中岡望の目からウロコのアメリカ

2005/10/31 月曜日

『安保理常任理事国入りシナリオの蹉跌~米中に無策の外務省の戦略なき外交』

Filed under: - nakaoka @ 5:40

本ブログ(を参照)で、幾度となく国連改革の問題や日本の常任理事国入りの問題を取り上げてきました。日本は、ドイツ、インド、ブラジルと組んで「G4]を結成し、加盟国に働きかけてきました。しかし、9月の総会では決議案を採択にさえ持ち込めませんでした。一体何が問題だったのでしょうか。以前のブログに書いたように、新たに常任理事国になるには総会での3分の2以上の支持と現常任理事国の支持が必要です。しかし、総会のみならず、現常任理事国の中国も反対に回りました。頼みのアメリカも「G4]案に反対を表明。日本の戦略は完全に破綻しました。その理由を以下で分析しました。この原稿は『世界週報』(11月1日号)に掲載したものです。

(リード)
国連安全保障理事会の改革の必要性は衆目の一致するところであった。日本はドイツ、ブラジル、インドと組んでG4を結成、国連加盟国の支持をと付ける多数派工作を展開してきた。しかし、アフリカ同盟の支持を取り付けるのに失敗し、その多数派工作は頓挫した。次の戦略が見えないまま、外務省は常任理事国入りを模索している。しかし、多数派工作の失敗は、アメリカ政府の基本的な姿勢に対する甘い判断と、東アジアでの安全保障を巡る中国との緊張の高まりが原因であった。アメリカ一辺倒の軍事的同盟関係強化を推し進める日本の外交政策に大きな陥穽はないのか。

(小見出し)
なぜ常任理事国入り
戦略が失敗したのか

外務省には苦い思い出がある。それは1978年に日本は国連安全保障理事会の非常任理事国に立候補したが、選挙でバングラディシュに敗北を喫したことである。当時、「国連中心外交」を掲げていた日本にとって、その敗北は屈辱以外何物でもなかった。2005年9月、おそらく外務省は再び同じ苦い思いを噛み締めているであろう。安保理の常任理事国入りは外務省の長年の夢であった。その夢の実現が、極めて厳しい状況に置かれているのである。

国連創設60周年を機に国連改革の機運が高まり、アナン事務総長は国連改革の中核は安全保障理事会の改革にあるとして、昨年、各国の有識者をメンバーとする諮問委員会「ハイレベル・パネル」を設置、安保理の改革の可能性を検討した。同パネルには、日本から緒方貞子氏が委員として参加した。同パネルは、新たに常任理事国を6カ国増やすことを柱とする「オプションA」と、任期4年の準常任理事国の枠を設定するという「オブションB」の2案を示し、不十分ながらも安保理拡大の道筋をつけた。今まで幾度となく安保理改革が提唱されたが、様々な利害の対立を前に実現に至らなかったが、今回、初めて安保理改革が現実味を帯びてきたのである。

誰の目にも現在の安保理が時代の動きに対応できなくなっていることは明らかであった。特に第2次世界大戦の戦勝国である5カ国を常任理事国とし、特権的な拒否権を与えたシステムは、既に加盟国が191カ国を数えるまでに拡大した国連の組織の実態にそぐわないものになっていた。今や国連改革、あるいは安保理改革に原則論として異を唱える者はいない。常任理事国拡大に消極的なアメリカですら「安全保障理事会で途上国の代表を増やすべきである」(ライス国務長官)と、改革の必要性を認めざるを得ない状況が生まれていた。

安保理拡大をテコに国連改革を進めようとするアナン事務総長の動きに呼応して、昨年の国連総会の後、日本は同じく安保理の常任理事国入りを目指すドイツ、インド、ブラジルと「4カ国グループ(G4)」を作り、積極的に常任理事国入りの多数派工作を行ってきた。安保理を拡大するには国連憲章の改正が必要で、そのためには加盟国の3分の2の支持を得なければならない。さらに安保理常任理事国5カ国の承認も必要である。そこでG4が取った戦略は、9月に開催される国連特別首脳会談の前までに加盟国の3分の2の支持を得て、安保理の「枠組み拡大決議案」を成立させるというものであった。加盟国の3分の2の支持を得れば、安保理改革に消極的な常任理事国も説得できるという思惑もあった。

その成否の鍵を握っていたのが、53の国と地域で構成されるアフリカ同盟であった。一時、アフリカ連合はG4の改革案に賛成したと報じられたが、8月に入ると一転して反対に回った。これには、日本とインドの常任理事国入りに反対する中国の働きかけがあったと伝えられている。アフリカ連合の支持を得られないということは、加盟国の3分の2の支持を得られないことを意味する。シナリオが大きく狂ったG4は、決議案の廃案に追い込まれたのである。

