中岡望の目からウロコのアメリカ

2010/12/18 土曜日

ティーパーティ運動とは何か:その発生と展開、政策を明らかにする

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米中間選挙の結果は共和党の大勝に終わった。だが、同党勝利の背後には草の根組織によるティーパーティ運動の盛り上がりがあった。同運動は小さい政府、財政均衡、自由市場など伝統的な保守の政策を掲げ、ブッシュ政権のもとで信用が失墜した保守主義を復活させるものであった。同運動はアメリカの政治の焦点になりつつある。

 共和党を勝利に導いたティーパーティ運動

 アメリカの政治が大きく動いている。11月2日に行われた中間選挙で民主党が大敗を喫した。1980年代から始まったアメリカの政治の保守化は2006年の中間選挙で民主党が勝利し、大きくブレーキがかかった。さらに2008年の選挙では初の黒人大統領が誕生するだけでなく、民主党が両院で過半数を制し、メディアは“保守主義の死”を宣告した。オバマ政権の誕生で、アメリカは再びリベラルの道を進むと期待された。保守主義はブッシュ政権によってもはや魅力のない思想と多くの人から見捨てられた。それからわずか二年で、再びアメリカの政治は大きく動こうとしている。

 11月の中間選挙の結果、435議席のうち共和党が239議席を占め、民主党は60議席を減らして、190議席となった。11月16日時点でまだ当落が確定していない議席数は6議席あるが、民主党の惨敗に覆うべくもない事実である。上院も同様な結果である。上院は100議席のうち二年ごとに3分の1改選される。改選前の議席数は民主党59議席、共和党41議席で、民主党が多数を占めていた。今回の中間選挙では民主党が19議席、共和党が18議席改選された。選挙の結果、民主党は5議席失い、非改選議席を合わせてかろうじて過半数の53議席を維持した。共和党は46議席を獲得し、大飛躍を遂げた。

 しかし、共和党が国民に大きくアピールしたかというと、必ずしもそうではない。ブッシュ政権の相次ぐ失態で、保守主義を掲げる共和党は意気消沈していた。2008年の選挙での大敗で、党幹部の中から「しばらく共和党は立ち直れない」という声さえ聞かれた。オバマ政権が成立して以降、共和党は議会で徹底した議事妨害を展開していた。その結果、大幅に法案成立が遅れる事態も起こっていた。しかし、同党が国民を鼓舞するようなメッセージを送ることはなかった。共和党が中間選挙で勝利した大きな要因は、草の根の保守運動であるティーパーティ運動の急速な台頭にある。財政赤字削減、小さな政府の実現という保守派の伝統的なスローガンを掲げた同運動は、短期間に燎原の火のように全国に広がっていった。同運動は日を追うごとに支持者を増やしていき、共和党に勢いを与えたのである。

 ティーパーティ運動の有力な組織であるティーパーティ・パトリオットの創立者の一人であるジェニー・ベス・マーチン女史は、選挙の結果を受けて「今日、国民は二年前の過ちを認めた」と語っている。ティーパーティ組織の支持を得てケンタッキー州の上院議員選挙で当選したランド・ポールは「人々は目を覚まし、私たちは政府を取り戻した」と語っている。

 各地のティーパーティ組織は、中間選挙で共和党候補に相乗りしたり、独自の候補者を擁立した。各地のティーパーティ組織が支持した共和党の候補者は上院では10名で、当選を果たしたのは5名。下院の支持した候補者は130名で、当選したのは40名、落選は86名で、11月15日現在でまだ確定していない議席が4議席あり、そのうちティーパーティの候補者が当選する可能性があるのは3議席である。

 ティーパーティ運動の政治的思想的背景は何か

 ティーパーティ運動の最大の特徴は、全国組織も、政策綱領も、中心的な指導者も存在しないことだ。いわば自然発生的に盛り上がった地方をベースにする“草の根”運動である。2009年の春にティーパーティ組織がデモを行ったとき、リベラル派を代表するプリンストン大学のポール・クルーグマン教授はニューヨーク・タイムズ紙のコラムで「保守組織から資金を得た“人造の芝生”だ」と批判的なコメントを書いていた。

 だが、リベラル派の予想に反して、ティーパーティ運動は急速に全国に広がって行き、中間選挙の帰趨に大きな影響を与えるまでになった。ティーパーティ運動は保守主義運動が蘇ったものなのか、あるいは単に深刻な不況が生み出した怪物なのかはまだ判断はできないが、今後のアメリカ政治を見る上で無視できない存在になっていることは間違いない。

各地のティーパーティ組織は2000とも3000とも存在すると言われている。統一した全国組織はなく、メンバーはお互いにツイッターなどを通して情報を交換し、様々な活動を行っているネットワークで結ばれた政治組織である。多くの組織は、たとえば「シカゴ・ティーパーティ」というように地名を付けた組織として独自の活動を行っている。

ただ運動が発展するにつれて、全国をカバーする組織も誕生している。たとえば「ティーパーティ・ネーション」「ティーパーティ・エクスプレス」「ティーパーティ・パトリオット」「フリーダムワークス」といった大きなネットワークを持つ団体も登場し、それぞれ地方の組織を支援しているが、それぞれは独自の方針で運動を展開している。たとえば、ティーパーティ・エクスプレスは積極的に政治献金をして、独自の候補者の擁立を進めたのに対して、ティーパーティ・パトリオットは党派性を全面に出さず、政策を訴えることに力を入れている。

