中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/9/10 日曜日

アメリカ中間選挙を予測する:民主党が両院あるいは一院で過半数獲得も

Filed under: - nakaoka @ 23:49

アメリカの中間選挙情勢が極めて流動的になっています。共和党は1994年の中間選挙以降、両院で過半数を確保してきました。しかし、11月予定の中間選挙では民主党が優勢に選挙運動を展開しています。通常、中間選挙はローカルな政策が争点になる傾向が強く、また中間、本選挙とも現職が9割程度再選されるのが特徴でしたが、今回はやや色合いが違います。イラク戦争を巡るブッシュ大統領の信任投票の色合いが強い上、現職が苦戦しているのです。また、政治ブロガーの影響力が増大しているのが、もう1つの特徴です。アメリカの議会勢力の動向は日本の外交政策にも重大な影響を及ぼす可能性があります。掲示の記事は『世界週報』(9月12号)に寄稿したものです(執筆時点は8月21日)です。

なお、グロブの「ページビュー件数」です。8月の件数は216万8850件、7月は210万8578件でした。8月は時間がなく、アップした記事は2本でしたが、ヒット件数は着実に増加しています。

(タイトル)
民主党のブログ活動家がイラン反戦を背景に中間選挙をリード

(リード)
11月の中間選挙に向けての民主党と共和党の予備選挙がピークを迎えている。今回の選挙はブッシュ大統領の信任投票の色合いを強くしている。世論調査では、ブッシュ不人気に加え、有権者の変化を求める要求が強まっており、民主党が共和党を大きくリードしている。民主党の元副大統領候補リーバーマン議員を予備選で落選にさせた民主党の反戦派グループの活躍も目立つ。94年以来両院で少数党に甘んじていた民主党が、過半数を回復する可能性が高まっている。

世論調査では
国民は民主党勝利を望んでいる

今年11月の中間選挙は、クリントン政権下で行われた1994年の中間選挙の再現になるのではないかという観測が流れている。94年の中間選挙はギングリッチ下院議長に率いられた共和党が「アメリカとの契約」という政治綱領を掲げ、下院と上院の両院で過半数を占めた選挙である。レーガン大統領の“未完の保守革命”を実現するという意欲的な政治スローガンは、変化を求める有権者の支持を得た。

共和党が下院で過半数を占めたのは54年の選挙以来、実に40年振りのことであった。上院は、レーガン政権の80年と82年、84年の連続3回の選挙で過半数を得たものの、54年以降は民主党が常に過半数を占めてきた。しかし、94年以降、共和党は両院の過半数を維持し続けている。2000年の選挙は上院では両党の議席数は50議席と同数であった。

しかし、今年の中間選挙では民主党が議会で過半数を取り戻すかもしれない。現在、「政治的変化の香りが空気中に漂っている」(8月15日付け『クリスチャン・サイエンス・モニター』)。アメリカの世論はブッシュ政権と共和党支配に嫌気し、変化を求め始めている。94年の選挙で有権者が共和党に両院の運営を任せたように、現在、政治的、経済的閉塞に不満を募らせる有権者は民主党に議会の運営を委ねる決断をするかもしれない。

8月7日から10日にかけて行われたギャロップ調査では、民主党候補が優勢という結果が出ている。「もし今投票するとすれば、どの党の候補者に投票しますか」という問に対して、有権者の50%が民主党候補に投票すると答えている。共和党候補に投票すると答えた有権者は、41%に過ぎない。ポイントは、これが8月の調査結果に留まらないということである。ギャロップは1月から8月まで計12回の調査を行っているが、いずれの調査でも民主党候補へ投票するという比率が、共和党候補に投票するという比率を上回っている。3月に行われた調査では、民主党候補に投票すると答えた比率が55%、共和党候補が39%と、その差は16ポイントも開いていた。

この傾向はギャロップ調査だけでなく、他の調査の結果でも裏づけられている。8月12日に行われた『ニューズウィーク』誌の調査では、「民主党が議会で多数派を占めることを望んでいる」と答えた有権者は51%と過半数を超えている。これに対して「共和党が多数派に留まることを望んでいる」と答えた有権者は34%にすぎない。
 
