中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/6/17 金曜日

混迷続くボルトン国連大使の議会承認

Filed under: - nakaoka @ 9:01

ボルトンの国連大使の上院での承認が依然として不透明のままです。5月に上院本会議で表決が行なわれる予定でしたが民主党の反対で採決ができないまま、メモリアル・デー休会明けの6月6日の週に表決が行なわれるとの見通しがありました。しかし、依然として強硬な民主党のフィリバスター(filibuster:議事妨害)で採決に至っていません。共和党のビル・ファースト共和党上院院内総務は6月20日に採決を行なうと発表しました。しかし、民主党はボルトンが盗聴で得たアメリカ人36名の指名を明らかにすること(その詳細は後述します)、シリアの大量破壊兵器に関する演説草稿を提出するように議会に求めています。ボルトンの国務次官の後任としてロバート・ジョセフが承認され、ボルトンの肩書きは正式に前国務次官になりました。ただ、彼は次官のポストを外れたものの、依然として国務省内にオフィスを持っています。以下、『世界週報』に寄稿した「ボルトン国連大使人事紛糾の真相」を転載し、その後の展開について書きます。

ライス国務長官は「もうボルトンの承認に関する投票を行なうべきだ。彼はすべての疑問に既に答えている。私は、議会の審議を十分に尊重している。アメリカの国連大使が決まらないと国連改革を迅速に行なうことはできない」と、議会に対して採決を急ぐように要請しています。

共和党が民主党のフィルバスターを阻止するには、上院議員100人のうち60名の支持を得なければなりません。5月に、その投票を行なったのですが、60票を獲得できませんでした。もし来週の月曜に採決するには、再びフィルバスターを中止させるためも「クローチャー投票(cloture vote)」を行なわなければなりません。2度目もクローチャー投票に失敗すると、共和党としてはまったく手詰まりになってしまいます。場合によってはブッシュ大統領はボルトンの指名を撤回するか、7月4日の建国記念日の休会を利用して再度承認を求めるかの決断を迫られます。ただ、今のところ、ホワイトハウスはボルトンの国連大使指名を撤回する意向はまったくありません。では、どうしてそこまでボルトン人事が紛糾したのでしょうか。それは、私が『世界週報』に寄稿した「ボルトン国連大使人事紛糾の真相」に詳細を書いていますので、それを転載します。

いずれにせよ、ボルトン国連大使人事は、ブッシュ外交政策を巡る政府共和党と民主党の対立の象徴となっていることは間違いありません。また、同時に、ボルトンの強圧的な態度が必要以上の反発を民主党やリベラルから招いていることも間違いありません。ボルトン人事の帰趨が、ブッシュ政権の外交政策に影響を及ぼす可能性もあり、今後の展開は要注意です。

「ボルトン国連大使人事紛糾の真相」(『世界週報』6月21日号)

「今年の3月にブッシュ大統領がジョン・ボルトン国務次官を国連大使に指名したとき、承認を巡ってこれほどまで議会で紛糾すると予想した者はいなかったかもしれない。承認手続きは、まず上院外交委員会で審議され、その決議を経て、上院本会議での投票で承認される。上院外交委員会の党派別の委員の数は、共和党が10名、民主党が8名である。民主党の中には前大統領候補のジョン・ケリー議員や女性議員でヒラリー・クリントン議員と並んで女性の次期大統領候補の一人になる可能性があるとされているバーバラ・ボクサー議員など民主党の強硬派議員が名を連ねているが、普通に考えれば共和党の議院が多数を占める委員会で大統領が指名した候補者が承認されないという事態が起こるとは考えにくかった」

「しかし、そうした事態が起こったのである。共和党のジョージ・ヴォイノビッチ議員が共和党に公然と反旗を翻したのである。同議員は「ボルトンは国連を改革しようとするアメリカの目的を後退させる可能性があり、国連大使の重要な職務をまっとうする外交手腕に欠けている」と反対の姿勢を明確にしたのである。もし外交委員会でヴォイノビッチ議員が反対票を投じれば、票数は9対9で完全に割れることになる。そうした事態を回避するため、共和党のルーガー外交委員長は何度も票決を繰り延べ、妥協点を模索した。だがヴォイノビッチ議員の意思は固く、ルーガー委員長も説得を断念せざるを得なかった」

「そこでヴォイノビッチ議員は妥協案を提案する。それは、同議員はボルトンの大使承認に賛成票を投じるが、外交委員会の決議にはボルトンの国連大使への推薦を付けないというものであった。その結果、外交委員会では党派に沿って一〇対八で票決され、実質的な決定は上院本会議に委ねられることになった。ちなみに人事承認に関して委員会が推薦しないまま本会議に送付された承認人事は過去に46名あり、そのうち承認されたのはわずか9名にすぎない」

