中岡望の目からウロコのアメリカ

2007/2/8 木曜日

ネオコンが描くイラク戦争勝利のシナリオ:”Choosing Victory: A Plan for Success in Iraq”ーブッシュ大統領の新イラク戦略の種本か?

Filed under: - nakaoka @ 17:37

ブッシュ大統領の新イラク政策がどうなるか、注目されています。米議会は新戦略にもとすく増派に反対の意向をしめしています。ただ、両院とも決議案を採択するにしても、それは拘束力のないもので、実際に増派を阻止できるかどうか分かりません。また、予算を削減あるいは承認しないことで、増派を阻止したり、撤退を促す主張もあります。しかし、実際に戦場で戦っている兵士を見殺しにできるのかという意見もあり、イラク戦争反対論も微妙な立場にあります。もちろん、反戦リベラル派は即時撤退を主張しています。今までのブログで、当初からネオコンはもっと多くの兵を送り込んでおけば、ここまで事態は悪化しなかったと主張していました。ネオコンは、まだイラク戦争に勝てるとの主張をしています。今回はフレデリック・ケーガン(Frederick Kagan)がまとめたレポート『Choosing Victory: A Plan for Success in Iraq Phase I Report』を紹介します。このレポートはブッシュ大統領が新イラク戦略を発表する前の1月4日に発表されたもので、一見すると、まるでブッシュ大統領の新イラク政策の“種本”(以前のブログ参照)のような感じがします。また、超党派グループのイラン研究グループの報告書も読んでみてください。原文は以前に入手し、できるだけ早くご紹介したかったのですが、時間がなく、やっとブログにアップできるようになりました。アメリカ軍の掃討戦略が既に始まっています。ここに紹介したシナリオをじっくり読んでみるのは価値があると思います。

ケーガン一家はネオコン一家です。父親のドナルド・ケーガン(Ronald Kagan)はユダヤ人で、古代ギリシャ史の研究家です。ネオコンの創始者といわれるアービング・クリストルと同様にニューヨークのブルックリンで育ち、ブルックリン・カレッジを卒業、ブラウン大学で修士号、オハイオ州立大学で博士号を授与されています。第一世代ネオコンと同様に、彼も民主党リベラル派でしたが、その後ネオコンに転向しています。1997年にウィリアム・クリストル(William Kristol:アービング・クリストルの息子)らとネオコンのシンクタンク「Project for New American Century」の設立に加わっています。彼は現在、エール大学で歴史を教えています。彼の息子は二人いて、一人はロバート・ケーガン(Robert Kagan)で、もう一人がフレデリック・ケーガン(Frederick Kagan)です。ロバートは1958年生まれで、ネオコン第二世代を代表する人物です。リーダー格は「The Weekly Standard」の編集長をしているウィリアム・クリストルです。ロバートはハーバード大学ケネディ政治大学院で修士号、アメリカン大学で博士号を取得しています。現在、カーネギー平和財団のシニア・アソシエートです。著作に「Of Paradise and Power」があります。近著では「Dangerous Nation」があります。

さて、今回のレポートを書いたフレデリック・ケーガンは、保守派のシンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ・インスティチュート(American Enterprise Institute: AEI)に所属するresident scholarです。元ウエスト・ポイントと呼ばれる陸軍士官学校の軍事史の教授でした。今回紹介する「Choosing Victory: A Plan for Success in Iraq Phase I Report」はAEIの「Iraq Planning Group」がまとめたものです。この「イラン計画グループ」は、12月にブッシュ大統領にイラク戦略に関する勧告(その内容は以前のブログに書いているので、参照ください)を提出した超党派グループ「イラク研究グループ」に対抗するものでしょう。この「イラク計画グループ」は、AEIの中核グループと外部の学者によって構成され、イラク問題に対する包括的な解決策を提案することを目的にしています。それは単に軍事的な政策に留まらず、経済的、政治的、宗教的、社会的な問題を対象としています。

