張できるのかが問題となってきます。自己主張し、国益を主張するには、明確な外交戦略が必要です。もし日本がアジアの利益を代表するのであれば、アジアにおける政治的、外交的な明確な位置づけが必要でしょう。「グループ4」案にアジア諸国の積極的な支持がないということは、そうした外交戦略に欠けている証拠かもしれません。共通する理念や自らの指導原理を持たない限り、誰も日本に付いてこようとは思わないでしょう。

先に書いたように、アメリカは露骨なまでに国連での国益を追求しています。しかし、同時に国連の腐敗を追求する点においては他の国の追随を許さないほど徹底しています。国連の「透明性」「説明責任」「効率的な運営」「腐敗防止」という主張も、頷けるところがあります。今や国連官僚は肥大化し、特権化していることは明白です。どうも日本人は、国際機関と聞くと、崇高な存在だと思ってしまう傾向が強いのですが、そう理想的なものではないのです。また、日本政府は日本人スタッフの増加などを要求していますが、これでは国連改革を主張するのに迫力を欠くでしょう。国連に日本人スタッフが少ないのは国連に人種差別があるからではなく、日本の雇用システムが大きな阻害要因になっていることも忘れてはならないでしょう。

ある閣僚は「今というチャンスを逃したら、もう次のチャンスはない」と語っていました。それには2つの解釈が可能でしょう。1つは、もう当分の間、国連改革が議論されることはなく、したがって日本が常任理事国入りのチャンスもなくなるという解釈です。もう1つは、日本の国際的な地位が中期的、長期的に低下する可能性が強く、今のチャンスを逃したら、仮に次のチャンスが来てももう国際社会で相手にされないかもしれないという解釈です。今の日本の状況を見ていると、後者の可能性のほうが強そうです。国際的なセンスのない政治家と、小役人的な外務官僚が、国際社会で日本の存在意義を高めてくれるとは思えません。

結果を予想しても始まりません。事態が急変して、日本が常任理自国になるかもしれません。しかし、だからといって上に指摘した問題が解決されるわけではないのです。ブッシュ政権が日本の常任理自国入りを支持しても、それを裏付ける実質的なことは何もないのです。イラク派兵に対する”リップサービス”というのが私の理解であり、安全保障理事会と総会での日本の投票行動を見る限り、日本はアメリカの”国益”に反する国ではないのです。

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