中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/12/5 火曜日

中間選挙後のアメリカの外交政策の展開を予想する

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アメリカの中間選挙後、ブッシュ政権の外交政策に変化が出ています。特に選挙で批判が強かったイラク政策の見直しを迫られています。ブッシュ大統領が選挙後、最初にとって行動はラムズフェルド国防長官の解任でした。さらにイラク政策に関してレーガン政権の国務長官だったジェームズ・ベーカーなど超党派の「イラク研究グループ」が、段階的撤退などの勧告をすると見られています。勧告は6日に発表される予定です。また、国連外交もボルトン大使が”リセス・アポイントメント(議会休会中の任命)の期限切れまでに議会の承認を得るのが無理との見通しから、ホワイトハウスは承認を断念しました(ボルトンのリセスアポイントメントに関しては、以前書いたブログ1とブログ2を参照してください)。これでアメリカの国連外交にも変化が出てくるかもれません。また、ラムズフェルド長官は解任数日前にホワイトハウスにイラク政策の誤りを認めたメモを提出していることも明らかになりました。今回の記事は選挙が終わってすぐ(11月13日)に書いたもので、その後の変化はありますが、基本的には妥当な内容だと思います。

予想通りとはいえ、中間選挙の結果はブッシュ政権に大きなダメージを与えた。民主党が下院の過半数を占めるというのは大方の予想通りであったが、土壇場になって上院まで民主党の手に落ちたのは共和党にとって想定外の事態であった。ただ、上院の議席差は民主党の51議席に対して共和党の49議席と最初の差に留まったのが共和党にとって唯一の救いであろう。今回の共和党の敗北は、イラク戦争や議会運営を巡って共和党支持層が離反したことが響いたといえる。焦点は、民主党が支配する議会との関係で、ブッシュ大統領がどう対応するかに移った。

ブッシュ大統領の最初の反応はラムズフェルド国防長官の解任であった。選挙直前に同長官を支持し、更迭することはないと語ったのを手のひらを返すように方針を変更したのは、それだけ選挙結果が与えたダメージが大きかったことを示すものであろう。ただ、ラムズフェルド長官に関して閣内外から辞任の要求は強まっていた。たとえば防衛関係の専門紙が共同してラムズスフェルド長官の辞任要求の共同社説を掲載することもあった。また、ホワイトハウス内ではハドリー安全保障問題担当補佐官とライス国務長官がラムズフェルド長官解任の画策をしていたとも伝えられている。

後任にゲーツ元CIA長官が指名された。上院の軍事委員会で人事の承認を得なければならないが、多数党の民主党が委員会委員長のポストを占めるようになるだけに、委員会の審議の過程で様々な要求を突きつけてくるだろう。次期軍事委員会委員長に決まっているレビン議員は米軍のイラク撤退を主張しており、同時に軍事行動を調査する調査委員会を設置する意向を明らかにしている。ホワイトハウスは厳しい対応を迫られるだろう。

今回のラムズフェルド人事で、ブッシュ政権の外交政策が共和党主流派の現実主義に転換するのではないかと推測されている。すなわち一国主義や悪の枢軸国とは直接交渉をしないといった硬直的な政策から外交交渉を重視する政策へ転換する可能性が高まってきたといえる。ネオコンと称される外交政策タカ派は、政府から放逐されつつある。大物ネオコンで残っているのはチェイニー副大統領とボルトン国連大使くらいになってしまった。そのボルトン大使も、昨年議会の承認が得られないため議会休会中に任命するという“リセス・アポイントメント”で国連大使の職についたものである。そのリセス・アポイントメントも年内に切れ、年内に議会の承認が必要となる。しかし、その見込みは極めて薄い。

ラムズフェルドとボルトンが去れば、外交政策タカ派はほぼ放逐されたことになる。チェイニー副大統領の影響力も急速に低下しており、外交政策は従来の国防総省、ホワイトハウスを軸としたものから、ライス国務長官が率いる国務省に移ると予想される。ブッシュ大統領がイラク政策で民主党に強力を求め、超党派的解決を目指す動きを示しているのは、議会の勢力図の変化を考えれば当然のことである。

