中岡望の目からウロコのアメリカ

2006/10/30 月曜日

米中間選挙、直前予想:『週刊エコノミスト』への寄稿

Filed under: - nakaoka @ 13:55

アメリカの中間選挙(11月7日)まで1週間となりました。様々な世論調査が、今回の選挙で民主党が下院で過半数を制するとの結果を発表しています。選挙予想は水物で、予想外の結果が出てくるかもしれません。ブッシュ大統領の副首席補佐官のカール・ローブは土壇場(英語では土壇場のことを”11th-Hour”といいます)で選挙の劣勢を跳ね返すために「3本の柱からなる奇策」を考えているとの報道もあります(LA Times、10月29日)が、残り一週間でどれだけの効果があるのか分かりません。なおカール・ローブについては本ブログ(大統領を作った男)で詳細に分析しています。1994年の選挙で両院の過半数を占め、2004年の選挙で大勝した共和党が大きく後退しそうです(04年の選挙分析もブログ:米大統領選挙レポートにあります)。今回の選挙は、アメリカの政治の大きな転換点を示すことになる可能性もあります。アップした記事は10月23日発売の『週刊エコノミスト』(10月30日号)に寄稿したものです。原稿は10月16日執筆ですが、基本的な流れは変わっていません。また、中間選挙分析は『世界週報』に8月中旬に書きました(9月10日にブログ掲載)。それとの比較で読んでいただけると、もっと立体的に中間選挙の状況と意味を理解できると思います。11月3日段階での最新予想も掲載

民主党の歴史的な勝利なるか

米中間選挙の投票日は11月7日と約2週間後に迫っている。大統領選挙と同時に行われる総選挙とは違い、中間選挙は全国的な政策よりも地域的な問題を巡って運動が展開される傾向が強い。しかし、民主党は今回の中間選挙をブッシュ大統領に対する信任投票と位置づけ、激しい選挙運動を展開している。

 下院の定数は435議席で全員改選される。過半数は218議席である。04年の選挙で共和党は233議席、民主党は206議席を獲得している。また上院の定数は100議席、今回は33議席(共和党15議席、民主党18議席)が改選される。非改選は共和党が40議席、民主党が27議席である。民主党が今回の選挙で6議席増やせば、非改選を合わせて上院の過半数を制することになる。

「ニューヨーク・タイムズ」紙の最新の予想では、下院は民主党が固めた選挙区は191、優位に選挙戦を進めている選挙区は19あるのに対して、共和党が固めた選挙区は187、優位に展開している選挙区は22、見通しが立たない激戦区は16選挙区である。上院は非改選を含めて民主党が確保した議席は40、優位に展開している選挙区が7であるのに対して、共和党は47議席を確保、優位な展開をしている選挙区は2で、激戦区は4である。したがって、激戦区の動向次第では、どちらに転ぶかまだ分からない逼迫した状況にある。どちらが勝利するにしても、僅差の結果になりそうである。

ただ10月に入ってからの情勢は民主党に一段と有利な風が吹き始めている。10月8日のABCの報道番組「ジス・ウィーク」でクリントン大統領の補佐官であった同番組のキャスターのステファノパウロスは「この選挙で民主党が勝てなければ、議員たちは何か他の仕事を探したほうがいい」と語るほど、民主党は追い風を受けているのである。

もし世論調査の結果通りになれば、米国の政治は大きく転換する可能性がある。戦後、議会は長期にわたって民主党支配の時代が続いた。レーガン政権の一時期に共和党が上院の過半数を占めたことがあるが、それ以外は民主党が常に両院で多数派であった。しかし米国社会の保守化傾向を背景に81年にレーガン政権が誕生。同大統領は自分が保守主義者であると名乗った最初の大統領で、同政権の誕生は“レーガン革命”と呼ばれた。90年代に入って民主党のクリントン政権が誕生したものの、米国の保守化に歯止めがかかることはなかった。そして94年の中間選挙でギングリッチ下院議員が率いる共和党が「アメリカとの契約」を政策綱領に掲げ下院と上院で過半数議席を獲得したのである。94年以降、民主党は議会でずっと少数派の地位に甘んじてきた。

民主党はイラク問題で攻勢

今回の選挙情勢は、94年の共和党勝利の時と極めて類似している。ブッシュ大統領はイラク戦争の影響で低支持率に甘んじている。共和党も様々なスキャンダルに直面し、12年間にわたる共和党支配の中で保守主義の情熱が後退し、保守革命のスローガンも色褪せてしまっている。そうした状況の下で民主党に絶好のチャンスが巡ってきた。10月5日から8日にかけて行われたABCニュースとワシントン・ポスト紙の調査では、回答者のうち54%が民主党を信頼すると答え、共和党を信頼するという回答は35%に留まった。また54%の回答者が民主党候補に投票すると答え、共和党候補に投票すると答えたのは41%に過ぎない。