「では、ボルトンの何が問題なのか。ボルトンは軍縮担当国務次官としてブッシュ政権の外交政策の一翼を担ってきた。特に政権の中では強硬派のネオコンとして知られ、外交政策では“ユニラテラリズム(一国主義)”を主張し、国連の存在に対しても懐疑的な立場を取ってきた。彼が1994年に「世界安全保障構造会議」の席で行なった「国連の38階建てのビルの10階がなくなっても何も変わらない」という発言が、彼の国連軽視を象徴する発言として何度も取り上げられている。ボクサー議員は公聴会でボルトンに向かって「あなたが存在しないと言っている組織であなたが働きたいと言っている理由が私には理解できない」と詰問している」

「さらに彼の国務省での様々な行動が問題とされた。部下に対して極めて横柄な態度を取ったり、自分の意見を異にする部下を転属させたという指摘も行なわれた。そうした彼の傲慢な態度は、同僚の間で反発を呼んでいた。国務省内部にある反ボルトン感情は、元大使など国務省のスタッフ六二名が連名で議会に対して「ボルトンは国連大使にふさわしくない人物である」という書簡を送ったことにも端的に現れている。ボルトンは短気で、部下などを叱責することが多かったという。そうした彼の気質がアメリカを代表する国連大使としてふさわしいのかどうかが問題となった」

「外交委員会のジョセフ・バイデン議員は公聴会でボルトンに対して「あなたは自分の反対者や友人さえ小バカにする習慣があるようだ」と、彼の気質を問題としている。ヴォイノビッチ議員も「ボルトンは外交官がなってはならない典型的な人物である」とまで言い切っているほどである。また、ボルトンの上司であったパウエル前国務長官のラリー・ウィルカーソン首席補佐官も「ボルトンは救いようのない大使になるだろう」と記者に語ったことが報道されるなど、ボルトンの“人間性”が問題とされたのである」

「彼の強硬な外交姿勢も問題とされた。トーマス・ハバード元駐韓大使は、彼が北朝鮮を「独裁者が支配する身の毛のよだつ様な悲惨な状況にある」と語ったことを“非生産的かつ過剰に敵対的である”と批判している。また、イギリスのジャック・ストロー外相が2003年11月にロンドンで開かれた会合でパウエル国務長官に向かって「ボルトンのためにイランの核プログラムに関して同盟国が合意できない」と不満を述べたように、その非妥協かつ強硬な外交姿勢が、国連大使にふさわしいかどうかが問題となった。これに対して共和党のジョン・マケイン上院議員は「ボルトンの怒りぽい個性は国連大使任命とは無関係である」とボルトンを擁護している」

機密情報の入手を巡る対立

「さらに公聴会の中で民主党のクリストファー・ドッド議員が、国家安全局(NSA)が盗聴した情報を入手したかどうかと質問したのに対して、ボルトンは「何度かある」と答えた。これが、承認の審議が本会議に移されてから大きな問題に発展するのである」

「NSAは衛星などのエレクトロニクスの盗聴機器を使ってスパイ活動の監視している。ただ、同局はアメリカ人の盗聴を行なうことは認められておらず、情報を提供するときはアメリカ人の名前は抹消した報告することになっている。だが、ボルトンはアメリカ人の名前が削除されないままの未編集の情報を入手していたのである。国務省は2001年5月以降、NSAから約500回にわたって情報提供を求めている。そのうちボルトンが行なった資料請求は10回であり、その中に19名のアメリカ人の名前が載っていたのである」

「このため上院外交委員会の民主党委員は、政府に対してボルトンがどのような情報を入手したのかを示す資料を提供するように要求した。これに対して政府は資料提供を拒んだことで、上院本会議でのボルトンの国連大使承認の審議も暗礁に乗り上げてしまったのである」

「上院諜報委員会のパット・ロバーツ委員長とジェイ・ロックフェラー副委員長はNSAのスタッフからヒアリングを行い、彼の情報入手過程に違法性はないことを認めた。しかし、民主党のロックフェラー議員は「入手後にその情報が適切に使われたかどうかは不明」という趣旨の書簡を外交委員会に送付。それを受けて外交委員会は政府に情報提供を要求し、ボクサー議員は「政府が情報を公開しない限り、ボルトンの承認投票は行なうべきでない」と主張したのである。さらにボクサー議員は、ボルトンが雇っていた外部のコンサルタントの名簿の提出を新たに要求したのである。
これに対してマクレラン報道官は「諜報委員会の委員長と副委員長がヒアリングを行なったことで情報は提供した」として、民主党の要求を拒否。ロバーツ議員も「情報提供は最も機密性の高い情報を提供するという悪しき前例となる」と政府の方針を支持した。その結果、共和党と民主党の対決は抜き差しならないものになった」

