中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/1/23 火曜日

米連邦議会の議員はどの宗教・宗派に属しているのか?:初のイスラム教徒と仏教徒の議員が誕生

Filed under: - nakaoka @ 13:13

アメリカの政治を考えるとき、宗教の問題を無視することは出来ません。アメリカ社会は宗教的な社会で、世論調査では90%くらいの人が神の存在を信じていると答えています。最近ではキリスト教原理主義と言われる「エバンジェリカル(福音派)」の政治的な影響力を抜きに政治を語れないほどになっています。新議会で注目されるのは、初めてイスラム教徒の議員と仏教徒の議員が誕生したことです。宗教的主張が即政策に反映するわけではありませんが、アメリカの政治を見るうえで基礎的な情報になることは間違いありません。以下、各宗派別の議員に関する情報を提供します。

第110議会で初めてイスラム教の議員が誕生しました。また、初めて仏教徒の議員が2人誕生しました。2人の仏教とは、ハワイ選出のマジエ・ヒロノ(Mazie Hirono)下院議員とジョージア選出のハンク・ジョンソン下院議員です。2人はいずれも民主党議員です。ヒロノ議員は女性で、現在54歳。8歳の時に母親と一緒にハワイに移民、仏教の宗派は浄土真宗です。ジョージタウン大学法律大学院で1978年に学位を取っています。ジョンソン議員は30年前に仏教に帰依し、現在、創価学会インターナショナルに所属している。アメリカ初の創価学会議員です。最初のイスラム教議員はミネソタ州選出のケイス・エリソン(Keith Ellison)議員で、アフリカ系の男性(注:最初の原稿で女性と書きましたが誤記でした)です。同議員の母親はカトリック教徒でしたが、同議員は19歳のときにイスラム教に改宗しています。同議員はデトロイト生まれで、ミネソタ大学法律大学院を卒業した弁護士です。9・11の連続テロ事件以降、イスラム教徒に対する弾圧が見られましたが、そうした状況のなかで初めてイスラム教徒の議員が誕生したのは、アメリカ社会の変化を示すものかもしれません。なお同議員は議会で宣誓するときに『聖書』ではなく、『コーラン』を使って宣誓しています。その『コーラン』は、かつてジェファーソン大統領が持っていたものだそうです。ただ、ヒロノ議員とジョンソン議員が、どのような宣誓をしたのか、分かりません。

ユダヤ系アメリカ人は伝統的に民主党の支持層です。それはユダヤ系議員の所属政党にも端的に現れています。出口調査では、06年の中間選挙ではユダヤ系アメリカ人の90%が民主党に投票したという結果が出ています。ユダヤ人の議員は全員で43名です。ユダヤ人議員のうち共和党に所属するのが下院で1人(バージニア州選出のエリック・カンター議員)、上院で2名(ミネソタ州選出のノーム・コールマン議員とペンシルバニア州選出のアーレン・スペクター議員)だけで、残りの40名のユダヤ系議員は民主党議員です。圧倒的に民主党議員が占めています。ユダヤ系議員のうち、宗派に属していない議員は6名います。ユダヤ人議員は全議員の8%を占めています。ユダヤ系アメリカ人は全人口の約2%ですから、議会における勢力は人口比を大きく上回っています。従来、ユダヤ系アメリカ人は政治に関わらなかったのですが、最近では積極的に政治の舞台に進出しています。

議会で最大の宗派はカトリック教徒です。両院で合計155名がカトリック系の議員です。上院では25名(総議席100名の4分の1に相等する)、下院で130名です。昨年の中間選挙前は上院のカトリック教徒は共和党議員が11名、民主党議員が13名でしたが、新議会では共和党が9名、民主党が16名と、民主党系のカトリック教徒の議員が増えています。前議会(第109議会)では、129名のカトリック教徒の下院議員がいました。その党派の内訳は共和党57名、民主党72名でした。新議会では総数は130議席と変わらないが、共和党が42名、民主党が88名と共和党議員が減り、民主党議員が増えています。2006年の中間選挙で民主党はカトリック教徒の支持を取り戻したと言われています。元々、カトリック教徒は民主党支持でしたが、2004年の大統領選挙のとき中絶問題や同性婚などが争点になり、多くのカトリック教徒は民主党から離反し、ブッシュ大統領に投票したといわれています。06年の選挙では、民主党はカトリック票を取り戻したのです。たとえば、民主党はペンシルバニア州で新たに5議席獲得しましたが、その全員がカトリック教徒でした。

他のクリスチャンの宗派では、クリスチャン・サイエンス(Christian Scientist)派が5名で全員が共和党下院議員。バプティスト派が62名、プレスビタリアン派が43名、監督教会派(Episcopalians)が37名、ルター派が17名です。プロテスタントと答えた議員は26名で、どの宗派にも属していないと答えた議員は6人でした宗派別では、United Church of Christが7名、Eastern Orthodoxが5名、Assembly of Godが4名、African Methodist Episcopal Church、Christian Reform Church、Church of Christ、Disciples of Christ、Seventh-day Adventists、Unitarian Universalistなどがそれぞれ2名である。単にプロテスタントと答えた議員は、26名である。

モルモン教徒(正式な名称はChurch of Jesus Christ of Latter-Five Saints)の議員は15名で、12人が共和党、3人が民主党です。上院議員は5名、下院議員は10名です。ネバダ州選出の上院議員ハリー・リード(Harry Reid)議員はモルモン教徒で、上院民主党院内総務の地位に就きました。これはモルモン教徒の議員としては最高の地位です。ちなみに共和党大統領候補の一人と目されているロムニー前マサチューセッツ州知事も敬虔なモルモン教徒です。バプティスト派の黒人議員の大半は民主党で、白人議員の大半は共和党と人種で党派が色分けされています。ただ、白人バプティストで民主党議員は、下院院内総務のステニー・ホイヤー(Steny Hoyer)議員と上院のロバート・バード(Robert Byrd)議員は民主党議員の2人だけです。

1件のコメント »

  1. アメリカでは、政治における宗教の影響が増す一方で、積極的に無神論を唱える人(atheist)、あるいは古代の多神教や、ネイティブアメリカンに伝わるスピリチュアルな考え方を支持する人などが増えています。平和を求める声が高まる中、今後は、リベラルな都市部の若いインテリ層を中心に、こうした新しいグループが勢力を持ちはじめるのではないかと感じます。
    ところで、先生の本文中「最初のイスラム教議員はミネソタ州選出のケイス・エリソン(Keith Ellison)議員で、アフリカ系の女性です」とありますが、この人は男性ではないでしょうか?

    コメント by sktm — 2007年1月25日 @ 08:09

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