中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/2/20 日曜日

日米の外交防衛協議をどう理解すべきか:「2プラス2」の共同声明全文と米メディアの報道、中国の反応

Filed under: - nakaoka @ 11:22

前のブログに記載した「2プラス2協議」が終りました。その前に行なわれたライス国務長官と町村外務大臣の共同声明の全文の翻訳を前のブログに追加しました。ご覧ください。さきほど外務省のホーム・ページをチェックしたところ、その共同声明も「2プラス2」後の共同声明もまだ掲載されていませんでした。おそらく週明けには掲載されるのでしょうが、少し早めにこのブログで全文の翻訳を掲載します。新聞に掲載されるにしても、全文は載らないと思います。英語の共同声明からの翻訳なので日本語の正式な文面とは違うと思いますし、また急いで訳したのでこなれない訳文ではないかと思いますが、ご了解ください。ただ後で「資料」にもなるでしょう。前のブログの「ヘリテージ・ファンデーション」の専門家の意見とすり合わせて読むのも面白いかと思います。少し長い共同声明ですが、以下に全文の訳文を掲載します。なお、この共同声明に対して中国政府は猛烈に反発しています。その情報も加えました。また『ワシントン・ポスト』、『ニューヨーク・タイムズ』、『タイム』誌が報じるアジアの反応についても触れておきます。

日米安全保障諮問委員会共同声明(Joint Statement of US-Japan Security Consultative Committee)
1. ライス国務長官とラムズフェルド国防長官は日本の町村外務大臣と大野防衛庁長官を迎え、2005年2月19日にワシントンにおいて安全保障諮問委員会の会合を開催した。4名は、日米が直面する安全保障問題および同盟問題と同時に他の関係に関しても話し合いを行なった。

現在、世界が直面する課題について協力する

2. 長官と大臣は、広範な安全保障問題、政治問題、経済問題に関して日米の協力関係が極めて良好であると述べた。日米安全保障の取り決めを核とする日米同盟関係が引き続き日米双方の安全保障と繁栄をより確実なものにするだけでなく、地域およぼ世界の平和と安全を高める際に極めて重要な役割を果たすことを認識し、両国の関係が拡大することを期待している。

3. 長官と大臣は、アフガニスタンとイラク、広範な中東地域への国際支援を行なう際に日米の指導力の重要性を強調した。その努力は、既に具体的な成果を上げつつある。長官と大臣は、地震とそれに続くインド洋地域の津波被害を被った人々に広範な支援を提供する際に日米と他国の協力が成功裏に進んだことを賞賛した。

4. 長官と大臣は、日米の協力と協議が特に「Proliferatin Security initiative」を通して核の非拡散を推進するうえで極めて重要な役割を果たしていることを確認した。また、日米およぼ他国が行なっている多国的な禁止が成功していることを歓迎した。

5. 長官と大臣は、「弾道ミサイル防衛計画(BMD)」が弾道ミサイルによる攻撃から防衛し、抑止し、他の国が弾道ミサイル開発に投資するのを断念させる日米の能力を高めることになると確信している。日本の弾道ミサイル防衛システム導入の決定や、武器輸出3原則に関する最近の声明などのミサイル防衛協力の成果を認める一方、政策と軍事的作戦での密接な協力と共同開発を視野に置きながらBMSシステムでの日米の協力的な研究を促進することに対する約束を再確認した。

共通の戦略目標

6. 長官と大臣は、国際テロと大量破壊兵器(MDW)とその運搬手段の拡散などの新たに登場しつつある脅威が共通の挑戦として表面化している新しい安全保障の環境について議論した。国際社会で各国の相互依存性が深まっていることは、そうした脅威が日米を含む世界各国の安全保障に影響を及ぼす可能性があることを確認した。

7. こうした脅威がアジア太平洋でも現れつつあることに注目し、長官と大臣は、こうした挑戦が永続的に続くことは予測不可能性と不確実性を産み出すことを強調した。さらに、この地域の軍事力の近代化も注意を払う必要があると述べた。

