中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/1/11 木曜日

ブッシュ大統領が発表した新イラク戦略の内容(1月11日の演説の要約)

Filed under: - nakaoka @ 14:06

日本時間で1月11日の正午過ぎに、ブッシュ大統領は新イラク戦略を発表した。中間選挙で共和党の敗北で、ブッシュ政権はイラク戦略の見直しを迫られていた。12月中旬、超党派の「イラク研究グループ」が米軍の段階的撤退を含んだ提案を行い、それに対してブッシュ政権がどのような反応を示すのか注目されていた。そして、今日発表したブッシュ大統領の演説では、逆に2万人の米軍の増派計画を明らかにしたのである。同時に、イラク政府に対して今まで以上に国内の治安確保の責任を迫る内容であった。また、ブッシュ大統領は初めて、イラク戦略の間違いを認め、議会に対しても新戦略の検討を求め、必要があれば、戦略の修正にも応じるとの柔軟な姿勢を示した。米軍増派は、以前からネオコンたちが主張していた事柄である(以前のブログを参照)。ただ、アメリカの選択は「悪いものか、それほど悪くないものか」という2つの選択であり、これでイラク戦争の展望が開けたわけではない。むしろ、混迷が深まる懸念もある。さらに大量の増派をしないと、バグダッドの治安回復は無理だとの指摘もある。以下の要約は、記者発表後1時間で演説のほぼ3分の2を要約したものである。

「今夜、イラクではアメリカ軍が世界のテロとの戦いの方向を決定する戦いに従事している。それはアメリカ国内の安全をも決定するものである。今夜、私が説明する新戦略は、イラクにおけるアメリカのコースを変更するものである。そして、テロとの戦いに勝利する助けとなるものである」

「イラクの状況はアメリカ国民にとって受け入れがたいものである。それは、私にとっても受け入れがたいものである。イラクの米軍は勇敢に戦ってきた。米軍の兵士たちは、渡した命令したことをすべて実行してきた。間違いを犯したところがあるとすれば、その責任は私にある」

「私たちがイラクにおける戦略を変更しなければならないのは明白である。私の安全保障チーム、軍の司令官、外交官は、包括的な検討を行なってきた。私は共和・民主の両党の議員、海外の同盟国、政府外の著名な専門家と相談してきた。イラク研究グループの思慮深い勧告から得るものもあった。グループのメンバーとの議論を通して、私たちは全員、イラクで成功を収めるための魔法の方式は存在しないことで合意した。声を大にして、明確にしなければならないメッセージがある。それは『イラクでの失敗はアメリカにとって災害をもたらすことになる』ということである」

「失敗がもたらす結果は明白である。イスラムの過激派が力を増し、新たなメンバーを獲得することになるだろう。彼らは、穏健は政府を転覆し、地域に混乱をもたらし、自分たちの野心を実現するための資金として石油収入を利用する立場を獲得することになるだろう。イランは、核兵器を保有することに固執するだろう。私たちの敵は、アメリカ国民の攻撃を計画し、計画を実行するためのセーフヘブン(避難場所)を確保することになるだろう。アメリカ国民の安全のためにも、アメリカはイラクで成功しなければならない」

「イラクで成功を収めるための最優先事項は、バグダッドの安全を確保することである。イラクの宗派対立の80%はバグダッドから30マイル以内で起こっている。こうした対立はバクダッドを宗派の独立地へと分裂させ、すべてのイラク人の信頼を揺るがしている。イラク人だけが、宗派対立を終わらせることができ、人々の安全を確保することができるのである。イラク政府は、それを実現するために意欲的な計画を提案している」

「バグダッドを救うアメリカの過去の努力は、2つの理由から失敗した。1つは、テロリストや反乱分子を排除した地域の安全を確保するために十分なイラク軍とアメリカ軍を持っていかなったことだ。軍隊に対して余りにも多くの制約があった。アメリカ軍の司令官は、こうした過ちを正すために新しいイラク政策を再検討してきた。司令官たちは、この新しい計画が機能すると報告している」

「この努力の主要なポイントについて説明する。イラク政府は、一人の軍司令官と二人の副司令官を任命した。イラク政府は、イラク軍と国家警察をバグダッドの9つの馳駆に配置する。これらの軍隊や警察が配置されれば、18のイラク軍と国家警察の部隊が治安維持活動に当たることになる。このイラク軍は、地元の警察署をベースに行動を行なうことになる。チェックポイントを設置して、バグダッドの市民の信頼を得るために個別訪問を行なうことになる」