共和党の低迷の大きな要因の一つは、ブッシュ大統領の不人気にある。同大統領の支持率は5月に33%と最低を記録した後、徐々に持ち直し9月には42%とボーダーラインといわれる40%台を回復したものの、10月に入ると再び39%にまで低下している。特にブッシュ政権のイラン政策の支持率はわずか35%、不支持率は64%に達しており、63%が「イラク戦争は戦う価値がない」と答えている。ブッシュ政権の強みと見られていた強硬なテロ対策も支持率は53%と、かろうじて過半数を確保している状況である。他の調査でも同様な結果が出ている。

有権者の最大の関心事はイラク問題であるが、具体的な政策となると意見が割れている。ABCニュースとワシントン・ポスト紙の調査では「即時撤兵」と答えた比率は20%にすぎず、半数以上が「徐々に派兵数を減らしていくべきだ」と答えている。イラク戦争を始めたのは間違いであったが、即時撤兵は非現実的というのが多くの有権者の共通した意識である。これは民主党がイラク問題で有権者をまとめ切れていないことを意味しているのかもしれない。

それは8月に行われたコネチカット州の民主党上院議員候補の予備選挙の経緯にはっきり読み取れる。予備選挙では、イラク戦争強硬派の現職上院議員リーバーマンが、即時撤退を求める反戦リベラル派の支持を得たラモント候補に負ける番狂わせがあった。その際、反戦リベラル派の影響が各選挙区に蔓延するかと予想されたが、民主党支持派の多数は「段階的撤兵」に傾いており、反戦リベラル派の動きが全国的な広がりを見せるには至っていない。逆にリーバーマン議員は無所属で立候補しており、ラモント候補よりも優位に選挙運動を展開している。それは、イラク問題でブッシュ大統領の信任を問うという民主党の戦略も民主党支持者が「イラク戦争継続派」から「段階的撤退派」「即時撤退派」に分裂していることで、思ったほどの効果を発揮していない。

スキャンダルが共和党の致命傷

では、イラク戦争、ブッシュ大統領の不人気以外に共和党を苦境に追い込んでいる要因は何か。まず議会に対する不満の高まりがある。ABCニュースとワシントン・ポスト紙の調査では、議会の活動を評価する比率は32%と、この10年で最低の水準にまで落ち込んでいる。その批判の矛先は与党で多数派の共和党に向けられている。年金問題、健康保険問題、財政赤字問題など重要な課題が山積するなか、共和党議会は有効な手立てを講ずることができなかった。共和党に対する不満から、世論調査では、共和党に対する不満から、重要な政策の処理は民主党に委ねたほうが良いという回答が、共和党を上回るまでになっている。

共和党に対する不満が鬱積しているところに同党議員絡みのスキャンダルが相次いだことも同党にとって大きな打撃となった。贈収賄でカニングハム下院議員逮捕、選挙資金違反で元下院院内総務のディレイ議員逮捕、買収容疑でナイ下院議員が有罪を認めるなど汚職事件が相次いだところに、決定的ともいえるフォーリー下院議員の少年に対するセックス・スキャンダルが発覚し、共和党に最後の鉄槌が下された格好になっている。

同議員のスキャンダルに加えハスタート下院議長やボーナー下院院内総務、レイノルズ下院選挙委員長など共和党首脳が党利党略からフォーリー・スキャンダルを事前に知っていたのにもみ消しにかかったとの疑惑が浮上し、有権者の共和党に対する信任が一気に崩れ始めた。首脳が責任転嫁を図るなどの醜態をさらしていることも、さらに有権者の失望を買う事態を招いている。

スキャンダルで選挙終盤になっても共和党の選挙責任者が候補者を支援する活動を行えない異状な事態が起こっている。また過去3度の選挙で共和党の勝利を導いたブッシュ大統領の次席補佐官ローブも、ロビイストのアブラモフに対する政府の仕事の発注で便宜を図ったというスキャンダルに巻き込まれ、以前ほど活発に選挙運動を行えない事態にある。彼は、02年の中間選挙では連続テロ事件を争点にして“強い共和党”をアピールして同党を飛躍させ、さらに04年の選挙ではエバンジェリカルと呼ばれる保守派のキリスト教徒を大領動員してブッシュ大統領の圧勝を演出し、同時に共和党の両院支配をより強固なものにした。その功績から彼はブッシュ大統領から“アーキテクト(創造主)”という最大限の賞賛を得ている。ローブが前面に立って戦略を立てられない状況は、共和党にとって大きなマイナスとなっていることは否めない。