8. 長官と大臣は、北朝鮮に6カ国協議に迅速かつ無条件で復帰し、確認できるような透明性のある方法ですべての核開発計画を完全に放棄することを強力に要請した。

9. 国際的な安全保障環境に対する理解に基づいて、長官と大臣は、両国政府が密接に協力して、相互の努力と、日米安全保障の取り決めの実施、それと同盟関係に基づく共同努力を通して共通の戦略的な目標を追求する必要があることで合意した。両国は、こうした共通の戦略的な目的に沿って政策を調整し、安全保障環境の要請に応じて戦略目標を新たにしていくために定期的に協議会を開催することを決定した。

10. アジア太平洋地域における共通な戦略的目標には次の項目が含まれる:

・日本の安全保障を確かなものにすること、アジア太平洋地域の平和と安全保障を強化すること、日米に影響を及ぼす緊急事態に対応する能力を維持すること

・朝鮮半島の平和的統合を支援すること

・核開発、弾道ミサイル開発、違法活動、北朝鮮による日本人の拉致といった人道上の問題を含む北朝鮮関連の問題の平和的解決を求める

・中国との協力関係を作り出し、中国がアジア太平洋地域だけでなく、国際的に責任あり、かつ建設的な役割を果たすことを歓迎する

・対話を通して台湾海峡に関連する問題の平和的解決を促す

・中国に軍事問題での透明性を改善するように求める

・アジア太平洋地域でロシアの建設的な取り組みを求める

・北方領土問題の解決を通して日露関係を完全に正常化する

・平和で、安定し、活力のある東南アジアの育成を図る

・様々な形の地域協力を歓迎するが、開放的、包括的、透明性のある地域メカニズムが必要である

・武器と軍事的技術の安定を乱すような販売、移転を阻止する

・海上輸送の安全性を維持する

11. 国際的な共通の戦略目標には以下のものが含まれる:

・基本的人権、民主主義、それに国際社会での法律による支配といった基本的な価値観を促進する

・国際的な平和協力活動と世界の平和と安定と繁栄を促進するための開発支援で日米のパートナーシップをさらに一体化させる

・非核拡散条約、国際原子力機関、その他のシステムと、PSIなどの政策の信頼性を有効性を改善することを通して大量破壊兵器(MDW)とその運搬手段の削減と非拡散を促進する

・テロリスムを阻止し、撲滅する

・日本の国連安全保障理事会の常任委員になるという希望を実現するために現在の勢いを最大限利用することで国連安全保障理事会の効率性を高める努力を調整して行なう

・国際的なエネルギー供給の安全性を維持し、高める

日米の安全保障と防衛協力を強化する

12. 長官と大臣は、それぞれの国の安全保障政策と防衛政策の策定をそれぞれが支援し合い、また評価し合っていることを表明した。日本の「新防衛大綱(National Defense Program Guideline:NDPG)」では、新しい脅威と様々な不測の事態に効果的に対応できる日本の能力と、国際的な安全保障環境を改善する日本の積極的な取り組み、日米同盟関係の重要性が強調されている。広範な防衛のトランスフォーメーション(再編成)の努力の中核部分として、アメリカは不確実な安全保障環境のもとで適切かつ戦略に基づいた能力を提供するために国際的な防衛政策を見直し、強化しつつある。長官と大臣は、こうした日米の努力が、両国が共通な戦略目的を追求する際に、効果的な安全保障と防衛協力を確かなものにし、強化することになると確認した。

13.こうした文脈の中で、長官と大臣は、十分に調整された方法で、様々な挑戦に効果的に対応するために必要な日本の自衛隊とアメリカ軍の役割と使命、能力を引き続き検証する必要があることを強調した。この検証では、日本のNDPGや非常時に対応するための新しい立法だけでなく、相互のロジスチックな支援に関する合意の拡大とBMD協力の進展などの最近の成果と展開が考慮に入れられるだろう。また、長官と大臣は、日米両軍のインターオペラビリティ(interoperability:相互運用)の重要性を強調した。