ただ、これで急激にブッシュ政権の外交政策が180度転換すると見るのは早計のようだ。ホワイトハウス高官は、ブッシュ外交は今までよりも現実的、プラグマチックになるだろうが、イデロギー的な要素がなくなることはないと語っている。ブッシュ大統領は「最善の軍事的オプションはイラクの国内情勢によって決まる」と、民主党が要求する即座の撤兵には消極的な反応を示している。

現在注目されるのは、議会の要請で設置された超党派の「イラク研究グループ」がイラク問題に対してどのような政策勧告を行なうかである。同グループは、レーガン政権の時の国務長官であったベーカー氏とハミルトン元民主党会員議員が中心になって構成されており、メンバーの顔ぶれからいえば、伝統的な外交政策を支持する傾向が強い人物が多い。次期国防長官に指名されたゲーツも、同グループのメンバーであった。同グループが提案すると予想されるのは、イラクからの米軍の段階的撤退と欧州と中東諸国と共同したイラク安定化政策が柱になると予想されている。

11月13日にブッシュ大統領はイラク研究グループとホワイトハウスで会談している。ホワイトハウスは、一般的な会話が行なわれただけだと会談の詳細は明らかにしていないが、ブッシュ大統領は「同グループの勧告に対して偏見は抱かない」と微妙な表現をしている。同会談には、チェイニー副大統領、ハドリー補佐官、ライス国務長官が出席している。さらに、会談後、ライス国務長官はハノイでのAPECへの出発を延長して、国務省内でイラク問題に関する協議を行なっている。

ワシントンポスト紙は、こうしたホワイトハウス、議会、イラク研究グループの一連を動きを総括して「ホワイトハウスは中間選挙の結果に反映された有権者の声とイラク政府が治安を維持できるようになるまで米軍はイラクに留まるべきだというブッシュ大統領の確信の間のバランスを取ろうと苦心している」と報じている。

今まで国防総省は中東の事態は軍事問題であって外交問題ではないとの立場で国務省の動きを牽制してきた。しかし、ラムズフェルド解任で、この抗争に決着が付き、今後は国務省主体で政策が決められていくと予想される。特にゲーツ次期国防長官とライス国務長官は緊密な関係にある。80年代にソビエト戦略の立案に関してホワイトハウスで一緒に仕事をした経験もある。またライス国務長官は、CIAの情報ルートを持つゲーツ次期長官と頻繁に情報交換をしている。とすれば、国務省と国防総省が協力して政策立案を行なえる条件ができると予想される。

ただ、こくした見通しには、まだ希望的な観測が多分に含まれているのも否定できない。ブッシュ大統領が本当にイラク戦略、あるいは中東戦略で転換を図ると決断したかどうか、依然として不明である。たとえば、オルマー・イスラエル首相と会談した後の記者会見でオルマー首相は「イランの脅威は単にイスラエルの脅威だけではなく、世界全体の脅威である」と述べ、両首脳はイランの核開発問題に対する懸念を共有していることを示した。

アジア政策ではどうであろうか。北朝鮮政策に関して、民主党はアメリカと北朝鮮の二国間協議を支持している。事実、クリントン政権下では積極的に二国間協議が行なわれている。ブッシュ政権が民主党の意向に応じるとすれば、六カ国協議を含めて、アメリカの政策が変わる可能性は否定できない。ライス国務長官も、決して強硬姿勢に拘っていない。同長官は繰り返し「アメリカ政府は北朝鮮の体制転換を求めていない」と語っており、北朝鮮政策でなんらかの変化が出てくるかもしれない。

ただ、90年代の朝鮮半島の危機のとき、ゲーツ次期国防長官は、北朝鮮の核施設に対して限定的なミサイル攻撃を行うべきだと主張している。その意味で、ホワイトハウス内での北朝鮮戦略がまとまるには時間がかかるかもしれない。そうした留保条件を置いても、ブッシュ政権がアジア戦略で変化を見せるかもしれない。以前の本欄でポールソン財務長官の親中国政策について触れたが、中国・北朝鮮政策でなんらかの変化が出てくる可能性は想定しておいたほうがいいだろう。

問題は日米関係である。安倍政権が、こうした新しい状況に対応する十分な準備ができているとは思わない。制裁一辺倒の政策は、日本の外交の選択肢を大きく制約する状況になっているのは間違いないだろう。

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