中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/10/17 月曜日

なぜ原油価格の上昇が続くのかー70年代と現在の比較:中国で開催されたG20の「共同声明」の訳も掲載

Filed under: - nakaoka @ 3:40

中国でG20(20カ国蔵相・中央銀行総裁会議)が開かれました。その会議において様々な議論が行なわれましたが、その中で重要なテーマの1つは「原油価格の高騰」でした。共同声明の中に1項目を取って、「原油価格の長期にわたる高騰が世界経済に大きな影響を与える」と指摘しています。そこで提案されている解決策は、投資を増やし、生産を拡大する一方で、精製能力を拡大し、産油国と消費国の対話を促進するです。また、エネルギーの効率的な利用や代替エネルギーの開発の必要性も指摘されています。が、特に目新しい内容はありません。「共同声明」の中でブレトンウッズ制の改革が謳われているのは、面白い点です。今回のブログは、「なぜ原油高が生じたのか」「1970年代の石油価格の上昇と今回の上昇は何が同じで、何が違うのか」についての記事を掲載します。これは9月中旬に書いた原稿ですが、原油価格上昇の問題を考える上で役に立つと思います。G20の「共同声明」と一緒に読んでみるのも面白いかもしれません。

まず、16日に発表された「共同声明」の訳を掲載します。それに続いて「原油価格上昇の背景」を分析した記事を掲載します。

「G20(20カ国蔵相・中央銀行総裁会議)」の共同声明(2005年10月15日~16日に開催)

1.20ヵ国の蔵相・中央銀行総裁会議は、「世界の協力:均衡した秩序ある世界経済の発展」というテーマのもとに中国で第7回目の会議を開催した。私たちは、様々な世界経済の重要な課題について議論し、バランスある持続的成長を達成するためのビジョンを責任を共有していることを再確認した。

2.私たちは、現在の世界経済の成長を歓迎するが、その一方で一部の発展途上国が低成長と貧困の増大に直面していることも認識した。また、私たちは、原油価格の長期的な高騰と大きな変動は世界の不均衡を拡大し、保護主義のセンチメントを高め、経済成長を低め、将来の不確実性をさらに悪化させ、世界の経済的、金融的な脆弱性を高めるリスクを孕んでいることを強調する。私たちは、力強い世界経済の成長を維持し、責任を共有することを念頭において、こうした問題に取り組まなければならないことで合意した。共同責任を留意しながら、私たちは必要な財政、金融、為替政策を実施し、こうした不均衡を解決するために構造改革を推進し、こうしたリスクを克服することを決意した。

3.私たちは、原油価格の永続的な高騰と変動がインフレ的圧力を高め、成長を鈍化させ、世界経済を不安定にすることを懸念している。私たちは、こうした課題に取り組むために協力を強化し、投資と生産を増やす必要性を強調し、国際エネルギーフォーラム(IEF)のような国際的な組織を通して、原油の供給者と消費者の間の対話を促進することで合意した。また、私たちは、原油市場の透明性と効率性を高めることが重要であることを強調する。それには、新しい技術の採用と移転、代替的かつ更新可能なエネルギー源の開発、石油製品に対する補助金の削減が含まれる。(以下、一部略)

4.私たちは、WTO(世界貿易機関)のドーハ・ラウンド(関税引き下げ交渉)を成功させることがすべての関係者が本当にグローバリゼーションの恩恵を受ける上で極めて重要であり、同ラウンドが、国連が掲げる「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goal)」を実現するうえで重要な貢献をすることで意見の一致をみた。私たちは、全ての関係者が貿易の自由化、保護主義との戦いを促進するために必要な政治的な力を発揮し、年末に香港で開催されるWTO閣僚会議で実施的な前進を図ることを訴える。私たちは、財市場とサービス市場への参入を大幅に高め、貿易を歪めている国内市場での支援を減らし、すべての形の農産物の輸出補助金を廃止し、発展途上国に対して効果的で特別な優遇的な取扱いを行い、貿易拡大によるチャンスを生かすために発展途上国の能力を高めるための援助を増やす約束をした。

5.私たちは、「ブレトンウッズ組織(IMFと世界銀行)」が成長と発展、国際通貨制度の機能を改善するうえで大きな寄与をしたことを認める。しかし、国際経済と金融制度が進化しているため、ブレトンウッズ組織の代表選出のし方、その運営と戦略を継続的に見直す必要がある。私たちは、ブレトンウッズ組織の改革の必要性について議論し、改革を強力に支援することを約束した。

6.(略:あまり内容があるとは思えないので)