イラク戦争を背景に
低水準続くブッシュ大統領の支持率

有権者のブッシュ政権と共和党に対する不満は限界点に達しつつあるのかもしれない。それはブッシュ大統領の支持率にも反映している。7月21日に行われたハリス調査では、ブッシュ大統領の不支持率は65%、支持率は34%であった。5月の不支持率71%と比べれば若干低下したものの、依然として歴代大統領の中でも最低の水準の支持率に低迷している。8月はイギリスでテロ未遂事件が起こったことで、テロ強硬政策を主張するブッシュ大統領の支持率は若干持ち直しているト推定される。しかし、それがブッシュ大統領を取りまく政治状況を一気に変えることはないだろう。

ブッシュ大統領の不支持の最大の理由は、イラク戦争と戦後処理の不手際にある。先の『ニューズウィーク』誌の調査では、62%の有権者がブッシュ大統領のイラクの戦後処理を支持しないと答えている。また、CBSニュースが8月14日に行った調査によると、イラク戦争が最大の課題だと答えた有権者は28%で、2位のテロ対策の17%を大きく上回っている。国民の最大の関心はイラク情勢、もっと正確にいえばイラク撤兵にある。中間選挙では地域的な問題や政策が争点になるケースが多いが、今回の選挙はブッシュ大統領に対する“信任投票”の意味合いも持っているといえる。もし世論調査で予想されているように、民主党が上院か下院の両方、あるいは両院のいずれかで過半数を制することになれば、ブッシュ政権が窮地に追い込まれることは明白である。

選挙結果を予兆させる
コネチカット州の民主党予備選挙

民主党が両院で過半数を制するには以下の条件が必要となる。下院の定数は435議席で現有勢力は共和党231議席、民主党201議席、無党派1議席である。下院は全議員が改選になるので、民主党は17議席を増やせば過半数が確保できる。なお無所属議員は民主党系である。上院は定数100議席、今回改選されるのは共和党15議席、民主党17議席、無所属1議席である。非改選は共和党40議席、民主党27議席である。したがって民主党が合計で24議席以上確保すれば過半数を制することができる。選挙結果を予想するのは難しいが、世論調査を見る限り、その可能性は否定できない。

選挙動向を予想する重要な民主党の予備選挙がコネチカット州で行われた。同予備選挙は、今回の中間選挙の特徴を最も端的に反映しているといえる。8月7日に行われたコネチカット州の上院議員の予備選挙は3期18年の実績を持つ現職で、副大統領候補にもなったリーバーマン上院議員と地元出身の経営者レモント候補の間で行われた。その結果、リーバーマン議員の48%に対して、挑戦者のレモント候補は52%を得て、民主党の正式な上院議員候補に指名された。イラク戦争に不満を抱き、変革を望む有権者が民主党主流に対して“反乱”を起こしたのである。

予備選挙の最大の焦点は、イラクからの米軍撤退問題であった。昨年11月29日付けの『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に「わが軍は留まるべきだ」と題する記事を寄稿し、ブッシュ大統領のイラク政策を公然と支持するリーバーマンに対して、レモント候補は「兵士を帰国させよ。ブッシュ大統領の誤れる外交政策を正すときだ」と、米軍の即時撤退を訴えた。ラモント候補の勝利は、長く眠っていた“反戦民主党の復活”を意味するものであった。『ウォール・ストリード・ジャーナル』も、「74年以降、アメリカの左派勢力にとって最も重要な勝利であった」と分析している。長い間、後退に次ぐ後退を強いられてきた左派勢力が、やっと有権者と共鳴できる問題を見つけたのである。それがイラク戦争であった。

しかし、ラモント候補の勝利は単に左派勢力の勝利以上のものを意味している。先に引用した『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙は「政治的変化はラモント候補がリーバーマン議員を予備選挙で破ったことでより現実のものになった」と続けている。ラモント候補を支援したオンラインで活動する政治団体「ムーブオン・ポリティカル・アクション・コミティ」のパライザー専務理事も「人々はもう飽き飽きとしている。終わりの見えないイラク情勢、大手石油会社を優遇し、ガソリン価格の上昇を放置するエネルギー政策、人々を置き去りにしたままの医療保険制度。こうした問題に対する有権者の気持ちが待ちに待ったウネリとなって現実した」(8月10日付け『ワシントン・ポスト』紙)と、ラモント候補の勝利の背景説明している。もしそうなら、彼の勝利はアメリカ全土に広がる可能性を秘めているといえる。