同グループは、次のような戦略を提案しています、まずPhase I (第一段階)として、バグダッドの軍事的、経済的安定を確保する政策を分析し、治安が悪化しているために復興計画などが進捗しないとの考え方から、計画の最優先事項として治安維持に焦点を当てています。Phase Iのレポートは12月14日に発表されています。Phase II(第二段階)の政策として、①イラク警察の訓練、②イラク軍の訓練、③法律の制定、④イラク政府の制度的枠組みの確立、⑤再建、⑥以上の目的を達成するためにアメリカ非軍事的な手段の動員と使用の実施が掲げられています。

以下、レポートの翻訳です

勝利は可能である
 アメリカの地上兵力110万人、うちイラクに14万人駐留
 アメリカはボスニア、コソボで人種的・宗教的対立を封じ込めた経験があり、同じことをイラクでもできるはずである
 アメリカの資源は十分にある。3億の人口、12兆ドルのGDP。これに対してイラクの人口は2500万人、GDPは1000億ドルで、規模はカリフォルニア州に匹敵する
 イラクで成功するためには努力と意志が必要である。敗北を選ぶ必要はない

勝利は重要である
 アメリカはアメリカ重要な国益を守るためにイラクで勝利しなければならない
 イラクでの失敗は次のような結果を招く
・ 地域紛争の拡大
・ 人的な悲劇
・ テロリストの聖域
・ イスラム世界の過激化
・ 国際的なアメリカに対する信頼の喪失
・ アメリカ軍のモラールへのダメージ

イラクは重要な転換点にある 政治的手段だけでは内戦と暴力を阻止することはできなかった
 イラクの治安軍(Iraqi Security Forces)に平和を確立する負担を委ねる政策は失敗した
 戦争を継続するというアメリカの意志は揺らいでいる
 イラクの宗派間対立の拡大が政府と治安軍の基盤を損なっている
 暴力を迅速に封じ込めることができなければ、政治と治安軍は破壊されるだろう

治安維持を最優先
 人々の安全を維持するためには以下のことが前提となる
・ 内乱と宗派間の殺戮を終わらせること
・ 国民的な和解の達成
・ 均衡の取れたイラク軍兵士の確保
・ 治安軍の効果的な訓練
・ 経済発展と再建
・ 自由で効果的なイラク政府の樹立
・ イラク民兵組織の武装解除と解散、再統合

● 再建は治安の確保が伴わなければならない
● 本プロジェクトの他の段階でイラク軍と警察の訓練、経済、政治問題の取り組む

提案:治安確保を通した勝利● 最終的な状況は自由で治安が維持されるイラク
● イラクへの派遣軍の許容できる増派
・ 2007年秋までにバグダッドの治安を確保
・ イラクの将来の政策の選択肢を作成

勝利は可能である
● 成功と義勇軍は両立する(やや変な日本語で意味不明ですが、英語はSuccess is compatible with volunteer military)
● 提案は陸軍あるいは海兵隊の役割を低下させるものではない(Proposal will not break the Army or the Marine)
● 1年以内で劇的な改善をもたらすことができる
● 敵対する体制と受容不可能な交渉をする必要はない
● 独自の軍隊で平和を維持することができる自由で安全なイラクを作り上げることになる

他の政策は失敗する
● 急激な撤兵はイラク軍の崩壊の引き金となり、暴力と地域の混乱が劇的かつ即座に高まる
● イランとシリアはイラクでの暴力を支援しているが、イラクを支配していない
● イランとシリアとの交渉は暴力を止めさせることにはならない
● イラク軍の訓練にはあまりにも長い時間がかかるーイラク軍のコントロール能力を超えて暴力が加速度的に増大する
● 移行は同時にイラクの治安能力を高め、宗派間の暴力を沈静化させ、イラク軍がコントロールできるようにする必要がある。

新政策は成功する
● 私たちは、バグダッドの人々の安全を守るためにあらゆる努力をしなければならない
● バグダッドは現在対立の中心となっている
● 私たちは、バグダッドでの治安を改善するために即座に行動を取らなければならない
● 戦略はイラクの訓練から治安回復に変更すべきであるーこれがアメリカの重要な利益にかなう
● 政治的解決策には、こうした努力が伴わなければならない。しかし、治安確保はイラク情勢の前向きな展開にとって前提条件である