「民主党はあくまでボルトン承認に反対の姿勢を崩していない。上院の100議席のうち共和党が55議席を占めており、票決が行なわれればボルトンが承認されることはまず間違いな。それに対して民主党はフィルバスター(議事妨害)戦略と取ることを明らかにしている。こうした民主党の動きを制するために、共和党は討論終結を決める“クロウチャー投票”を実施した。だが討論打ち切りに必要な60票は獲得できず、共和党は民主党のフィルバスター戦略を阻止できなくなってしまった。その結果、五月下旬に承認投票を行なうという共和党の目論見は崩れ、票決はメモリアル・デー休会明けの六月六日以降に持ち越されたのである」

なぜ政府はボルトンを支持するのか

「ここまでの反対を押し切ってまで、ブッシュ政府はなぜボルトンの国連大使就任に拘るのであろうか。ライス国務長官が二月の欧州歴訪の際、「これからは外交の時代だ」と語り、注目された。ブッシュ政権の外交政策がネオコン的な一国主義から離れ、現実主義に転換するのではないかと期待された。だが、ボルトンの国連大使就任は、そうした期待を完全に裏切るものであった」

「ボルトンは政府と共和党の内部に強力な支持者を持っている。彼が国務次官になったのもレーガン政権の国務次官であったジェームズ・ベーカーがパウエル国務長官に強力に推挙したためである。当初、パウエルが準備したポストはボルトンが納得できるものではなかった。するとジェッシ・ヘルムズ上院外交委員会委員長がパウエル長官をオフィスに呼び、国務省の組織図を眺めながら、パウエル長官にボルトンを軍縮担当次官に任命するように命じたのである。そして「ボルトンがポストに就くまで戻ってくるな」とパウエルに向かって言い放った」

「今回もボルトンの国連大使任命を決めたのはチェイニー副大統領とアンドリュー・カーと首席補佐官、カール・ローブ副主席補佐官のホワイトハウスを実質的に支配している3名であった。その決定過程からライス国務長官は排除されていた。第二期政権でボルトンは国務副長官就任を望んでいたが、ライス長官はゼーリック通商代表部代表を選んだ。そのためホワイトハウスの三人組は、ボルトンのために辞意を表明しているダグラス・フェイス国防次官の後任や安全保障担当補佐官などのポストを検討したが、最終的に国連大使のポストに落ち着いた経緯がある」

「こうした政府内の支持だけでなく、今回の審議の過程でジェームズ・ベーカー、ヘンリー・キッシンジャー、アレキサンダー・ヘイグ、チャールズ・シュルツ、ローレンス・イーグルトンの5名の元国務長官が連名でボルトンを支持する書簡をルーガー委員長宛に送っているのである。ボルトンは、極めて強力な後ろ盾を持った人物なのである」

「またブッシュ政権にとって国連改革は大きな政策課題の一つである。冷戦後、国連内部に高まってきた反アメリカ主義の動きにブッシュ政権は苛立ちを感じていた。特にイラク戦争に関する国連の対応のみならず、「人権委員会に大量虐殺を行なっているスーダンが入っている」(ライス長官)ことやアナン事務総長のスキャンダルなど国連問題についてホワイトハウスと共和党は不満を募らせていた。前任者のジョン・ダンフォース国連大使はアナン事務総長を擁護するなどホワイトハウスからみれば軟弱な大使に映っていた」

「「国連が問題であると同時にダンフォース大使も問題だ」という声がホワイトハウスで聞かれた。ブッシュ大統領が「ボルトンは無愛想な人物であるが、もし国連改革に本当に関心を持っているのであれば、自分の意見を語るのを恐れない人物を国連大使にするのは妥当なことだ」と語っているのも、“強い大使”を国連に送り込むことによってアメリカ主導で国連改革を実施する決意の表れともいえよう。アメリカは70年代にはダニエル・パトリック・モイニハン、80年代にジーン・カークパトリックという強力な国連大使を擁していた。ホワイトハウスはボルトンに彼らに匹敵する強力な国連大使を求めているのである」

「議会でのボルトンの国連大使承認は、党派的な対立とイデオロギー的な色彩を強めてきている。最終的にボルトンが承認されるにしても、この承認を巡る争いはブッシュ政権にとって大きな失点であることは間違いない。またライスを国務長官にすることによって新しい外交の展開が期待されたが、ボルトンの国連大使就任は第二期ブッシュ政権がネオコンの呪縛から解き放たれていないことを意味するのかもしれない」

2件のコメント

  1. 世界週報はゼミの先輩の伊奈さんや寺島さんが登場することもあり見ています。北朝鮮と米国の関係が改善しそうであり、また常任理事国を増やす数に関して日米の見解の相違がある現在米国議会での不協和音は大いに気になるところです。

    コメント by 星の王子様 — 2005年6月18日 @ 05:43

  2. すこぶるウォーカー
    すこぶるウォーカーを知っていますか?テレビショッピングなどで紹介していて最初は半信半疑だったんですけどこれは良いですよ!バイオメカニクスの観点から作られているので足のゆ…

    トラックバック by お気に入り情報の泉 — 2005年6月23日 @ 11:16

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