中岡望の目からウロコのアメリカ

2004/12/6 月曜日

チェイニー副大統領と軍事企業ハリバートン社の関係

Filed under: - nakaoka @ 8:44

先週末、元アメリカの外交官と夕食を一緒にする機会がありました。彼は、民主党系の人物で、今回の大統領選挙に落胆していました。これからさらに4年間、ブッシュ政権が続くと思うと、耐えられない気持になると語っていました。また、政治家にはカリスマが必要であるとも語り、好き嫌いは別にしても、ブッシュにはカリスマがあり、ケリーにはカリスマがないとも言っていました。お酒を飲みながらの席ですが、状況が変わるには、ブッシュが死ぬしかないと冗談半分に言っていましたが、すぐに「それでは困る」といい直し、「そんなことになればチェイニー副大統領が大統領になってします。それこそ最悪だ」と言葉を繋ぎました。彼に言わせれば、チェイニーは最低の男とか。あまり笑うこともなく、どこか陰険な感じのするチェイニーの人気はあまりないそうです。特に、彼とハリバートン社との関係が選挙中に大きな問題になりました。以前、ある雑誌に書いたチェイニーとハリバートンの癒着についた原稿ですが、若干修正してアップします。

アメリカには”産軍複合体”という言葉があります。この言葉を最初に使ったのが、アイゼンハワー大統領です。軍事産業にとって、政府は最大の顧客です。軍隊は大量の兵器を買ってくれる最上の顧客です。また、単に兵器の購入だけでなく、兵器の開発でも政府は膨大な資金を投入します。そこに軍事産業と政府の間に密接な関係が誕生します。そうした大規模な癒着関係ではありませんが、チェイニー副大統領と軍事サービス企業ハリバートン社との関係も、そうした国防総省と企業の密接な関係を示している例です。

ディク・チェイニー米副大統領と『フォーチュン500社』に入るアメリカの大企業ハリバートン社の癒着関係は、スキャンダルとして公然と囁かれてきました。たとえば、2000年の大統領選挙の際に当時のジョー・リーバーマン民主党副大統領候補が、当時ハリバートン社CEO(最高経営責任者)であったチェイニーがブッシュ政権(父親)の時の国防長官の地位を利用して、同社が契約を有利に取れるように国防総省に圧力をかけたのではないかと批判したことがあります。これに対してチェイニーは「それは絶対にありえない」と反論しました。だが、ブッシュが大統領に当選し、チェイニーが副大統領に就任してからも、その疑惑は収まるどころかいっそう強まっていました。チェイニーとハリバートン社の癒着関係は確たる証拠のないまま、ずっと政界とマスコミの間で“黒い噂”として囁かれ、今回の大統領選挙でもリベラル派の攻撃の的になっていました。

そんな中、今年の初めに『タイム』誌が、国防総省の陸軍技術部隊の担当者が電子メールをすっぱ抜きました。同誌は国防総省とハリバートン社の間で交わされた電子メールを「ジュディカル・ウオッチ」という民間団体から入手したのです。その中に陸軍技術部隊がハリバートン社との契約を締結する際にチェイニー副大統領事務所と“コーディネート”したと明確に書かれていたのです。それまで“黒い噂”に留まっていた疑惑の存在を裏付ける事実が初めて明らかになったのです。政府とチェイニー事務所は、“コーディネート”は通常の意味での「調整」ではないと、疑惑を必死に否定し、単に連絡するという意味で、同事務所が何らかの関与をしたことを意味するものではないと性対しました。当時、民主党陣営は、このスキャンダルを選挙運動の中で取り上げると言っていましたが、それ以上のスキャンダルに発展することなく、ブッシュは再選を果たしたのです。ただ、一時、ブッシュ陣営の中からチェイニーを副大統領候補からはずすべきだという声も出てきましたが、最終的に副大統領候補に留まり、今回の再選となったのです。

チェイニーがハリバートン社のCEOに就任したのは、1995年のことです。彼は、ブッシュ政権で国防長官を務めていましたが、クリントン政権の誕生で野に下っていました。ベルリンの壁が崩れ、冷戦が終わったことで、軍事関連サービスを提供していた同社は、経営的に厳しい状況に置かれていました。同社は93年に赤字に転落したのです。国防総省と密接な関係を持ちたい同社にとって、チェイニーのCEO就任は願ってもないことでした。95年にアメリカ軍がボスニア、コソボに派兵すると、ハリバートン社の軍事関連サービスを提供する子会社ブラウン&ルート(B&R)社の政府との契約は急増していきます。B&R社の94年の売上が1・4億ドルでしたが、チェイニーがCEOに就任した後の96年には4・3億ドル、99年には10億ドルにまで増えています。そのため、B&R社の軍との契約が急増したのは、チェイニーが国防総省との関係を利用したからではないのかという疑惑が浮上したのも当然でした。しかも、昨年、R&B社が国防総省に不当な請求をしていたことも明らかになり、会計監査院の査察を受けるなどのスキャンダルも重なり、今回の電子メールの暴露へと繋がったのです。

現在、R&B社の不正請求問題も山を越えた感じがあります。しかし、今後もチェイニー副大統領とハリバートン社と子会社のR&B社の不明朗な関係は、問題化してくると予想されます。

[ハリバートン社とは]
ハリバートン社はテキサスに本社を置く「オイル・フィールド・サービス企業」で、事業部門は「エネルギー・サービス部門」と「エンジニア・建設部門」に分かれている。エネルギー・サービス部門は石油試掘と開発を、エンジニア・建設部門はエネルギー関連企業と政府向けにサービスを提供している。同社はイラク戦争の前にイラクで石油関連の業務を行なっており、昨年はイラク関係だけで三六億ドルの売上を計上。子会社のブラウン&ルート社が軍隊の設営や燃料の提供業務などを行なっている。世界一〇〇カ国以上で業務を展開。昨年の売上は一六二億ドル、従業員数は一〇万人を超えている。

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