注意事項
● 治安確保の提案は1つの例であって、作戦計画ではない
● 提案は、現在のイラク情勢に関する公開情報に基づいたものである
● 目的は、治安確保が現在利用できる手段で達成可能なことを示すことである
● 軍の責任者は現地の状況の変化に応じて戦略を修正するものである
● 部隊の数とタイムラインはおおよそのものである

A Course of Action

段階別作戦
● 第1段階:配置(3月までに完了)
● 第2段階:準備(6月までに完了)
● 第3段階:重要な地域を掃討(9月までに完了)
● 第4段階:掃討地域の確保と同地域のイラク管理への移行

敵の反応:第1段階
【最もありえる状況】対抗情報活動(誤訳かもしれませんが、英語はcounter IO efforts)
【最も危険な状況】宗派間の粛清がさらに深刻化し、過激派が宗派地域を要塞化する
【対抗策】すべてのバグダッドの市民を守る治安活動が進行中であるという明確なメッセージを流す。バグダッドの民間治安組織を強化する

第2段階:孤立させる
【最もありえる状況】過激派がさらに自爆攻撃と民間人殺戮を強化して、勢力を“増大”する。一部の軍人は安全な地域に撤退するか、完全にバグダッドから逃げ出してしまうかもしれない。すべての軍事グループはイラク警察とイラク軍に浸透し続ける。
【最も危険な状況】アメリカ軍が効果的な治安対策を講じる能力を持つ前に過激派の細胞が暴力と脅迫を強める。政府の能力と治安確保に対する希望が失われる。民間人に対する極端な暴力が加えられ、何万というバグダッドの市民が周辺地域に追いやられる。
【対策】既存の(警察と軍隊)部隊がバグダッドで注目されていない地域でのパトロールを強化する。国家と国民に対して、被害の増大は敵の行動によるものであるが、私たちは敵と戦っていると伝える。避難民に対する人道的な支援を行なう準備をする。

第3段階:掃討
【最もありうる状況】過激派が自爆攻撃と民間人に対する殺戮を強化し、勢力を“増大”する。穏健派は攻撃を市民に対する暴力を止める。掃討された地域内に留まっている武力勢力だけが連合軍とイラク軍と対峙する。
【最も危険な状況】過激化した武装グループが連合軍とイラク軍に対して暴力的に攻撃を集中する(ベトナム戦争の時の“テト攻撃”を想起せよ)。多数の連合軍の勢力が存在しているが治安が確保されていない過激派と民間人が混在する地域は、爆弾と殺戮によって大量に人的被害が発生する地域となる。イラクの治安軍は腐敗する。他のイラクの都市においても、大規模な攻撃が行なわれる。敵は政府高官を暗殺するか、象徴的な宗教施設を破壊する。
【対策】急速かつ徹底した掃討活動を行ない、各掃討地域に強力な部隊を残して、敵と戦う。重要なターゲットの保護を強める。

第4段階:確保と建設
【最もありうる状況】攻撃の対象は一般大衆に向かうだろう。それは容易に阻止することはできない。特にVBIED(車両運搬式即席爆破装置)を使ったり、自爆という形で攻撃が行なわれたら阻止できないだろう。バグダッドでの攻撃能力が低下していることで、過激派はイラクの他の地域の攻撃しやすい目標(ソフト・ターゲット)や、バグダッドで治安が確保されてない地域で攻撃を仕掛けるだろう。
【最も危険な状況】反乱分子は、治安が確保された地域に焦点を当て、治安活動が始まる前よりも被害のレベルが高まるかもしれない。他のイラクの主要都市地域で迂回攻撃を行なってバグダッドの治安維持活動を低下させようと試みるだろう。
【対策】掃討地域で地下にもぐった反乱細胞を根こそぎするために地域での諜報活動の展開を強化する。掃討地区でのイラク治安軍と同盟軍の保護対策を改善する。攻撃を排除するために全軍で掃討地域でのパトロール活動を積極的に行なう。必要であれば、掃討地域あるいはバグダッドの他の地域、それ以外の地域で問題に取り組むために予備軍を活用する。