「これは強力なコミットメントである。しかし、それが成功するためには、イラク人はアメリカの支援が必要であると、アメリカ軍の司令官は指摘している。そのため、アメリカは、イラク人が宗派対立を沈静化させ、バグダッドに治安を取り戻す作戦を支援できるようにアメリカの戦略を変更する。このためにはアメリカ軍を増強する必要がある。私は、2万以上の兵士をさらに派遣する約束をした。新たに派兵される部隊(5部隊)はバクダッドに配属される。これらの部隊はイラク軍と一緒に行動し、共同作戦を取ることになる。アメリカ軍の使命は明確である。すなわち、イラクがバグダッド周辺を制定し、安全を確保すること、イラク人が地元の人々を守るのを支援する、イラク軍がバグダッドが必要とする安全保障を提供できるように支援することである」

「今夜、演説を聴いておられる多くの人は、バグダッドの治安を回復するという今までの作戦が上手くいかなかったのに、どうして新しい戦略が成功するといえるのだろうかと質問するだろう。しかし、今までの戦略と新しい戦略には違いがある。今までの戦略は、イラク軍とアメリカ軍がテロリストを掃討しても、アメリカ軍が他の目的地に移動すると、殺人者たちはまた戻ってきた。今回は、掃討された地域に必要な軍隊を継続的に配置するものである。今までの作戦は、政治的、宗派的対立のため、イラク軍とアメリカ軍は宗派対立に油を注ぐような地域には出動できなかった。今回は、イラク軍とアメリカ軍は、近隣地区に自由に出動できる」

「私はイラクの首相と他の指導者に対して、アメリカのコミットメントはいつまでも続くものではないことを明らかにした。もしイラク政府が約束を履行しなければ、アメリカ人の支持を失うことになるだろう。それは同時にイラク人の支持を失うことでもある。今こそ、イラク政府は行動を取るべきである。首相は、このことを理解している」

「この戦略は自爆的攻撃や暗殺、IED攻撃を即座に終わらせるものではない。しかし、やがてイラク軍が殺戮者を掃討し、バグダッドの市民の信頼と協力は高まっていくだろう。そうした状況になれば、人々の日々の生活は改善されるだろう。イラク人は、指導者に対する信頼を取り戻すだろう。イラクのスンニ派とシーア派の大多数の人々は、一緒に平和に暮らすことを望んでいる。バグダッドでの暴力を減らすことで、両派の和解が可能になるだろう」

「アメリカは、こうした目的を達成できるように、イラク政府を支援する政策を変更するものである。イラク研究グループの勧告と調和を取りながら、私たちはイラク軍の部隊に配属されたアメリカ軍顧問の関与を深める。私たちは、イラク人がより大きな、より装備の優れたイラク軍を構築できるように支援する。私たちは、イラク軍の訓練を加速化する、私たちは、司令官やアメリカ市民が経済協力のために資金を提供できるようにより大きな弾力性を与える。私たちは、地域復興チーム(Provincial Reconstruction Team)のメンバーを倍増する。こうしたチームは、軍事的専門家と民間の専門家を動員して、イラクのローカル・コミュニティの復興を支援し、穏健派の人々を強化し、イラクの自立への移行をスピードアップする組織である。ライス国務長官は、経済支援を成功させるためにバグダッドの復興調整官を任命することになる」

「イラクで成功するためには、領土保全が必要である。これは、イランとシリアとの対話から始まる。両国の体制は、テロリストや反乱分子が自由にイラクに出入りすることを許している。イランは、アメリカ軍を攻撃するための武器を提供している。私たちは、イラクやシリアの支援を阻止する。私たちは、私たちのイラクでの敵に高度な武器や訓練を提供しているネットワークを探し出し、破壊する」

「イラクの安全保障と中東におけるアメリカの利権を守るた対策をも講じている。私は、最近、中東への追加的な carrier strike group の派遣を命令した。また、中東の同盟国と友邦を守るために情報を共有し、パトリオットの防衛システムの配置を行なうつもりである。私たちトルコ政府とイラク政府と協力して国境問題を解決する。また、イランが核兵器を獲得し、地域での独占的な地位を強化するのを阻止するために、他の国と協力する」