7.私たちは、高齢化が深刻な国際的な問題であり、広範な研究が必要であることについてについても言及した。私たちは、高齢化の経済成長と社会保障、金融市場と労働市場に与える影響について議論した。(一部略)。この点に関して、国際協力が不可欠であることに関しても了解した。私たちは、外国の労働市場への参入は、教育とスキルを得るために発展途上国の人々にとって大きなインセンティブを与えることになることにも認めた。私たちは、移民の送金が移民の母国にとって重要かつ安定した資金源であり、経済発展と貧困の解消に貢献してきたことを認める。(以下、略)

8.9.10、11の項は略。
(以上です)

以下に、今回の原油価格の高騰を石油ショックのあった70年代の原油価格上昇の比較分析をした原稿を掲載します。

70年代と現在の“オイル・ショック”はどこが違うのか

原油価格が史上最高値を記録し、世界経済に与える影響が懸念されている。1970年代にオイル・ショックが2度にわたって起こり、世界経済を攪乱したが、今回の原油価格上昇は世界経済にどのような影響を与えるのであろうか。また、過去のオイル・ショックとどこが違うのであろうか。

70年代にオイル・ショックが起こったとき、経済評論家の高橋亀吉が「価格革命」が必要だと説いのを覚えている。すなわち、同氏は、原油価格の上昇に対応して“相対価格の構造”が変わらなければならないと説いたのである。さらに経済学の分野では、ジェフリー・サックス教授などの経済学者が「サプライ・ショックの経済学」を提唱し、石油価格上昇によって右上がりの供給曲線が上方にシフトし、その結果、物価が上昇し、成長が鈍化するという経済状況を見事に分析した。

ただ、70年代のオイル・ショックは非経済的な要因に基づいて生じた面が強かった。すなわち世界の原油の需給関係が崩れたのは、中東の政治情勢を背景に中東産油国が原油の輸出規制を実施したことで、原油の供給が人為的かつ急激に減少したのである。さらにOPEC(石油輸出機構)がカルテルとして生産調整を行なったことが、原油価格高騰の背景にあった。言い換えると、需給関係が崩れ、原油価格の高騰が起こったのは、経済的な要因ではなく、非経済的な要因によるものであった。

また、需要面では、急激な原油価格の上昇を背景に代替エネルギーの開発が行われたり、石油消費国のエネルギー効率の改善も進んだ。代替エネルギー開発は、原油価格の上昇が一段落し、下落し始めると、経済性がないことから、その多くは失敗に終った。また、経済成長に必要なエネルギー原単位は確実に低下し、石油依存度の経済システムが除々に変わって行った。

短期的に急騰した原油価格は、禁輸といった供給制約が外され、またカルテルの強制力が低下したとき、当然のことながら下落し始めたのである。基本的に「供給カルテル」は成功しないものである。要するに、70年代のオイル・ショックは、供給力に問題があったから起こったわけではなかった。当時、ローマクラブの提言などで長期的に石油資源は枯渇するという議論が一般的であり、そうしたイメージと中東産油国の輸出禁止措置とが重なり合い、危機感が煽られた。従って、70年代のオイル・ショックは“外生的なショック”によって起こったものであった。

では、2005年のオイル・ショックは、どう理解すればいいのであろうか。現在、起こっているオイル・ショックは“内生的なショック”によって引き起こされたものである。すなわち、原油の需給関係の崩壊と価格上昇は、“内生的な要因”によって生じたものである。原油価格の上昇の主因は、原油需要に供給が追いつかない状況によって生じた“デマンド・ショック”である。もちろん、原油価格の安定化を図ろうとするOPECの生産調整によって産出量が規制されているが、それ以上に需要サイドで大きな変化が起こっているのである。たとえば、04年の原油の生産量(一日当たり)は前年比で4.5%増え8026万バレルであった。このうちOPECの生産量は7.7%と大きく増えている。原油価格の急騰を抑えるために、OPECは増産を行なったのである。では消費量はどうであろうか。前年比で3.4%増の8075万バレルで、産出量を上回っている。

では、こうした需要の増加の要因は何であろうか。それは発展途上国と考えられてきた国の経済成長が高まり、それに伴って石油消費量が増えていることだ。地域別の04年の原油消費量の伸びと見ると、途上国の多いアジア太平洋と中東がそれぞれ5.2%、南米地域が3.7%、アフリカ地域が3.4%と高水準の伸びを示しているのに対して、先進国の北米地域が2.8%、ヨーロッパ・ユーラシア地域が1.8%と低い伸びに留まっている。

急激に石油消費が増えている途上国の代表が、中国である。中国の石油消費量の世界シェアは8.2%と24.9%のアメリカに次いで世界第2位を占めている。ちなみに日本は3位でシェアは6.4%である。しかも、04年の中国の石油消費量は前年比で約16%と最高の増加を示している。アメリカも、高成長を背景に約3%と高い伸びを見せている。これに対して日本の消費量は3%減っている。石油消費量の増加が目立つ大きな国としては、インドの5.5%、ブラジルの2.7%などがある。これらの国は、最近、経済成長が著しい国である。いずれにせよ、中国とアメリカの消費増は突出しており、両国の消費量増加の合計だけで世界の消費増加分の約56%を占めているのである。