14.長官と大臣は、この検証が日本におけるアメリカ軍の構造の再編成に関する協議に寄与するはずであると合意した。日本の安全保障の基礎と地域の安定アンカー(碇)としての日米同盟関係を強化する包括的な努力に際して、こうした協議を強化することを決定した。この文脈で、両国は日本におけるアメリカ軍の抑止力と能力を維持する一方で、日本の地域社会の負担を軽減するというコミットメント(約束)を確認した。長官と大臣は、両国のスタッフにこうした協議の結果について迅速に報告するよう指示した。

15. また長官と大臣は、地域社会とアメリカ軍の間の前向きな関係を強化する努力を引き続き行なうことの重要性を強調した。また、環境にしかるべき注意を払うことを含むアメリカ軍の「地位協定(the Status of Forces Agreement)」の実施の改善と、沖縄に関する「特別行動委員会(the Special Action Committee)」の報告の確実な実施は、日本におけるアメリカ軍の安定した駐留にとって重要であることを強調した。

16. 長官と大臣は、現在の「防衛費用分担協定(Special Measures Agreement:SMA)」が2006年3月に失効することを留意しつつ、日本におけるアメリカ軍のプレゼンスを支援する際のSMAの非常に重要な役割に配慮して、ホスト国の適切な水準の支援を提供するための将来の協定に関する協議を開始することを決定した。

以上が全文の訳です。専門用語は後でチェックし、修正する予定です。この共同声明が歴史的にどうした位置づけになるのか分かりませんが、1つの大きな転換になるのでしょう。ただ、中国に対する脅威で日米双方が共通の認識を持ったとの新聞報道が盛んになされていますが、この共同声明を読む限り、中国脅威論というニュアンスは強くないようです。ただ、専門家が読めば、違った解釈ができるのでしょうが。できれば、アメリカ・サイドのメディアが、今回の協議をどう報道しているのでしょうか。

アメリカのメデフィアの報道に触れ前に、台湾問題以外で私が気になったことに触れておきます。日本のメディアはほとんど注目していないのですが、興味深い項目は「様々な地域協力を認める」とある部分です。おそらくこれは、日本がアジア諸国と協議を進めている「自由貿易協定」のことを意味していると思います。将来、日本、韓国、中国、台湾を含んだ東アジア自由貿易圏が登場することになれば、アメリカはどういう対応を取るのでしょうか。以下にアメリカのメディアの報道について簡単に書きます。

『ニューヨーク・タイムズ』紙は、もっぱら北朝鮮問題に紙面を割いて分析していますが、同時に注目されたのは、アメリカ政府高官の発言として「日本政府は初めて台湾の安全保障に懸念を抱いていることを表明した」という発言を紹介しています。さらに「アメリカ政府の高官は、日本政府が初めて公式に台湾と中国の間の緊張に懸念していると発言したと語った」と書いています。

さらに同紙はフォローアップ記事で、中国の反応を「中国外務省は日米が中国の領土台湾に関連する共同声明を発表したことに断固反対する。それは中国の内政への干渉と中国の主権を傷つけるものである」という発言を紹介しています。さらに、中国の学者Shi Yinhongの「日本政府は中国を次第に敵対勢力と見なし始めているようだ」という発言を紹介しています。さらに、日本政府は共同声明の中の台湾海峡の問題を話題にしたがっていないようだが、「それにもかかわらず、これは1997年に締結された日米軍事協力からの離脱を示している」と分析しています。これは、その協定では「日本を取り巻く地域で両国は協力する」と抽象的に表現されていたものが、今回の共同声明で明確に「台湾海峡」という言葉に変わったことを指しています。