再建計画
 再建は、イラクの人々を安定化させ、守るためには必須である。
 再建は、地域の掃討とその後の確保戦略によって生じる混乱を埋め合わせるものである。
 再建は、将来の協力にとって大きな誘引となる。
 再建は、イラク政府が全面に立って行なわれなければならない。しかし、アメリカと国際的な監視者は割り当てられた資金が適切に配分されているかどうかを確かめるために、資金の使途を監督しなければならない。

【再建:第一段階】
 すべての掃討作戦は一組の十分に資金の裏づけのある再建パッケージと一緒でなければならない。
 基本的な市民サービスすなわち下水と上水、電気、ごみ処理などのサービスを即座に回復する。
 司令官に資金を配分し、再建計画の執行を監視する権限を付与すべきである。その権限はアメリカのしかるべき政府機関によって与えられる。

【再建:第二段階】
 アメリカは、イラクが引き続き米軍との協力関係を維持し、治安維持を行なうようなインセンティブを与えなければならない。
 資金は、協力する地域の人々の生活水準を大きく改善するような再建を行うために別途確保すべきである。
 アメリカは、イラクおよびイラクの隣国から撤退する同盟国から資金を集めるべきである。しかし、もし資金を得ることができなければ、アメリカが提供すべきである。
 さらに大きな再建を行なったとしても、戦闘の継続と比べれば安くつく。

再建は必須である
 アメリカは、イラクに対する再建支援を増やすべきである。
- 司令官の緊急対応プログラムに対する資金供与は高水準であるべき
- 再建パッケージは、すべての掃討地域の住民を対象にすべきである
- 軍の司令官は、再建資金を配分する権限と、再建プログラムの執行を監視する権限を与えられるべきである
- 大統領は、全ての関係機関が指定された再建業務を実行するように要請すべきである

アメリカは戦争を行なっている
 戦争で勝利するためには、国家的なコミットメントが必要である
 一部の軍の部隊は、より長期間にわたって配置されるべきである
 一部の州兵は計画よりも早く再度配置されるかもしれない
 装備は非配属部隊や予備役部隊、州兵の部隊からから借りるべきである
 装備の不足を補うために軍事会社を動員すべきである
 人ではなく、装置が急速な配備を進める要因である、しかし、陸軍の倉庫は半分しか埋まっていない

地上軍を増強しなければならない
 大統領は、任務についている地上軍の大幅な増強を要請すべきである
- 今後2年、少なくとも毎年3万人の増員を行なうべきである
- イラクにおける地上軍に対してかかっている要求の増大を補完することが重要である
- イラク以外で多くのシナリオの戦略的なオプションを与えることが重要である
- 増派は恒久的でなければならない
- 大統領は、若いアメリカ人に危機に瀕する国家を守るために自発的に軍に参加するように要請すべきである

勝利に代わるものはない
 撤退によって苦しみは終わらない
- 撤退しても、地域的な波及効果のためにアメリカは引き続き関与しなければなくなるだろう
- 撤退しても、今後数年以内に、アメリカはもっと悪い条件で数年以内に再度関与しなければならなくなるだろう
- “適当なインターバル(decent interval)”などというものは存在しない。撤退は暴力と残忍な行為が増大する真っ只中で行なわれることになるだろう

勝利には国際的な協力を復活させることが必要である
 勝利は、イランとシリアに対する交渉力を高めることになる
 勝利は、アメリカが弱く、非現実的であるという見方を覆すことになる
 勝利は、アメリカの友邦を勇気付け、アメリカの敵を恐れさすことになる
 勝利は、戦略的なオプションを広げ、敗北を排除することになる
 アメリカはイラクで勝利することができるし、勝利しなければならない(We can win in Iraq, and we must)

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