同運動のもうひとつの大きな特徴は、多くの参加者は既存の政党である共和党に対しても失望していることだ。ティーパーティ組織に属す多く人々は、ブッシュ政権は保守主義の原則を破り、共和党は自分たちを見捨てたと感じている。保守主義という立場では一致するが、ティーパーティ組織は共和党組織と一定の距離を置いているのが特徴である。ただティーパーティ組織は、必ずしも共和党に代わる第三の政党を目指しているわけではない。

主婦などを中心に始まった自然発生的運動

同運動は自然発生的に起こった運動であり、そのため発足に関して様々な指摘がある。“ティーパーティ”という言葉は、1776年にイギリス政府の課税政策に反対して茶を積んだ東インド会社の船を攻撃したボストン・ティーパーティ(茶会)事件に由来する。茶会事件はアメリカの独立運動へとつながっていった。そのためアメリカでは、この言葉はプラスの響きを持って受け止められている。

最初のティーパーティの集会は2009年2月17日にシアトルで開かれた。二〇代の女性教師がツイッターを通してオバマ政権を批判する集会を呼びかけたところ、お互いにまったく無関係の約120名が集まった。さらに2月19日にテレビ局CNBCのコメンテーターが、オバマ政権の金融機関救済や史上最大の景気刺激策、サブプライム救済策は政府の肥大化と権限の拡大を招くと危機感を抱き、集会を呼びかけた。それがボストン・ティーパーティの設立へとつながった。ツイッターなどITを駆使して集会を呼びかけることで多くの人を集めている。オバマ大統領が選挙でインターネットやユーチューブを駆使して運動を展開したのを逆手に取って、ティーパーティ運動は拡大していく。

同じ時期にアトランタで二人の主婦が出会う。二人は意気投合し、一人はティーパーテフィ・エキスプレスを、もう一人はティーパーテフィ・パトリオットを設立し、それぞれティーパーティ運動の指導者になっていく。

各地で組織されたティーパーテフィ組織は、アメリカの納税期日の4月15日に全国各地で一斉にデモを企画し、オバマ政権に不満を抱く市民の同員に成功した。それから一年も経たないうちに同組織は2000を越えるまでに膨れあがっていった。さらにティーパーティ運動がメディアの注目を集めるようになったのは、2010年1月に行われたケネディ上院議員の死去に伴うマサチューセッツ州の上院予備選挙で同組織が無名の共和党候補の当選の立役者になったことだ。これでティーパーティ運動は勢い付き、共和党を蘇生させるのである。その流れが11月の中間選挙まで続いた。その間にフォックス・テレビのコメンテーターのグレン・ベックなどの保守的な評論家や著名人も戦列に加わり、さらに影響力を増していった。

ティーパーティ運動の政策は何か

アメリカの保守主義には幾つかの流れがある。小さい政府、財政赤字削減、減税などを訴える財政保守主義者、自由競争、個人の自己責任などを主張するリバタリアン(自由主義者)、同性婚や中絶禁止など倫理的な主張を展開する社会的保守主義者である。外交面では介入主義を主張するネオコンなどが存在するが、保守主義者の中には孤立主義を主張する者もいて共通の外交政策はない。現在、盛り上がっている運動は、財政的保守主義者が主導する運動の色彩が濃い。逆に意見が分裂する倫理問題を避け、財政赤字削減や小さい政府を主張することで支持基盤を拡大する戦略を取っているともいえる。

中間選挙後、ティーパーティ・パトリオットの「40年ビジョン」が暴露された。同ビジョンは9月に作成され、支持者に配布されたものである。同ビジョンによれば、運動の第一段階では、新議会で初当選の議員に働きかけ、議会内での勢力を確保することを目標に掲げている。現議会ではバックマン下院議員を代表とする47名のティーパーティ議員団が存在しているが、新議会ではさらにメンバーは増え、議会での影響力を強めるのは間違いないだろう。第二段階では、既に影響下にある2800の地方組織の指導者を教育し、各選挙区選出の議員に組織的圧力を加える運動を展開するとされている。第三段階では、医療保険制度改革法の廃棄や、民主党が提案している排出権取引法や移民法、景気刺激策など成立を阻止することを目標に掲げている。長期目標として、国民の60%を財政規律や小さい政府、自由市場などのティーパーティ運動の理念を支持させる運動を展開することを目標に掲げている。また現在、同運動の支持者は比較的高齢者が多いが、長期的な観点から大学生など若年層の支持層の拡大を目標にしている。

ティーパーティ運動の政策は伝統的な保守主義の政策を出るものではないが、草の根運動を背景に従来にない展開を示しそうである。場合によっては共和党主流はとの対決という事態も起こりうる。また、2012年の共和党の大統領候補選出でも、無視できない影響力を発揮するのは間違いないだろう。世論調査では、共和党支持者の3分の2は同運動の支持者か同調者である。ティーパーティ運動がアメリカ政治の大きな焦点になることは間違いない。

1件のコメント »

  1. [...] This post was mentioned on Twitter by Terry. Terry said: RT @hilitespecial: ティーパーティ運動とは何か:その発生と展開、政策を明らかにする 中岡望 http://j.mp/i8tcQi ふむふむ。烏合の衆だけに政権運営 [...]

    ピンバック by Tweets that mention ティーパーティ運動とは何か:その発生と展開、政策を明らかにする 中岡望 ふむふむ。烏合の衆だけに政権運営には向いてないけど、方向性を決めるパワーはありそうな。 - — 2010年12月18日 @ 12:40

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