(小見出し)
外務省の超楽観的な
情勢分析

以上がこの1年の常任理事国入りをめぐる顛末であるが、同時に、それは恐ろしいほどに外務省の戦略のお粗末さを露呈する結果となった。常任理事国拡大の鍵を握るのは、アメリカと中国であった。北岡伸一国連次席大使は『中央公論』に寄稿した原稿の中で「われわれが決議案を提出して、3分の2の多数が取れそうな展望が見えてくると、中間的な国は勝ち馬現象を起こし、3分の2をはるかに越える多数になる可能性がある」と書いている。しかし、決議案すら提案できになかった事実で、その見通しの甘さは十分に証明されている。
 
さらに問題なのは、アメリカと中国に対する認識の甘さである。9月28日に行われた下院国際関係委員会で行われた公聴会でもボルトン米国連大使は「アメリカは一貫して日本の常任理事国入りを支持している」と発言すると同時に、「アメリカはG4の提案を受け入れることはできない」と証言している。アメリカは基本的に安保理拡大に賛成していないし、さらにドイツを含んだ拡大案は絶対に受け入れることができないのである。9月に町村外相と会談し、日本の常任理事国入りを支持したライス国務長官は、今年の6月に開かれたフィッシャー独外務大臣との共同記者会見の席でライス国務長官は「ドイツの常任理事国入りは賛成しない」と明言している。これは、明確にG4の改革案を受け入れないということを意味していた。アメリカはイラク戦争に反対に回ったドイツを常任理事国として受け入れることはできないのである。
 
また、日本の常任理事国入り支持もアメリカ政府の従来の方針の延線上にあり、今回が特別というわけではない。アメリカ政府が日本の常任理事国入りを最初に公式に支持したのは72年のニクソン政権のロジャーズ国務長官の国連総会での演説である。その後も73年のニクソン・田中共同声明、キッシンジャー国務長官の国連演説、77年のカーター・福田共同声明で日本の常任理事国入り支持が表明されている。しかし、それはあくまで“外交上のリップ・サービス”とみなすべきで、アメリカ政府が具体的に日本のために動いた形跡はない。

北岡氏は「アメリカを日本だけは支持という立場から、一歩進んで、日本を含むパッケージで支持という立場に転換させることがきわめて重要なわけである。それは大変に難しいが、可能性がないわけではない」と書いているが、アメリカの政策を冷静に分析する限り、そうした情勢分析がどこから出てくるのか不可思議である。
中国に対する認識は、さらに甘い。再び北岡氏の論文を引用すれば、「もしアメリカが賛成に回り、残りが中国だけとなれば、10年以上かけて到達した結論を否定することは難しいだろう。中国も日本の協力を必要とする問題がたくさんある。そこで、日中関係に大きな打撃を与える行動をとるとは思いたくない」。しかし、中国の日本の常任理事国入り反対は、そうした情緒的な範囲を超え、極めて戦略的なものなのである。先に触れたようにアフリカ連合が最終的に反対に回ったのも、背後に中国の存在があった。

さらに中国は、日本のみならずインドの常任理事国入りにも難色を示している。モハン・マルキ氏は『ワールド・ポリシー・ジャーナル』誌に寄稿した論文の中で「中国のアジア戦略は拒否権のある常任理事国から日本とインドを排除することである」と指摘している。その一方で中国はドイツとブラジルの常任理事国入りは、両国がアメリカに対する対抗勢力となる可能性があるという立場から賛成している。こうした中国の反対に対抗するためには、日本は中国の勢力の拡大に懸念を抱くアジア諸国の支持を取り付ける必要があった。しかし、韓国を初め多くのアジア諸国は積極的に日本を支持することはなかったのである。少なくとも日本はアジアの利益の代弁者と見られてはいなかったのである。これを外務省の戦略の失敗といわないで、一体何が失敗なのであろうか。

(小見出し)
危ういアメリカ一辺倒の
軍事同盟戦略

日本の安全保障理事会の常任理事国入りは問題、同時に日中米3カ国の東アジアでの安全保障関係を巡る問題とは切り離して考えることはできない。「今後の中国のさらなる台頭に対して、日本が安保理に安定した地位を占めているかどうかは、重要なことである」(北岡氏)とするなら、なおさら日米中の安全保障問題を抜きに日本の常任理事国入りを議論することはできないはずである。