選挙では“オクトーバー・サプライズ”というのがある。ブッシュ大統領は連続テロ事件を再び喚起し、“テロとの戦い”での成果を誇ることで状況の打開を図ろうとした。それは一時的にブッシュ大統領の支持率上昇に結びついたが、フォーリー・スキャンダルですっかり影が薄くなってしまった。今までのように単に“強い大統領”を訴えかけるだけでは、もはや国民の支持を得られなりつつある。

裏切られた保守主義の理念

さらに問題なのは、共和党の支持基盤が崩れ始めている兆候が見られることだ。過去3回の選挙で共和党勝利の最大の要因は、エバンジェリカルの大量動員に成功したことである。ローブは、04年の選挙では同性婚を選挙の争点にすることで従来民主党支持層であったカトリック教徒が多いヒスパニックの支持を獲得、また子供たちを守る強い大統領をアピールすることで女性や母親票を大幅に増やし、ブッシュ大統領と共和党を大勝に導いた。

現在の米国政治では、宗教的な保守層をいかに掘り起こすかが選挙での勝利の鍵を握っているといって過言ではない。民間の調査会社ピュー・リサーチ・センターの調査では、04年の選挙では数千万人いるといわれるエバンジェリカルの78%が共和党に投票しているが、今回の選挙では共和党に投票すると答えた比率は57%にまで大幅に落ち込んでいる。今まで共和党は道徳や家族の価値を語ることでエバンジェリカルの支持を得てきたが、セックス・スキャンダルという最大の汚点で彼らの支持を失いつつある。宗教的な保守層は、棄権に回る可能性が強い。そうなれば、結果的に民主党を利することになる。一部のエバンジェリカルは「スキャンダルは個人の問題で共和党に対する支持は基本的に変わらない」と語っているが、多くの宗教的な保守グループが共和党に幻滅を抱き始めているのも事実である。また、史上最大の財政赤字を計上したことで財政均衡や小さな政府を主張する経済的保守派からも、ブッシュ政権と共和党は見放されつつある。ブッシュ政権と共和党は、保守派が掲げている政策をことごとく裏切っているのである。

代替案を出せない民主党

では、追い風を背に民主党が圧勝するかというと、必ずしもそうとは言い切れない。ニューヨーク・タイムズ紙の予測から分かるように、どっちに転んでも両党の獲得議席数の差はわずかである。しかも民主党が優勢に選挙運動を展開しているのは、民主党の自らの力によるというより、ブッシュ政権と共和党の失策とスキャンダルに助けられたところが大きい。民主党が保守派の掲げる政策に対抗するだけの魅力的な政策を提出し、米国の保守化に歯止めをかける状況ではない。中間選挙では政策綱領を発表することはないが、民主党は6月に「アメリカの新しい方向」、7月に「06年に向けた6つの課題」、そして9月に「ザ・ブック」と題する政策を発表している。しかし、それはほとんど話題にさえならず、掲げられている政策も有権者を奮い立たせるようなものではない。

民主党選挙委員会のエマニュエル委員長とクリントン政権を誕生させたデモクラティク・リーダーシップ・カウンセルのリード会長は近著『ザ・プラン』の中で次のように述べている。「ルーズベルトからクリントンに至る民主党は中産階級の生活を改善することで支持を得てきた。中産階級の支持なくして選挙には勝てない。民主党は白人男性とエバンジェリカルの支持を失ってきたが、それは驚くことではない。しかし、04年の選挙では白人女性、既婚者で子持ちの家族、高卒や大卒、30歳以上の有権者までも失ってしまった。民主党の支持基盤は、高校中退者と博士号を持っている人だけである」。

共和党は、その傲慢さゆえに自壊のプロセスにあるように見える。しかし、民主党は保守派の政策を超える何か新しい政策を提案し、中産階級の支持を獲得しつつあるかというと、大きな疑問符が残る。民主党がかつての支持基盤を取り戻すには、新しい理念を提出する必要があるが、まだ民主党にはその準備ができているとはいえない。

ただ、民主党が議会の両院あるいは一院で過半数を獲得できれば、民主党は08年の大統領選挙と党の再生に向けて大きな一歩を踏み出せることは確かである。民主党が過半数を確保できなければ、共和党の議会支配は今度長期にわたって続くことは間違いないだろう。