もしアメリカが今後も高成長を持続し、中国や他の途上国の成長も高まれば、石油需要は確実に増加していくだろう。しかも、中国の単位エネルギー効率は極めて低く、石油依存度が極めて高い。中国の「単位エネルギー消費量」は、03年が1.64バレル、04年が1.62バレルと先進諸国と比較すると極めて高水準である。アメリカの単位エネルギー消費量は03年が0.76バレル、04年が0.69バレルである。日本の単位エネルギー消費量は03年の0.41バレルから04年には0.39バレルである。このデータを比較すると中国がいかに石油依存の経済成長を遂げているかが分かる。中国の経済成長にとって電力不足が大きな障害となりつつある。中国の最大のエネルギー源は石炭であるが、環境問題などもあり、石油への依存度は高まっていくだろう。

もし中国とアメリカが高成長を維持すれば、世界の石油の需給関係に大きな影響が及ぶことは間違いない。こうした需要増加に対して供給が追いつかない状況が起こりうるだろう。最近の原油価格の上昇は、こうした世界経済の状況が背景にあることは間違いない。

需要サイドで起こっている現象は、急激に変化しないだろう。アメリカと中国の経済成長はやや鈍化すると予想されるものの、高成長が続くと見られる。またインドやブラジルなどの中進国の成長率は中期的に高まっていくと見られる。世界経済、特に米中両国の成長率が急激に低下するか、あるいはエネルギー効率が急速に高まらない限り、慢性的な原油の超過需要という状況は基本的に変わらないだろう。超過需要を埋めるような原油の供給増が期待できない限り、原油価格の高止まるか、あるいはもう一段の上昇も避けられないかもしれない。

原油高が続けば、世界経済に様々な影響を及ぼすことになる。まず消費国から産油国に大規模な富の移転が起こる。原油価格の上昇は産油国の収入を増やす。原油消費国では交易条件が悪化し、実質所得が低下することになる。それは当然、消費国の成長を鈍化させるだろう。その状況は、70年代に世界経済で生じた状況と同じである。ただ、当時と比べれば、単位エネルギー効率が大幅に改善しているので、すぐに直接的な影響はでないだろう。

ただ中国の場合は、原油価格上昇に合わせて人民元を引き上げていけば、原油高をある程度吸収することができるので、急激な交易条件の悪化を招くことはないだろう。その意味では、原油高の経済成長の制約要因は中国の場合、小さいかもしれない。

また、オイル・マネーがどう動くかで金融市場や為替市場に与える原油高の影響は変わってくるだろう。70年の時、オイル・マネーの大半はアメリカに還流した。しかし、前回の本欄で指摘したように産油国はオイル・マネー運用の分散化を進めている。それがドル安につながれば、アメリカ経済に大きな影響を及ぼすことになるだろう。最大のスフト・ポイントはアメリカ経済かもしれない。

一時的な上昇と見られていた原油価格も、完全に高止まった感じです。将来の需要増が予想されるうえ、供給のほうもなかなか増えないという認識が市場で高まっているのでしょう。もちろん、市場は独自の原則で動きますから、ある時点で急激な価格調整が起こるかも知れません。以前、「石油の経済学」についてピンダイクというエネルギー経済学者の本で勉強したことがありますが、彼の主張では「産油国は有限な資源をどう最適に利用するか」を考えているのです。したがって、価格が高すぎると、消費が減って、埋蔵原油の現在価値を最大化できなくなります。ですから、必ずしも産油国は原油高を望んでいないというのが、その時の結論でした。とすれば、産油国は増産して、有限な埋蔵量の現在価値を最大にするところまで原油価格を引き下げるだろうという分析もなりたちます。これ以上は、もう予言の世界ですが、ちょっと視点を変えて見ると、面白い見方もできるものです。

1件のコメント

  1. 近い将来に埋蔵量がピークをつけるというオイルピーク説を意識する人が多くなっているのでは。もっとも、供給力自体は検証困難で、むしろこのところの中国等での需要急増が供給力に対する警戒感を煽っていることが影響しているように思えます。
    もう一つは、ブッシュ政権の世界戦略説です。原油高でアラスカやカナダでの原油開発を進めたい。原油高(と人民元高)で中国の成長を抑えたい。原油高による中東マネーで米経常収支赤字をファイナンスしたい。原油高による好景気で中東の民主化を進めたい。

    コメント by aki — 2005年10月18日 @ 15:31

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