小泉政権になってから日中関係は悪化の一途を辿ってきた。そうした緊張関係が、日本の常任理事国入りの問題に影を落としていることは間違いない。また、日中関係は日米の安全保障政策の影響を強く受けている。冷戦の終結や、クリントン政権の中国との“戦略的パートナーシップ”政策で米中関係が接近する中で、日米関係が後退する局面も見られた。しかし、中国の軍事力の増強を背景に、93年の朝鮮半島での緊張、96年の台湾海峡を挟んで中国が軍事演習、98年の北朝鮮のミサイル発射といった一連の事件で、日米は軍事的同盟関係を急速に強め、日本は防衛計画の見直しを進めていくことになる。97年の日米防衛協力の「新ガイドライン」で初めて周辺地域における事態に対する日米軍事協力が盛り込まれた。

要するに「日本はアメリカとの同盟関係を強化することで増大する中国の軍事力に対抗するする道を選んだのである」(ダン・ブルメンソール論文)。さらに北朝鮮を巡る6カ国協議の場で日本はなんら外交カードを持っていないことを露呈し、朝鮮半島政策でもアメリカに依存せざるを得ない状況に置かれていることが明らかになった。

明確な対中外交戦略のないまま日米軍事同盟を強化する中で、日中間の緊張はさらに強まっている。そうした中で日本の安全保障理事会の常任理事国入りが出てきたのである。外務省は、こうした東アジアの安全保障の状況を考慮にいれた戦略を構築することなく、楽観的な見通しに立って安保理常任理事国入りを果たそうとしたのである。すなわち常任理事国入りにはアメリカの具体的な支援と中国の同意は不可欠であったにもかかわらず、外務省は多数派工作で状況を打破できると考えていた。そして案の定、中国の反対でG4の戦略は挫折することになった。

しかし、中国を共通の脅威とする日米関係もまた脆弱なものであることを理解しておく必要がある。『フォリン・アフェアーズ』誌の9月/10月号は中国特集を組んでいる。Zheng Bijian(鄭必竪)中国改革フォーラム議長は、経済発展を重視し、50年で中国を「中進国」にするという高度成長計画を掲げ、「中国は覇権を求めていない」と、平和裏に大国の地位を確保すると述べている。さらに、中国は東アジア共同体の形成に貢献しており、アメリカをその過程から除外することは中国の利益にそぐわないと指摘、柔軟な対米政策を提案している。さらに北京大学のWang Jisi(王緝思)教授も「ワシントンは北京を主な安全保障上の脅威とみることはないだろうし、中国もアメリカに敵対することはない」と、米中対話路線の必要性を説いている。

ゼーリック国務副長官は9月21日にニューヨークで開かれた米中関係全国委員会で『フォリン・アフェアーズ』誌の論文に触れながら、「アメリカは自信に満ち、平和的で、繁栄を遂げた中国を歓迎する」と語り、中国の対話路線の提案を積極的に評価している。さらに同副長官は「アメリカのソビエト政策は封じ込め政策であったが、中国政策は中国を(国際社会に)引き出す政策である」とし、多くの国際問題で米中の協力が行われていることを指摘。台湾問題についても「アメリカの一つの中国政策は変わらない」と明確に語っている。そこには日中関係に見られるような緊張感はなく、大国としての外交ゲームを展開する余裕を示している。アメリカの対中国政策は、軍事的な安全保障戦略と同時に外交戦略も着実に展開しているのである。

これに対して日本は、外交戦略のないままに一方的に軍事的安全保障戦略に傾斜した政策を展開している。過去の例からいえば、“ニクソン・ショック”に代表されるように、アメリカの対中国政策は大きく揺れる可能性を含んでいる。外交戦略を欠く対米一辺倒の軍事的安全保障戦略は、今回の国連安保理常任理事国問題に見られるように、日本の外交政策を歪なものにしているのである。最近では中国と韓国が急速に接近しており、6カ国協議の中でも日米が孤立する局面も見られた。日本も柔軟な外交戦略が必要とされているにもかかわらず、それに十分対応でできていないのが現実である。

<参考資料>
・北岡伸一「常任理事国入りは日本の果たすべき責任である」(『中央公論』2005年1月号)
・添谷芳秀『日本の「ミドルパワー」外交』(2005年、ちくま新書)
・Dan Blumenthal, “The Revival of the U.S.-Japanese Alliance,” Asian Outlook, Feb-Mar 2005, American Enterprise Institute,
・J. Mohan Malik, “Security Council Reform: China Signals Its Veto”, World Policy Journal, Spring 2005
・Zheng Bijian, “Peacefully Rising” to Great-Power Status, Foreign Affairs, Sept/Oct 2005
・Robert Zoellick, “Whither China: From Membership to Responsibility?”, Remarks to National Committee on U.S.-China Relations, Sept, 21, 2005

2件のコメント

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