11月3日記:選挙は11月7日で、残された日はわずかです。『コングレッショナル・クオータリー』の最新予想は以下の通りです
下院:共和党確保の選挙区:160、共和党が有利な選挙区:25、共和党がリードしている選挙区:22
    民主党確保の選挙区:182 民主党が有利な選挙区:17、民主党がリードしている選挙区:11
    結果が分からない激戦区:18
    (過半数は218議席)
上院:非改選を含めた予想議席:共和党49議席、民主党48議席、激戦区:3議席
   改選数は33議席(総議席数100議席、過半数50議席)
   共和党が確保した選挙区:7、共和党有利の選挙区:1、共和党リードの選挙区:1
   民主党が確保した選挙区:9、民主党有利の選挙区:5、民主党リードの選挙区:7
   結果が分からない激戦区:3

情勢次第では、民主党が両院で過半数を占める可能性も残されています。

PS:
ネオコンの代表的論者のウィリアム・クリストル『ウィークリー・スタンダード』誌の編集長は、上院は民主党が52議席、共和党が48議席、下院は民主党が243議席、共和党が192議席と、両院とも民主党が多数を占めると予想しています。保守派が非常に厳しい見方をしているのが注目されます。

そんな中、今朝、メールが入りました。バージニア州上院選挙で立候補しているジョージ・アレン上院議員(共和党)の選挙本部からです。参考のために転載します。

The future of the U.S. Senate, and perhaps the future of America, depends on what happens in Virginia. Sen. George Allen, a true-blue Reagan conservative, is locked in one of the tightest races in the country. The liberal media and the Democrat party have used every dirty trick, every smear to defeat George Allen. The reason: they know if they defeat Allen in Virginia, the Democrats will almost certainly get control of the U.S. Senate. Hillary Clinton, John Kerry and the far-left in the Democratic party are pouring millions behind Allen’s opponent, Jim Webb, in a last ditch effort to defeat George Allen. Polls show Allen still has the lead and can win this coming Tuesday. But George Allen needs your help. Remember, the Virginia Senate contest is the #1 race in the country. You can make a difference by helping Sen. George Allen. The election is just days away, but a donation by credit card can still help George Allen buy TV commercials in crucial markets.

(アメリカの上院の将来と、おそらくアメリカの将来はバージニア州の上院選挙の結果にかかっています。ジョージ・アレン上院議員は正統派のレーガン・リパブリカン(レーガン大統領の流れを汲む正統派共和党員)で、今回の選挙の最激戦区の1つで戦っています。リベラル派のメディアや民主党は、ジョージ・アレンを負かすために、ありとあらゆる汚い手法を駆使し、彼を中傷しています。その理由は、もしバージニア州でアレンを敗北に追い込めば、民主党が間違いなく上院の過半数を制することになることを知っているからです。ヒラリー・クリントン上院議員、ジョン・ケリー上院議員(前回の大統領選挙の民主党候補)、民主党左派は、必死になってジョージ・アレンを敗北させるために対立候補のジム・ウエブに何百万ドルもの資金を注ぎ込んでいます。世論調査では、アレンが依然としてリードし、火曜日の選挙では勝利するという結果が出ています。しかし、ジョージ・アレンは皆様の助けが必要です。バージニア州上院選挙は最も過酷な選挙であることを忘れないでください。アレン上院議員を助けることで、アメリカに貢献することができるのです。選挙は数日後に迫っています。皆さんがクレジット・カードでの政治献金をすることで、ジョージ・アレン議員が重要な選挙区でテレビのコマーシャルを流すことができるのです)

5件のコメント »

  1. 11/7は米中間選挙の投票日
     CNNの今日のお昼のジャック・キャファティファイルという番組では、「壊れた政府」という刺激的な表題で、米国の連邦議会の腐敗を憤り、既成の議員をみんな叩き出せ、というキャン…

    トラックバック by 温暖化いろいろ — 2006年10月30日 @ 22:05

  2. Barack Obama (バラク オバマ議員)
    6年くらい前にアメリカのテレビで演説をしているところをちょっと見ただけであるが、強烈にインパクトがあったのがBarack Obama。 
    当時、まだ30代後半で、イリノイ州の議員で下院に民…

    トラックバック by communication 101 — 2006年11月1日 @ 22:12

  3. 細かい点ですが,上院での50対50は副大統領(上院議長)の一票のために共和党の過半数確保となることにも留意すべきでしょう.

    コメント by 名無し院生 — 2006年11月4日 @ 16:20

  4. 今朝のニュースでは、民主党の攻勢が伝えられていますね。沖縄には先週、フランクリン・グラハム牧師がやってきました。中間選挙の結果は、19日の沖縄県知事選にも微妙に影響しそうです。

    コメント by NIK — 2006年11月8日 @ 12:40

  5. この記事とても参考になりました。

    コメント by エクステ専門店 池袋 — 2008年10月28日 @ 20:25

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