ラモント候補を当選に導いた
「ムーブオン(MoveOn)」の活動

レモント勝利の背景には「ムーブオン(MoveOn.org)」の積極的な支援があったことを忘れるべきではない。「ムーブオン」のメンバーは、ブログを中心に活動する民主党の活動家たちである。コネチカット州に約5万人の会員を擁しており、その政治力は無視できないまでになっている。コネチカット州の党の予備選挙に先立って、「ムーブオン」は誰でもインターネットで投票できる「オープン・プライマリー」を実施している。リーバーマン議員は、「ムーブオン」の要請にもかかわらず参加を拒否した。「ムーブオン」は同議員に関するファクト・シートをウエブ上に掲載し、オープン・プライマリーを実施した。そして、85%の票を得たラモント候補を正式に支持することを決め、同候補に25万ドルの政治献金を行っている。また同候補の選挙事務所のスタッフ11名のうち9名は「ムーブオン」から派遣された活動家であった。「ムーブオン」は、資金と運動員の両面で同候補を支えたのである。

「ムーブオン」の会員の多くは、青春時代を送った70年代に政治運動に関わったことのあるベビーブーマーである。他の政治ブロガーと同じように、彼らは民主党の既存の組織の外で積極的な活動を展開している。「ムーブオン」は98年に誕生し、現在、会員数は320万人に達し、年間の予算も2500万ドルと巨額になっている。もはや無視できないまでに大きな組織になっているのである。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は「ラモントの勝利は民主党のオンライン活動家の時代が到来したことを示している」と書いているのも、あながち誇張ではない。

民主党首脳も、目の当たりにラモント候補の勝利を見せ付けられ、彼らの存在を無視できなくなっている。3月に民主党の上院院内総務のリード議員と上院選挙委員長のシューマー議員は連名で「ムーブオン」に対して、リーバーマン議員支持を要請する書簡を送っている。だが、リーバーマン議員の敗北が伝わると、両議員は一転してラモント候補に祝福の辞を送り、「この選挙はブッシュ大統領の信任選挙以外なにものでもなく、リーバーマン議員はブッシュ政権に近すぎる」と切って捨てている。その後の状況は混迷を深め、リーバーマン議員は無所属で11月の本選挙に立候補する意向を明らかにしている。また、カール・ローブ大統領副主席補佐官と共和党は、同議員に資金援助を申し出ている。

選挙後の議会は
イデオロギー対立が先鋭化

従来、民主党首脳は、イラク駐留の米軍について「段階的撤退」を主張してきた。しかし、レモント候補の勝利、すなわち反戦派の民主党員の勝利を受けて軌道修正を迫られるだろう。「ムーブオン」は激戦区60選球を調査し、イラク即時撤兵を主張している議員が支持されているという報告書も発表している。民主党は今まで共和党と妥協を繰り返し、中道にシフトすることで逆に地盤を失ってきた。しかし、これからはラモント候補の勝利で“左バネ”が働くと予想される。民主党は共和党との違いをいっそう鮮明にする戦略を取らざるをえないだろう。

中間選挙後、議会ではより左にシフトした民主党と、よりタカ派的傾向を強めた共和党の両極化が進むと予想される。たとえばロードアイランド州選出の共和党穏健派のシェイフィー上院議員もリーバーマン議員と同様に予備選挙でタカ派の新人の挑戦を受け、厳しい状況におかれている。各選挙区で現役議員が軒並み厳しい立場に置かれており、特に両党とも穏健派、中道派が後退する兆しがみられる。もし民主党が一院でも過半数を占めるなら、両党のイデオロギー的な対立はさらに先鋭化するだろう。

ネオコンを代表する評論家クラウサマーは「反戦派が民主党を乗っ取った。勢い付いた民主党左派は11月の選挙で勝利するかもしれない。多くの州でラモント候補と同じような候補が当選し、民主党が一院あるいは両院を制するかもしれない」(8月11日付け『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙)と、民主党の優勢を分析している。しかし、「いつかイラク戦争は終わり、ブッシュ政権もなくなったとき、民主党はどこにいくのだろうか」と、民主党の左シフトに疑問を投げかけている。今回の中間選挙は、民主党の将来を占ううえでも、重要な意味を持った選挙であることは間違いない。同時にイラクという大きな課題を抱えてアメリカの政治の混迷は深まらざるを得ないだろう。

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