事実、中国政府は、この共同声明(共通の戦略的目標)を批判しています。『ワシントン・ポスト』紙からの中国政府の発言部分の引用です。「声明は台湾問題を含んでおり、これは中国の主権と領土保全、国家の安全保障の問題に関わるものである」「中国政府はこの声明に対して猛烈に反対する」「中国の防衛力の構築に関する軽率な表現あるいは批判は受け入れることはできない。中国の防衛力の構築は安全保障と領土保全を目的としているものである」。

また同紙は「中国政府は日本が台湾北部の海域を防衛するためにアメリカと今まで以上に密接な協力を進んで行い姿勢を見せていることに懸念を表明している」と述べています。さらに「もしアメリカ海軍がこの地域での作戦に入った場合、日本が台湾の北部にあるシーレインを防衛するうえで協力することは、アメリカ軍にとって非常に価値のあることである」と説明しています。共同声明の中に「海上輸送の安全を確保する」という条項も、台湾海峡を意識したものかもしれません。とすれば、中国からすれば、もし台湾海峡を挟んで紛争が起こった場合、日本は介入するという風に聞こえるのでしょう。これに関して、日本政府はどう説明するのでしょうか。

『タイム』誌も、この共同声明を取り上げた記事を掲載しています。同誌は、アジア諸国は今回の共同声明を「晴天の霹靂として受け取った」と書いています。従来、日本は台湾海峡の問題に触れること回避してきたが、今回、初めて日米防衛問題をアメリカの台湾政策に関連付けたと分析しています。ブッシュ政権と共和党は基本的に台湾支持の政策を取っています。さらに、アメリカの中国認識も厳しいものになっています。上院外交委員会でゴスCIA長官が「中国の軍事力の近代化と軍事力の構築は台湾海峡における力の均衡を崩している」と証言し、これを受けて中国政府は「これは中国の内政に対する干渉であり、台湾の独立擁護派に間違ったシグナルを送ることになる」と批判しています。一方、台湾は今回の共同声明を受けて、「日本を同盟国」と歓迎しています。

小泉政権下で日中関係は厳しい状況におかれています。ハワード・ベーカー前駐日米大使は離日に先立ってm「日本はスーパーパワーであり、中国もスーパーパワーへの道を歩んでいる。両国ともこの地域で伝統と歴史を持っている。そしてお互いは嫌いあっている」と記者団に語っています。『タイム』誌は、今回の共同声明を「日本の新しい自信がこの地域で最もセンシティブな問題、すなわち台湾の将来にまで及んだことは明白である」と分析しています。アジア諸国は、日本と中国の間で緊張が高まることを懸念しています。また、共同声明は「アジアの将来を示す先触れ」になるのではないかと見ていると、同誌は伝えています。

将来、振り返ったら、この共同声明は日本の「アジア外交」の大きな転換点だったということになるのかもしれません。本当に日本政府は、明確に中国に対して敵対的な政策を取るのでしょうか。靖国神社参拝問題など、日中関係はますます処理が難しくなる局面にはいりつつあるのかもしれません。それは結果的には朝鮮半島の安全の問題にも響いてくるかもしれません。

3件のコメント

  1. 翻訳作業お疲れ様です。とっても役立ちました。
    私のサイトで紹介させていただきましたのでご報告まで。
    それにしても、日米間は相当に腹を割った話ができるという感じですね。

    コメント by かんべえ — 2005年2月20日 @ 17:48

  2. 2プラス2会議は、新たな日米関係の序章
     更新が遅れました。まずはお詫びのしるしに(?)、朝日新聞の新卒者向けのネットゲームをどうぞ。このゲームのラストで、あなたは朝日新聞の本性を改めて実感することでしょう。…

    トラックバック by log — 2005年2月21日 @ 19:48

  3. Joint Statement US-Japan Security Consultative Committee
    U.S.-Japan Security Consultations, 19 Feb 2005
    日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同発表、2005年2月19日

    トラックバック by 虎視牛歩 — 2005年2月25日 @ 07:33

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