「また、私たちはアメリカの外交力を総動員して中東諸国の支援を得る。サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、湾岸諸国などの中東の諸国は、イラクでのアメリカの敗北は過激の聖域を作り出すことになることを理解すべきである。それは各国の生存にとって戦略的な脅威になるだろう。金曜日(12日)にライス国務長官は同地域に向かい、イラクへの支援を確保し、中東に和平をもたらすのを支援するために必要な緊急な外交を行なうことになっている」

「アフガニスタンからレバノン、パレスチナ地域まで、数百万の一般の人々は、暴力にうんざりしており、子供たちのために平和と機会に満ちた将来を望んでいる。アメリカは撤兵し、そうした国々の将来を過激派に委ねるのであろうか。あるいは、自由の選択を行なったイラクを守るべきなのだろうか」

「今夜、私が説明した戦略の変更は、アメリカの安全保障にとって極めて重要な世界の地域での生活を守るために戦っている若い民主国家の生存を確実なものにすることを狙ったものである。明確にしておきたいことがある。それは、イラクのテロリストや反乱分子は良心を持っていないこと、彼らは今後も血にまみれた暴力を行なうだろうということである。かりに私たちの新しい戦略が計画通りに効果を発揮したとしても、暴力行為は続くだろう。もっと多くのイラク人とアメリカ人の犠牲者がでることは覚悟しなければならない。問題は、新しい戦略が私たちを成功に近づけることになるのかどうかである。私は、そうなると信じている」

「イラクの勝利は、私たちの父や祖父が達成したものとは異なるだろう。戦艦の上で降伏の儀式を行なうことなないだろう。しかし、イラクの勝利は、アラブ世界に何か新しいものをもたらすだろう。それは、民主主義が機能することであり、法に基づく支配であり、基本的人権の尊重である。民主化されたイラクは、完全なものではないだろう。しかし、イラクはもはやテロリストの基地ではなく、テロリストと戦う国になるだろう。また、子供たちや孫たちに平和と安全をもたらすのを支援する国になるだろう」

「私たちの新しい政策は、議会との協議の後に実行に移される。多くの人は、イラク人はアメリカに依存しすぎていると懸念している。したがって、彼らは、アメリカの政策はイラクの国境を守り、アルカイダ討伐に焦点を当てるべきだと主張している。彼らの解決策は、バグダッドでのアメリカの努力を後退させるものである。あるいは段階的な戦闘要員の撤退を主張している。私たちは、注意深く、そうした人々の提案を検討した。そして、撤退はイラク政府の崩壊を招き、イラクを分裂させ、想像を絶する規模で大量殺戮が起こるという結論に達した。そうしたシナリオは、アメリカ軍のイラクでの駐在を長引かせる結果になるだろう。もしこの重要なときに、我が国の支援を増やし、イラクが暴力の連鎖を打ち切るのを支援すれば、私たちはアメリカ軍の撤兵を早めることができるだろう」

「数日後、私の国家安全保障チームは、議会で新しい戦略について十分な説明をすることになるだろう。もし議会が修正を求めるのなら、私たちは戦略の修正に応じるだろう。もし状況が変われば、私たちは戦略を調整するだろう。議員たちは別の見解を持っているし、避難の声を上げるだろう。私たちの意見を検討してもらうのは公平なことである。すべての関係者が、彼らが提案する道がどのようにして成功を導くのか説明する責任がある」

「こうした困難な時代に、アメリカはアメリカを守るために進んで前進する私心のない男女を持ったことで祝福されている。アメリカの若者は、イラクにおけるアメリカの使命が高潔で必要なものであると理解している。また、自由を促進することは、私たちの時代の要請であることも理解している。彼らは、家族から遠く離れて軍務に就いている。家族は、孤独な休日と食卓に座る者のいない椅子を前にじっと耐え忍んでいる。家族は、アメリカ軍の兵士が自由を守るために命を捧げているのをみているのである。私たちは、戦死した兵士のために喪に服している。価値ある将来の構築は彼らの犠牲に負っているのである」

1件のコメント »

  1. アメリカの新イラク戦略…

    アメリカの新イラク戦略…

    トラックバック by ehermesの雑感 — 2007年1月12日 @ 15:07

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